夏休み前の後日談~たった一度きりの魔法を君へ~
いつもより、少し短めです。
後日談という名の、秋話へのプロローグです。
何でも屋の役目をかさねくんに引き継いで数日後。
引退といってもまだまだ引継ぎしなくてはならないあれやこれやがあるわけで、完全に何でも屋関係の仕事がなくなったわけではないのだけど、今までに比べるとかなりの時間を持て余すわけでして……、手持ちぶさたな私がここにいます。
なら、その空いてる時間で受験勉強をしろということなんだろうけど、勉強漬けになるのは夏休みに入ってからと以前から計画をしているわけですよ。それに、ちゃんと自宅で勉強してるんです、これでも。やることはきっちりやってるんですよ?
まだ、帰宅するには早い時間だし、もう少し、学校で何かしたい。
……ちなみに、勉強以外で。
「よし。見納めにはまだまだ早いけど、校舎内散歩でもしますか」
いつも校内の移動は秘密通路を使用してショートカットをしまくっていたので、久し振りにズルなんてせずに、普通に廊下を歩いてみますか。
第一校舎を三階から一階へ。
たまに顔見知りとすれ違って軽く挨拶を交わしながら、ぶらりと校内を散策する。
所々にある秘密通路の入口を通り過ぎながら、普通の生徒と同じように校舎を歩く。そうそう、普通に歩いたらこれくらいの時間かかるんだったと、再確認してしまう。
ふと、中庭の方へ目を向けると、蔵人くんとかさねくんが演劇部らしき集団と何か話し合いをしていた。
おぉ、二人で仲良く仕事してるじゃないか。本人らは否定するだろうが、いいコンビなんだよね。
この時期に、生徒会と何でも屋と演劇部が顔を突き合わすということは……文化祭絡みの何か、かな?
視線を感じたのか、蔵人くんが私の方へと顔を向ける。
私のことは気にせずに仕事に集中しろと、軽く手を振りその場をすぐ離れる。邪魔をするつもりはさらさらないので。
が、すぐにスマホが何かの着信を告げる。
『もうすぐ終わります。いつもの屋上入口で待っていてください』
おいおいおい。
仕事中にスマホなんていじるなよ……と、笑ってしまう。
彼女としては嬉しいが、先輩としては複雑なんですが。
あと、蔵人くんや。
私は何でも屋を引退したので、あの屋上入口ってもう立ち入りできないんだけど……? ついでにいうと、君への秘密基地貸出期限も終わってるんだが、ご存じないのかな?
「あれ? 先輩。なんで階段下で待ってるんですか?」
勝手に侵入するのもアレなので、階下で待っていた私を蔵人くんが不思議そうに見つめる。
「いやいやいや。ここの貸出期限って、私が引退するまでって言ってたじゃない。すでに権限をかさねくんに譲渡した身なので、ここはかさねくん管轄の場所でしょうが」
「大丈夫ですよ」
蔵人くんは怪訝な顔をする私の手をとって、屋上入口へと足を進める。
「徳井とは取引きしましたから」
たどり着いた馴染みの場所は、今まで通り私が個人的に購入して蔵人くんへとそのまま譲ったラグマットや、クッションなどが何一つ変わらずにあった。
「……ありゃ? 引き払ってない??」
てっきり何もかも撤去されているものばかりだと思ったのに。
すすめられるままに定位置に腰を下ろし、蔵人くんの説明を待つ。
「先輩が卒業するまでは、ここをそのまま使用させてくれって頼んだんですよ」
学食のおばちゃんのハートを鷲掴みにしている我が校のアイドルは、これまたいつものように学食特製肉まんと珈琲を差し出してくれる。
……くっ、チャーシューまんもあるし! 私が行った時は、今日の分は完売って言ってくせに、おばちゃんの嘘つき!!
「ここは、僕にとって思い出の場所ですから」
蔵人くんがぽそりと呟く。
「……たぶん、来年度には新たな条件を付きつけて、徳井に言いますよ。僕が卒業するまでこの場所を貸し出してほしいって」
「私が卒業してもここに居付いちゃうか。……そっか、そんなにこの場所が君とって大事な場所になってるのなら、譲った甲斐があるね」
しんみりと何かとてもいい話をしてるが、どうしても私には確認しなければならないことがある。
「ところで、そのかさねくんとの取引きの内容をおききしてもよいかな?」
「……な、なんのことですか?」
蔵人くんが口元を引きつらせる。
想い出話に花が咲いちゃう、爽やかな方向に話をもって行きたがったに違いないが、そうは問屋が卸さんぞ。
「つい最近、私ってば蔵人くん経由でかさねくんから素敵なお手紙もらったじゃない?」
なんかさ、確か『果たし状』とか筆書きされたやつ。
案の定、栞や和子、会長や副会長にまで爆笑された、最高に素敵なお手紙。
がしっと蔵人くんの肩をつかむ。
「あれは、これが原因か?」
そういえば、あの日の報復をまだしてなかったよね、蔵人くん。
「時間は十分あったことだし、弁明の準備はできてるだろう。さて、存分に語るがいい」
「なんでそこまで根に持ってるんですか!? あのくらい先輩はどうってことないでしょうがっ。何が気に入らないんですか!! あそこまで渾身の力作を持ってこられたら、叩き返して書き直して来いとか言えるわけないじゃないですかっ!」
「かさねくんは、蔵人くんが文句も言わずに素直に受け取って、私の手にそのまま渡ったことに、逆にビックリしたとか言ってたけどね」
「は?」
かさねくんとしては、まさか本当に私の手に届くとは思ってなかったらしい。
その証拠に、手紙の最後に明子姉がもしもこれを読んでたら、マジでごめんっと一筆添えてあったという。
やけに神妙な顔で、蔵人くんが頼みがあると言ってきたので、ここは一つ試してやろうといたずらを仕掛けたらしい。取引内容については教えてくれなかったが、私が絡む内容の頼み事をオレが断るわけないのにねと軽く笑っていた。
「かさねくんに一泡食わされたね」
「はああああああああああああぁぁぁっ?!」
やっぱり、かさねくんが調子に乗った場合、まだまだ蔵人くんの手には存分に余るらしい。……うん、頑張れ。今回は君の負けだ。
「え、じゃあ、あの呼び出しって……」
「かさねくん的には特に特別なことじゃなかったんだけど、せっかくなので私がその機会を利用して、引継ぎとかしちゃったので特別仕様になったのかな?」
予定よりは少し早かったけど、かさねくんとゆっくり話せたので、本当にいいタイミングだったのには間違いはない。
ないのだが、目の前の蔵人くんの凹みように笑ってしまう。
確かに、蔵人くんにとってこの場所は特別なものなのだろう。
かさねくんは勿論だけど、私にも本当のところは、きちんと理解はできないくらいの何かがこの場所にはあるに違いない。
だって、鼻持ちならない後輩であるかさねくんに、先輩である蔵人くんが頼み事にしにわざわざ行ったのだろうし。
「レンタルの期間延長されたことだし、前みたいに時間の許す限りここに通うよ」
だから、今回みたいに学食メニューをテイクアウトしてきてねっと笑いかける。以前の君と違って、今の君なら私の好みを十分に理解してるだろうから、私を呼び出すなんてお茶の子さいさいだろう。
「……卒業するまで、ですよね」
「そりゃ、卒業してからだど、私でもここに通うのはかなりの難易度だよ。やれっつーのなら、頑張るけど」
どの辺のツテを使おうかな。度が過ぎると、先生にお小言を言われるかもしれないが、およびとあらば参上仕りますよ?
「……大丈夫です。こっちの方から、会いに行きますし。でも、」
「ん?」
「こういう時、学年が違うのって……歯がゆく思います」
同学年なら、もう一年間一緒に居られるのに……。
小さな囁きは空気に溶ける前に、私の耳にかすかに届いた。
「たまに、先輩ともしもクラスメイトだったらって想像しちゃうんですよね。体育祭とか、修学旅行とか、すごく楽しいだろうなって」
仔猫は、淋しそうな横顔で叶いもしない願いを呟く。
ふむ。
さすがに、年の差まではどうにもならない。
たかが一歳。されど一歳。社会に出たらささやかな差でも、学生という身分にとっては大きな違いとなる。
蔵人くんのために留年するわけにはいかないわけでして、でも、卒業が近づく度にこんな顔をさせるのは大変不本意だし。
――――あ。
ふと、考えあぐねていたとある権限の使い方を思いつく。
他人のために使用するのかと、怒られそうな気もするが、まわりまわって私のためにもなることだし、なんとかなるであろう。
だって、好きな人には笑顔でいてもらいたいじゃないか。
色々と面倒な手順が待っているだろうけど、それをする甲斐はある。無茶を通すのは何でも屋時代に何度もやったしね。
夏休みという準備期間もあることだし、あらゆる方面への根回しもある程度可能だろう。
よし、決めた。
「蔵人くん」
今は、まだすべてを教えれないが、君にそんな顔をさせないために、ちょっくら色々と頑張ってみようと思うわけです。
「君のために、ちょっとした魔法を使おうと思うのだけど、二学期を楽しみにしてもらっててもいいかな?」
「え?」
「たった一度しか使えない、特別な魔法を君に見せてあげる」
さて、次は秋話。
主人公がはっちゃけますよーw




