ハッピーエンドは年下彼氏と共に歩く未来を願う~後編~
はじまりは、少し肌寒い桜の季節だった。
「困りごとはなんだい?」
と、泣いてた新入生に声をかけたのがはじまり。
生徒会の人員不足で駆り出された、ちょっとした校内パトロール。そんな中で見つけた涙目の綺麗な男の子。
昔の私に言ってやりたい。
その子、実は未来の彼氏になるんだぜ、と。
……んなこと言われても、当時の私は絶対に信じはしなかったろうが。
自分でいうのもなんだが、面白いことは大好きだけど、面倒くさいことは大嫌いなのだ。
あんな誰もが目を奪われる超絶美少年と関わったら、本気で色々と面倒くさいってのが丸分かりだったのだ。
ちょっと仲良くなるだけで、女子生徒の注目やら妬みやら色んなものを頂戴するとか予測できるし。
あの時も本能で感じていた筈だ。この子に関わったら、絶対に面倒くさいってことは。
なのに、向こうの熱意溢れんばかりの突撃と、よく分からないセクハラまがいのハグと、ひょっこり助けたら見せた嫌そうな表情。
――――そして、無言で背中にすがってきた、あの秋の放課後。
手詰まりだったくせに素直に助けを求めて来ない意固地な姿に、思わず自分の中で取り決めていたラインを越えて、いつもはしない過剰な手助けをしてしまったあの時。
私は、彼を、選んだのだと思う。
昼休みの遭遇から、放課後までの時間をゆっくりと校内を散策して過ごす。
授業中とは打って変わって、廊下にはそこそこの生徒の姿がいる。
自宅に帰る子、部活や委員会に向かう子、放課後を友達と過ごす子。
そんな生徒たちの姿を横目に一般教室のある廊下を通り過ぎ、生徒会室近くまで足を向ける。
「見つけた」
目当ての人物の背中を発見する。
うまい具合に、他の生徒の姿も見えない。絶好のチャンスである。
さて、本日のミッション、本格始動させますか。
できるだけ、気配を殺して間合いを詰める。
この二年で身長を追い抜かれる程成長をした逞しい背中をロックオンする。
そして、いつぞやの仔猫ちゃんのように、
「せーんぱい」
と、背中から抱き着き、腰に手をまわし肩口に額を押し付ける。
びくりと一瞬だけ驚き、抱き着いたのが私だとすぐに認識できたのか、重たいため息をつく蔵人くん。
「……何がしたかったのか、きいてもいいですか?」
「ん? 君の真似っこ。よくこうして抱き着いたじゃない?」
私の返答に押し黙る蔵人くん。
真似といっても、あの時の君がどういった心根で、私にアタックをかましていたのかまでは分からないんだけどね。
分かるのは、飽きもせずに私の姿を捜しだし、強烈な存在感を示していたことぐらいだろうか。
あ。あとは、本当のセクハラにならないように、腕をまわす位置をきちんと考えてくれていたことか。
「取りあえず、離れましょうか」
ぺちぺちと軽く腕をはたき、離れるように促される。
腕をほどくと同時に、くるりと向きを変えると、複雑そうな表情で蔵人くんがこちらを見つめてきた。
「去年は同級生として乱入したので、今年は後輩として参上仕りました☆」
あまりにも難しそうな顔をしてたので、その雰囲気を払いのけるためにお茶目にこの格好の説明をしてみる。
いや、単に私服は目立つだろうという理由なんだけどね。変装まではしたのは大いなる遊び心からだけど。
普通に登場したのでは、詰まらないではないですか。せっかくのお日柄なのだから、昨年までとはいかないが、はっちゃけないといけないだろうという無駄な使命感がありましてですね。
「……後輩、ですか」
蔵人くんが額に手をあてて、小さく唸る。
うん。そんな君の姿が見たくてやったとか心のままに言ったら、さすがに怒られるだろうな。
「新鮮だったでしょ? というか、食堂での本人確認の方法に異議あり!」
あんなズルい方法とらずに、正々堂々と気付いてほしかったです。
「いや、だって、間違ってたら、恥ずかしいじゃないですか? 明子さんがいる筈ないって、普通は考えますから」
「いますけど、ここに」
私を誰だと思っている。普通が通用しない女だぜ? いい加減分かってきた筈だろう?
「そうですね、貴女はそういう人でしたよね。狙っての、今日、ですよね?」
蔵人くんの回答に笑みを浮かべる。
勿論狙っての、今日、という日の襲撃である。
前振りも頂いたことだし、用意していたブツを取り出し、蔵人くんの目前に突きつける。
「はい。ハッピーバースディ、蔵人くん」
手のひら大の可愛くラッピングされた箱を受け取り、律儀に小さくお礼をいってくる姿に微笑んでしまう。
放課後に駅前なんかで待ち合わせをしてもよかったのだけど、君と出会ったこの学校で渡したくて、制服まで用意して侵入してしまったという。
「開けてもいいですか?」
「どうぞ?」
丁寧に包装紙を破らないように開ける様に、私なら絶対に豪快に破いてるなと感想を述べておこう。
箱の中から現れた物体を見て、予想通り固まる蔵人くん。
「………………………これってまさか」
ありがとう、見たかった反応そのものが見れて大変満足です。本当にありがとう。
「えっとね、一応バイト代の三か月分、かな?」
「は?」
その物体を開け、中身を確認して、さらに固まる我が彼氏。
その目前に、自分の左手を突きつけてさらに追い打ちをかけてみる。
「じゃーん、勿論お揃いでっす」
薬指に光る銀色のリングがキラッと光る。
甘さを控えたシンプルなシルバーリングは、中央にひねりがあるデザインのもの。
「も、もしかして、出かけた際に一切装飾品に興味を示さなかったのは……」
イエス、マイハ二―。
下手に反応して、先にプレゼントされたら計画が水の泡になるので、我慢してました。
ついでに誕生日にペアリングを贈ると企んでからは、デートの際の服にもあえてアクセサリー類は付けずに、あんまりアクセに興味ない子を演じてましたとも。
実はシンプルなものなら、結構アクセサリーとかは大好きなんです。
「高校の間はいいけど、大学入ったら虫よけにちゃんと付けてくれると嬉しいな」
「虫よけって。……必要ないと思います」
左手を掬い取られ、指輪のはまった薬指に口づけが落とされる。
「僕の予定では、明子さんとずっとお付き合いする心づもりなんですけど」
「それでも、不安なんですー。蔵人くんってば、見た目がすこぶるいいから心配なんですー!!」
さりげなくされた口付けへの照れ隠しも兼ねて、無駄に抗議しておく。
「心配、ですか?」
きょとんと首を傾げる様さえ、カッコいいのだから、心配も当然である。
好かれている自信はあるけど、乙女心は複雑なのです。いや、ほら、こんなこと私に思わせてる蔵人くんって本当にスゴイと自分でも思うし。
「今後も余所見はするつもりはないので、心配は不要ですよ。でも、せっかくなんでこれは謹んで頂戴します」
ケースから指輪を取り出し、同じように自身の左手の薬指へ嵌めてくれる。
「ただし、今後、必要となる指輪は僕が用意しますからね」
宣言してくれる内容に、さらに笑みが深まる。
今後ってのはアレ、だよね。
「今後?」
「今後です。というか、二人でちゃんと見に行きましょうね。普通、こういうのって彼氏が用意するものですよね?」
「えー?? 雅さんにきいたら、女の子からも有りって言ってたよ?」
「そ、れ、で、も、僕が用意したかったんです。……興味なさそうだから遠慮してたのに、こんなプレゼントとか」
むーんと難しい顔している蔵人くんにの頬を、つんつんとつつく。
「取りあえず、今回は私の作戦勝ちということで」
「……僕の負けのが、明らかに多い気がするんですけどね」
「いえいえ。以前に比べたら、勝率上がってるって。まだまだ今後も色々なイベントがあるんだし、期待してるから」
「そう、ですね。先はまだまだ長い、ですもんね」
ふわりと優しい笑みを浮かべて、指輪を嵌めた手で、いつもとちょっと違う髪形の私の頭を恐るおそる撫でてくれる。
同じように、一緒にいる未来を見据えてくれる蔵人くんにぎゅっと抱き着く。
以前は抱き着いたら全力で抵抗されていたのに、今ではしっかり受け止めて、抱きしめ返してくれる逞しい腕。
「蔵人くん」
顔を上げて、いつの間にか素敵な彼氏さんへとクラスチェンジした後輩へを呼びかける。
「大好きだよ。これからも、ずっとよろしくね」
この先もずっとずっと、君の隣で歩いて行けるように、私は想いと願いを口にした。
これにて、明子と蔵人の話は完結です。
ここまでお付き合いいただきまして、誠にありがとうございます。




