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ドラゴンキラー  作者: あびすけ
第四話 地獄に堕つ五芒星編 第三部【聖都落とし】
155/155

41 宿痾










〈41〉

 シュラマルは、ゆるりと二振りの刀を抜き放つ。


 心ノ臓の拍動が平生よりも一拍ほど速い。漆黒の獣皮の下の強靱な筋肉が、異常に発熱している。二刀を固くにぎる年古りた樫材のような指先が、僅かに震える。完璧な脱力によりなだらかな稜線をえがく剣豪の肩が、小刻みに上下する。左脚を大きく踏み出し、右脚を浅く退き、上体は半身、重心を落とす。大刀を把る長い左腕をだらりと前に垂らし、右腕は肘より軽く枉げ、小刀を水月のあたりで逆手に持ち替える。一分の隙も見当たらぬ黒狒狒の姿勢、全身が一振りの抜き身と相成る程に研ぎ澄まされた修羅の構え姿は、しかし、眼を凝らさずとも判るほど小刻みに身震いしている。


 震えている。ふるえている。


 それは、恐怖か? 掛け値なしの化け物を前に、シュラマルは恐怖に身を震わせているのか?


 ──否。シュラマルは震えてなどいない。断じて慄えてなどいない。


 心ノ臓の拍動が速いのは、昂揚しているからだ。肉体の異常な発熱は、全身を巡る血潮が滾り立っているからだ。シュラマルの身震いは恐怖によるものではない。黒き修羅たるこのさるに、そのような懦弱な感情は存在しない。


 シュラマルは、ふるえているのだ。嘗て相対したことのない化け物と対峙し、心が、魂が、抑えられぬ昂りに奮い立っている。そう、これは武者振るいだ。



 シュラマルは、すべてを視ていた。



 ただならぬ気配に惹き寄せられるようにシュラマルはこの区劃を訪れた。地震の如き烈しい震動が、敷き詰められたいしだたみを揺さぶっていた。建造物の崩壊する轟音が遠方より立ち上がり、上空は塵と砂礫に翳んでいる。事は、すでに構えられている。周囲には壁面が鏡のように磨き上げられた非常に高層な建造物が犇めき合っている。中のひとつを素速く登り、シュラマルは屋上より眼下を瞰下ろす。


 叫喚のような風のおらび。大気を引き裂く風切り音。熾烈極まる暴風が、視界すべてに吹き荒れている。


 暴風の中心に、シュラマルは二匹の獣の姿を見出す。翼、鬣、鉤爪──獅子鷲パズズ


 シュラマルは周囲を見廻す。暴風圏に接するように林立する建造群の外壁には、荒々しい疵痕が幾条も走っている。シュラマルの足許にも同様の疵痕が刻み込まれている。「窮奇カマイタチの類か」底深い侮蔑を籠め、シュラマルは吐き捨てる。吹き荒ぶ暴風は幾千もの刃と相成って暴風圏に存するあらゆるものを切り刻んでいる。建造群は瓦解し、地面は亀裂に被われ、巻き上げられた瓦礫はたちどころに粉微塵に吹き消える。「無粋な技だ」シュラマルは人のを思わせるあしゆびで地面の疵痕をなぞる。切り口は荒く、断面は粗雑、刃の切り込みも一定ではない。不快げに眉を顰め、シュラマルは鼻を鳴らす。「所詮は下品げぼんか。”斬る”ということをまるで解しておらんな」


 獅子鷲の技は凄まじい破壊力を以て一帯を蹂躙している。だが、斬魔剣術七代目当主たるシュラマルの炯眼を欺くことは出来ない。一見、獅子鷲の放つ風の刃は鋭利な切れ味を呈しているように映る。しかしその実、風の刃は精霊の風力を利用し強引に建造物を切断しているに過ぎず、刃自体は眼も当てられぬ程のなまくら、術理は低劣な窮奇、シュラマルの操る”気刃キジン”の斬の冴えとは、文字通り雲泥の差。「大閻浮提だいえんぶだい異生いしょうを相手取るには事足りるとしても、それ・・には通じぬぞ」シュラマルのひとみは、すでに獅子鷲を視ていない。殺意に縁取られた猴眸さるまなこが睨み据えるのは、獅子鷲と対峙するひとりの人間──いや、違う。あれは人間ではない。シュラマルには判る。人の形代かたしろに己を抑し込んでこそいるものの、その正体は、間違いなく化生けしょうの類。「オドの過多のみで力量を測るから見謬る」シュラマルは刀の柄頭に右掌を掛け、死相の泛ぶ二匹の獣の面容を一瞥する。「気づけ。それ・・は貴様等の手には負えんぞ」


 そこから先の展開は、もはや説明するまでもないだろう。


 烈風、怒声、変貌、竜巻、そして赫き刃。


 一撃目で獅子鷲の長兄が死に、二撃目で次兄が消し飛ぶ。


 聖都に刻み込まれた、二条の爪痕。


 理から外れた魔力。圧倒的な武威。言語に絶する火力。超越魔物トランシュデ・モンストルの基準から見てさえ、明らかに個が保有するには強大すぎる力。


「……さしずめ鬼神オニガミか」奇しくもシュラマルの眼力は、男の本質を看破する。


 己が齎した災禍の痕跡など一顧だにせず、男は踵を返す。

 

 男の動きを、シュラマルの眸が追う。


 ──挑めば、死ぬ。


 左掌で顎先を撫でながら、シュラマルは想う。対手あいての力量は、文字通り懸絶している。万に一つも勝機は無い。無論、ただで殺されるつもりはない。一矢報いる自信はある。斬魔剣術の総てを曝け出し、己が術腕に当主としての誇りと魂を賭け、夜叉丸様の定めた禁戒にそむけば、あの鬼神にそれなりの傷手を負わせることは可能。あるいは、腕の一本程度ならば落とせるやも知れん。──だが、それだけだ。アレを殺すことは出来ない。アレには勝てない。


「……犬死にか」呟き、ゆるりと黒狒狒は背を向ける。シュラマルには、残り少ない余命の内に遣り遂げねばならない責務がある。〈無羅獅鬼鷹ナラシキダカ〉を一族の許へと持ち帰り、己が術腕を極限まで磨き上げ、黒狒狒流斬魔剣術七代目当主として、その魔技を、更なる高みへと押し上げねばならない。もとより勝敗の決している死合いに身を投じ、無惨々々むざむざ醜態を晒す真似など出来ない。そのような愚を犯すには、シュラマルはあまりに多くのものを背負い込み過ぎている。


 だからシュラマルは背を向ける。


 まだ、死ぬわけにはいかない。今はまだ、その刻ではない。


 己を納得させるように、シュラマルは胸中で云い聞かせる。


 今は、まだ違う。今は、まだその刻ではない。


 そう、今はまだ──


「……退く?」


 だしぬけに、シュラマルは立ち止まる。


「……この俺が、退き下がる?」


 愕然としたような黒狒狒の声色。


「……この俺が、踵を返す?」


 卒然と胸中に飛来した激情に、シュラマルは魂を掴まれる。


「斬魔剣術当主たるこの俺が、魔技の極致を目指すこの俺が、刀も抜かず、敵に背を向け、阿容々々おめおめげ帰る?」


 ──あれ程の”魔”を前に?


 刹那、黒狒狒の姿が屋上から消え、


「あり得ぬだろう」


 男の背後へと、シュラマルは降り立つ。


 立ち止まり、男はゆっくりと灰色のこうべを廻らす。


「何のつもりだ」


 答えず、シュラマルは腰の二刀に両掌を掛ける。


 分厚い掌が、刀の柄を、強く把る。


 ゆるりと、シュラマルは二振りの刃を抜き放つ。


 指が、肩が、胴が──黒狒狒の躯が、小刻みに上下する。奮える。振るえる。それは武者振るい。


 昂揚している。滾り立っている。


 腰を落とし、左掌の大刀をだらりと垂らす。右掌の小刀を逆手に持ち替え、シュラマルは脈脈と受け継がれし斬魔の構えをとる。


 此方を射竦める鬼神の赫き双眸を、シュラマルは抜き身の鋭さを湛えた猴眸さるまなこで真正面から睨み返し、重々しい錆声で、一言、


「……試したくなった」


 瞬間、シュラマルの躯から奮えが消える。脈拍はしずまり、血潮は鉄の温度となる。呼吸はなめらかに、余分な力は抜け落ち、冬の暁闇を思わせる無欠の静謐が、黒狒狒の四肢に自若の霜を下ろす。


 一分の隙も無い、完璧な構え姿。淀みなく経絡を廻る針のように冴えるオド。その様は、さながら真鉄より研ぎ出された一振りの白刃。

「……死合え、鬼神」


「お前、視ていたな」男は崩潰を免れた街衢に犇めく塔のひとつを一瞥し、「視ていてなお、俺に挑むつもりか」


「だからこそだ」両腕の先で揺れる修羅の二刀が、陰惨な光を放つ。「斬魔剣術に於いて”魔”とは、己以外すべてを差す。貴様程の”魔”を斬らずして、何が斬魔剣術であるものか」錆声が、再度重厚な音調を響かせる。「さあ、剣を構えろ。そして死合え、鬼神。俺の術腕を試させろ」


 殺意に縁取られ鋒鋩ほうぼうの如き瞳孔をひたと鬼神に据え、シュラマルは対手の出様を待つ。


 力量を見定めるように黙然とシュラマルをみつめていた男の貌に、不意に興めいた感情の漣が起こる。「なるほど、確かにお前は先刻殺した雑魚共とは格が違う」ゆっくりと、男はシュラマルに向きなおり、「今の俺は戦いを愉しむ気分じゃない。だが、お前ほどの魔物の挑戦を無下にするほど、俺も無粋ではない。──いいだろう。対手をしてやる」浮き出す血管、爛れる眼球結膜、赫い火花、緋の稲妻。立ち上る薄霧は密度を増し、男の右掌が握る剣の魔水晶が鮮烈に赫く。男は変貌していく。眸に、再び禍々しき〈ルド〉が迫る。「誇りに思え。俺が開幕から魔力を完全解放するのは、目醒めてからお前でふたり目だ」


 男の内奥から赫い魔力が爆発的に澎湃する。


 緋色の翼が蒼穹を灼き焦がすように展張する。


 魔水晶の先端より爆出した赫き奔流が、空間をねじ曲げる程の超高密度魔力の剣身──〈赫刃〉を形成する。


 顕現した赫い鬼神を前に、シュラマルは一切怯むことなく間合いに踏み込む。


 大刀と小刀、二振りの妖刀より神速の魔技の一閃を、シュラマルは放ち──


 だが、そのような戦いは起こらない。


 鬼神は魔力を解放していない。シュラマルは魔技の一閃を振るっていない。


 戦いの火蓋が切られる、その寸前、


 ──血。


 シュラマルの足許に、朱黒い血の塊が落下する。血の塊は地面にぶつかり、大きく破裂し、血飛沫が黒狒狒の足許を汚す。


 カツンと、場にそぐわぬ玲瓏な音が響く。鋒と甃がぶつかった音。シュラマルの取り落とした二振りの刀が、赤黒い血溜まりに倒れ、その刃が朱々と濡れる。


 シュラマルは片膝をつく。こうべを垂れるように倒れ込む上体を左腕で支え、右掌を左胸に宛がう。肋骨の内側で心ノ臓が、狂ったように暴れている。呼吸が浅い。肺臓が膨張と収縮を高速で繰り返す。樫のような指先が、漆黒の獣皮越しに左胸に喰い込む。口中を充たす鉄錆。胸部を打ち据える重い劇痛。烈しく噎び、


「……昂りすぎたか」


 喘鳴と共に絞り出し、左胸をさらにつよい力で鷲摑む。


 シュラマルの抱える宿痾。心肺を蝕む重い痼疾こしつ


 頭上から、翳が落ちかかる。


 シュラマルは貌を上げる。


 鬼神が、しずかに彼を見下ろしている。


 シュラマルは肺腑の底からすべての息を吐き出し、無理矢理に呼吸を整える。口中の血を唾し、口許の血糊を乱暴に拭い、いまだ左胸を留まる劇痛を押して胡坐を掻く。長い両腕を膝の上に置き、両掌を無防備に上向け、再び眼前の鬼神を見上げ、


「──斬れ」


 云い捨て、シュラマルは運命を甘受するようにこうべを垂れる。


「何のつもりだ」男は僅かに眉を顰め、「お前ほどの魔物が、無様に殺されることを選ぶか」


「勝敗は決した」シュラマルの双眸は、前方の一点、血溜まりに沈む二振りの刃を瞶めている。三尺を超える刃渡りに兇暴な逆乱刃文を描く大刀〈骨狩ホネガリ〉。薄ら氷の如き透徹した美を湛える小刀〈朧爪オボロヅメ〉。斬魔剣術当主は、地位継承の折りに一族の刀蔵かたなぐらより二振りの妖刀を選び取ることを赦される。刀蔵にずらりと本身を連ねるのは、十三振りの大刀と、同じく十三振りの小刀。嘗て夜叉丸の率いた斬魔殺戮十三人衆、その猛者どもの愛刀計二十六振りすべてが、そこには収められている。その中よりシュラマルが選り出したのがこの〈骨狩〉と〈朧爪〉。黒狒狒にとって刀とは魂そのもの。ましてこの二刀は、千年を超える斬魔剣術の歴史の、その血と殺戮の象徴でもある。その刀が、目の前に転がっている。己の血にまみれ、無様に捨て置かれている。


「……俺は、取り落とした」


 シュラマルの拳から、血が流れる。俯く猴の唇から、新たな鮮血が滴り落ちる。無意識の内に固められた拳の指先が、分厚い掌に喰い込んでいる。忸怩に咬み締められた唇の皮膚が、大きく裂けている。


 ──挑んでおきながら……


 シュラマルの肩が、抑えられぬ瞋恚に打ち震える。


 ──当主としての責務を抛擲してまでこの鬼神に挑んでおきながら、取り落とすなどと……


 勝てないことは判っていた。万に一つも勝機が無いことは、最初から判っていた。だが、知りたくなってしまった。眼前の鬼神を対手に、斬魔剣術がどこまで通じるのかを、夜叉丸様が編み出し、黒狒狒の一族が千余年に渡る蠱毒によって研ぎ上げた修羅の刃が、この禍々しき化け物に何処まで斬り込めるのかを、斬魔剣術当主として、歴代最強の使い手として、何より剣の道に総てを捧げてきた一匹の猴として、シュラマルは知りたくなってしまった。試したくなってしまった。──だというのに、シュラマルは刀を取り落とした。敵を前に膝を付き、見るに耐えない醜態を晒し、何があろうと手放してはならない黒狒狒の魂を、羅狒魁ラヴァナの誇りを、肺腑の発作程度で取り落としてしまった。


 赦すことなど出来ない。シュラマルは、己自身を到底赦すことなど出来ない。


「尋常ならば腹を斬る。だが、斬魔剣術当主たる俺に自刃は赦されておらん」黒狒狒の渠魁たる者、常に戦場で最期を遂げるべし。シュラマルは意を決したつよい貌つきで鬼神を見上げる。「──だから、斬れ。貴様の刃で俺を戮せ」


 黒狒狒の眸と、鬼神の赫き双眸が交差する。


 双方の間に異様なまでの静寂が垂れ込める。


 完璧な無音。塵の落ちる音さえ、両者の鼓動の音さえ耳に届きそうなほどの、無欠の静寂。


 異常なまでに張り詰めた、それは濃密な数秒だった。


「──誇りか」男が謐かに口を開く。「誇りの為に死を選ぶか」


「命を掛けられぬ誇りに何の意味がある」確然と、シュラマルは断じる。「殉じる覚悟があるからこそ、俺は斬魔剣術を背負った。貴様ほどの”魔”に戮されたとあれば、一族への申し開きも立つ」


 男は、シュラマルの貌を瞶め続ける。


 覚悟の決まった壮絶な面魂。死を是としてなお双眸に漲り立つ、研ぎ抜かれた殺意と闘志。


 男は──サツキは、そこに”狂気”を視る。


 混じりけなしの、純水のように透徹した、抜き身の狂気。


 それは、見覚えのある狂気ではなかったか。あの日、ユリシール王国の禁足地で、始祖の姫君は蒼い双眸に同様の狂気を湛えてはいなかったか。あの夜、鬼神の赫刃を真正面から受け止めた一匹の狼は、同種の狂気でその身を滾らせ、最後までサツキに牙を突き立てたのではなかったか。そして何より、サツキ自身が身の内にそのような狂気を──


 不意にサツキは踵を返す。魔剣を腰帯に戻し、悍ましき変貌を収め、歩き出す。


「……どういうつもりだ」重々しい錆声が、背より投げ掛けられる。刺すような怒気が声尻に滲んでいる。「まさか、情けをかけるつもりか」


「勝敗は決した。お前の言葉の筈だ」


「だからといって俺を見逃すと? そのような手合いだとは思えん」


「この様な結末は、お前としても不本意な筈だ」


「何が不本意であるかは俺が決める」


「俺には俺の理由がある」サツキは足を止まる。「お前の躯に残る魔力残滓には覚えがある。──お前、カラミットを殺しているな」サツキの脳裡を一匹の飛竜の姿がよぎる。白竜の懐刀と呼ばれた、赤銅色の一匹の巨大な飛竜。「奴にはモラルドの借りがある」サテルメージャ殲滅戦に於いて生体兵器は12体の戦死者を出している。〈№126〉カイ。〈№99〉エッベ。〈№94〉ミファー。〈№38〉シーガ。〈№19〉フィオレーネ。〈№107〉レギル。〈№61〉ルカ。〈№102〉エルフリーデ。〈№57〉ジュリ。〈№22〉レックス。〈№81〉ギド。そして〈№114〉モラルド。モラルドは、〈濃血の飛竜カイト・ワイバーン〉カラミット率いる竜血族ドラグレイドの軍勢との戦いにより、その生命いのちを全うしている。「そのカラミットを、お前は殺した」ざらついた声は重々しい沈黙を差し挟み、「俺がお前を見逃す理由としては、これで充分だ」


 サツキは振り返り、


「消えろ」最後の一瞥をくれ、サツキは黒狒狒の前から歩み去る。「覚えておけ。次挑めば殺す」


 ざらついた声が、黒狒狒の耳朶に無情な余韻を残す。


 シュラマルは微動だにせず、遠ざかる鬼神の背を目線で追う。やがて男の姿は散乱する残骸と漂う砂煙の向こうへと紛れ、その奥へと立ち消える。シュラマルは網膜に焼きついた男の残像を射貫くように睨みつける。男から漏れ出た緋色の魔力が薄靄のように揺曳し、残像に禍々しき色を添える。しばし擱座したはしけのように凝然としていたシュラマルは、不意に肉叢から力を抜く。暗澹たる視線が辿るのは、無様に捨て置かれた二振りの刃と、己の汚点を顕顕まざまざと見せつける忌々しい血溜まり。口許を拭った際にべったりと付着した血痕が、右掌で朱黒く凝固している。シュラマルはその血痕を力任せに握り潰し、自嘲と共に吐き捨てる。

「……死に損なったか」






     *****






 唐突に、空間が内側より破裂する。


 硝子張りの大扉が砕け散ったように、微細な透明の欠片が四方八方に飛び散り、満天の星影のような燦めきを放つ。


 空間に生じた大穴、その中から、蒼鎧と銀鎧、巨刃と聖刃、魔人ザラチェンコと聖騎士アルトリウスが、ル・シャイル広場へと落下する。









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― 新着の感想 ―
今後シュラマルがどう動くことになるのかな?ギグが持ってる刀のこともあるので、気になりますね。 次は復讐の決着ですねどうなることやら。ワクワクが止まりません!
更新ありがとうございます!シュラマルの独白から、おおよその強さとしては、やはり 黒竜, サツキ > [超えられない壁] > ギグ > シュラマル, 覚醒ガルドラク > [超えられない壁] > その他の…
シュラマルは病で一瞬躊躇ったのを恥じて1人の剣士として挑もうとした。そしてこういう言動サツキ嫌いじゃないよなと思ってたら見逃したか。最終的にシュラマルどうなるか楽しみですね(クシャルネディアなら病どう…
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