春の後日談2~ダブルデートは波乱万丈!?~
「ついに、この日が来てしまったか」
「……そうですね。来なければいいのにって、星に願いをかけましたが聞き届けてはくれなかったですね」
はい。
ついに来ましたよ、ダブルデートの日が。
あの生徒会長と、副生徒会長カップルと一緒にお出かけの日ですよ。
甘酸っぱい雰囲気がひとつもなく、蔵人くんと私の間には今からの戦いに向けての緊張感と悲壮感しか漂ってこない。
待ち合わせ場所である、某大型ショッピングモールへと蔵人くんと二人で重たい足取りで向かう。
面子が面子なだけに、普段よりもお互い気合を入れた服装をしているのだが、敵の強大さにぶっちゃけそれにときめくどころではないのが悲しい現状である。
……心にね、余裕がないんです。
「取りあえず、昨夜打ち合わせた通り、まず屋上のビュッフェでランチタイムといこう。時間制限がないとこだから、あそこでゆっくり食事からデザートまで楽しんだら、ある程度の時間は稼げるはずだ」
「二時間……まではいかなくても、そのくらい頑張って居座りましょう。会話のネタはある程度用意してるし、共通点は多いから弾ませやすいでしょうし。……っていうか、なんで僕たちがデートコースを全部決めなきゃいけないんですか? ダブルデートってことはお互いに楽しめる要素が必要だと思うんですけど、全然楽しくないんですけど!!」
本当にそうである。
今回のデートって、こちら側に何も旨みがない。
この一週間、私たちの間にあったのは予定を楽しむためではなく、いかに平和に終わらせるかを念頭に置いた切ない話し合いだけだ。
「なんであの人たち、自分たちの行きたい所を素直に教えてくれないのかな? 試してるのかな、私たちの事。何か気になる場所はありますかってきいても、お任せするわねって躱しやがるし」
「一般的なデートコースでいいよとか、すっごく雑なオーダーしかしてこないって、あの人たち普段仕事できるくせに何考えてるんですか?」
何も考えてないに違いない。
日にちは決定してくれたが、それ以上のことはそっちで決めてねって、楽しすぎなんじゃあないですかね?
「丸投げするにしても、程があるよね。しかも、うわぁ……待ち合わせ場所に、もう二人ともいやがるし」
「勘弁してくださいよ。まだ十五分前ですよ。なんで僕たちよりも早いんですか」
待ち合わせになっているショッピングモールの南側入り口にある噴水前。
本日の同伴者である生徒会長と、副会長が仲良く並んで私たちを待ち構えていた。
「あら、早いわね」
「こ、こんにちわ。副会長、……と会長」
「央守さん? 学校の外なのよ。その呼び方はやめてくれる?」
黒岩居作哉、明石真維というお二人にはそれぞれ素敵なお名前があるのは存じております。
蔵人くんはさずがに、下の名前までは知らないかもしれないが。
「明石さん」
「なあに、央守さん?」
「黒岩居くん」
「なんだか央守くんに苗字で呼ばれるなんて、新鮮な感じだね」
試しに呼んでみる。
が、
「うわああああああああああ。違和感が半端ない! すんません、無理です」
「……先輩。副会長とはクラス同じなんですよね? 普段どうしてるんですか」
蔵人くんがかわいそうな子を見るような目を私を向けてくる。
「どうしても必要に駆られた時は、割り切って明石さんって呼んでるけど、私の中では副会長はリーダーで副会長なんだもん!!」
「………………央守さん、もういいわ。私の負けよ。好きに呼んでちょうだい」
「はっ!? 明石副会長って呼ぶのはいけるかも」
「「いや、本当にもういいから」」
副会長と生徒会長の二人は何かをあきらめ、私にひどく醒めた目線を寄こしやがった。
……なんだろう、何かの勝負に勝った気がするのに、なんでこんなに切ないのだろうか。
作戦通り昼食で二時間ばかり時間を稼ぎ、その後はゲーセンのクレーンゲームで会長と私が景品の獲得数を競ったり、雑貨屋で蔵人くんと副会長が新作の小物について熱く語り合ったりして、なんだかんだとダブルなデートを楽しんでいた。
うん、ちょっとそこ、組み合わせがおかしいだろうというツッコみはしないでくれ。私も途中で、アレ? とか思っちゃったけど、気づかないフリしたからね!
モール内を散策する途中で、副会長がインフォメーションボードの所で足を止めた。
「あら。期間限定で移動式お化け屋敷があるみたい」
副会長のことばに、どきりとする。
うわーん、気づかれた。私、ああいったお化け屋敷とか大嫌いなのに。
ここをデートの場所に決定するのに、私が唯一懸念したとこを、見事に副会長がつついてきやがった! 待ち合わせ場所とかを誘導してお化け屋敷の存在に気づかれないようにした筈なのに、イベント告知のポスターまでは念頭になかったよう。
「面白そうだね、真維、行ってみるかい? お化け屋敷なんて久しぶりだね」
「央守さんと、木屋くんはどうかしら、行ってもいいかしら?」
「僕は別に大丈夫ですよ。先輩はどうです?」
ポスターの内容を確認した蔵人くんが、私を振り返る。
「…………私も、別に大丈夫ですよ。場所はどこなんですか?」
あの二人には、絶対にばらしたくない。私の苦手なものを。
ここは耐えよう。
移動式のお化け屋敷というくらいだ、規模もクオリティもそこまで高いものではないだろう。
ほんのちょっとの辛抱だ。
頑張れ、私。
「正面の入口を出た所でやってるみたいだね。移動しようか」
そして、たどり着いた先にあったのは、おどろおどろしい血文字ででかでかと書かれた看板。
『絶叫!! 恐怖の怪談、たたり子ちゃんの復讐~赤い血の海に浮かぶ鈴の謎を解け~』
たたり子ちゃんってなんだよ、そのネーミングどうなの? と軽く考えたが、お化け屋敷のスタッフさんが手渡してくれたチラシを見ると、
「へえ。ちゃんとストーリーがあるのね。昭和三十四年、S市の小学校で起こる不可思議な連続事件ねえ」
チラシの最初に書かれているのは、たたり子ちゃんに関するショートストーリー。
え、ちょっと、この作家さん某有名なホラー作家じゃね?
何、こんなちっちゃなとこで仕事しちゃってるの?
あなたみたいな大御所は、映画とかドラマとかのお仕事とかしててくださいっ!!
「中の様子の一部があそこのモニターで見れるようになってるんだね。うわ、結構作り込んでるし、もしかしてスタッフさんがお化け役で直接脅かしてない?」
入口に取り付けられているちっちゃなモニター……何気に雰囲気出すため、ブラウン管モニターだし……には中の様子が映し出されている。
やべー、これマジでガチなやつだ。
……無理。
絶対に無理。
「えーと、なになに……たたり子ちゃんの怒りを鎮めるためには、どこかにある白い鈴を見つけだし、出口付近にあるたたり子ちゃん地蔵の首にかけなければならないと。アドベンチャー要素もあるのか。すごいな」
あんな暗い中で探し物しろとか無理だろ。
しかも、たたり子ちゃん地蔵ってなに?
かけた瞬間に絶対に最後の大きな仕掛けで、バーンとか、ドーンとかあるんでしょう?!
入りたくないよー。
「よし、じゃあ行ってみようか」
いーやーだー!!
表情には一切出さないように、心の中で叫びまくる。
「お次の客様どうぞ」
二十分程度並ぶと、ついに順番がまわってきた。
「では、当お化け屋敷の説明をさせていただきます。チラシにも書いてますが、中でこういった白い鈴を見つけていただくのが第一の目標です」
スタッフさんは赤い紐でつながれた、親指の爪先くらいの大きさの鈴を見せてくれる。
「そして、出口付近にたたり子ちゃん地蔵がいますので、そのお地蔵さんに鈴をかけてあげてください。それで、任務終了です」
「所要時間はどのくらいなんですか?」
「ルートがふたつありまして、標準ルートだと二十分程度。謎解き多めの七不思議解明ルートだと、四十分くらいですね」
「あら。楽しそう、七不思議の方に行きましょう」
副会長がキラキラした様子で、会長におねだりをしている。
げ。マジで勘弁してください!!
「なら、僕たちは標準コースに行きますよ。せっかくのデートなんです、こういうのはカップルごとに行きましょうよ」
蔵人くん、グッジョブ!
いや、そもそも入らないのがベストなんだけど、取りあえずありがとう!!
「そうね。そうだったわ。あなたたち、カップルになりたての初々しい時期だったわね」
「……えーと、まあ、そういうわけなんで、はい、別行動でお願いします」
誘導され中を少し進むと、まずどちらのルートにいくのかの分かれ道になっていた。
「じゃあ。僕たちの方が長くなるとは思うけど、出口付近の広場でおち会おう」
会長は副会長と二人仲良く七不思議解明ルートと書かれたのれんをくぐり、先へと進んでいった。
そして、私たちは通常ルート側ののれんをくぐる。そこには、最初の部屋へと続く扉がある。
開けたくない。
本当のことをいえば、回れ右して逃げたい。
しかし、入る前にスタッフさんに、途中棄権は基本的に認めてませんからという注意を受けたばかり。それに支払った入場料とかももったいないから、ある程度は無理して頑張って楽しみたいと思ってはいるのだけど……。
「先輩。もしかして、お化け屋敷とか苦手なタイプですか?」
口数のやけに少ない私の異変に、蔵人くんが気づいたらしい。
こちらを心配そうに見つめてくる。
「……苦手どころの話じゃないくらいダメ」
「一応、ききますね。大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃない。もう、このいかにも何か出ます的な演出とか、真っ暗ではなく所々微妙に明るくて何かが見えそうで見えないんだけど、どうしても視界に入ってくる凝視したくないオブジェとか全部無理」
あまりの私の動揺っぷりに見かねて、蔵人くんはため息をつく。
「なんで言わないんですか、お化け苦手だから嫌だって主張すれば済んだのに」
「あの二人にこんな弱みをみせたくないんだもん。絶対笑われるし、何かの拍子にネタにされていじられまくるのが目に見えてるし」
蔵人くんの腕にぴたりとくっ付き、視界極力何も入らないようにする。
「取りあえず、最短で最速でさくっとこの地獄から脱出しよう!!」
前に進むしか選択肢は残されていないのだ。
ならば、進むしかないじゃない。
すでにプルプル震えてる私を、蔵人くんはちらりと伺ってくれる。
「そうですね。じゃあ、さくっと終わらせましょうか」
と、目の前にあった扉を開けた瞬間に、ぶわっと生温かい風が足元を通り過ぎ、誰もいなかったはずの背面から軽く背中を押されて心の準備もできないまま部屋に押し込まれる形になる。
「…………っ!!??」
入った瞬間に目の前を何かが横切り、そこらじゅうからカサカサ、くすくすと物音や笑い声が聴こえてくる。
「…………………っ!!!!!!!!」
恐怖のあまり、傍にいる蔵人くんに縋りつく。
先に進みたいのに、足がすくんで思うように足が動かない。
「先輩? …………駄目、そうですね」
蔵人くんは、石のように固まって身動きできない私の肩に手をおき、抱き込んでくれた。
「もう少しだけ、我慢してください。ちょっとだけ移動しますよ」
ぽすんと、頭に手をおかれる。
それを合図に重たい足をなんとか動かして、蔵人くんに誘導されるまま、ゆっくりと壁際まで移動する。
蔵人くんはこんこんと壁をノックして、
「すみません、申し訳ないんですが、彼女がこれ以上進んだら倒れてしまいそうなんで、途中で出させていただきたいんですが?」
かちゃりと開いた箇所から、覗いてきたスタッフと何か二、三会話をして蔵人くんが最後に、
「無理をいってすみません。本当に、ありがとうございます。その分、学校でこのお化け屋敷はすごいぞって宣伝しときますね」
「おう、宜しくな。ここ出て真っ直ぐ行ったら、ちょっとした休憩所になってるから、そこでしっかり彼女ちゃん休ませてあげな」
「先輩、失礼しますね」
声をかけられると同時に腰に手を回されて、ひょいっと抱きかかえられる。
「もう、大丈夫ですよ」
声かけられて、ベンチらしきものに座らされる。
蔵人くんの胸にうずめていた顔を、恐る恐るあげる。
「……っ」
蔵人くんが何かに気づき、息をのむが、私はいつの間にか外に出てることに驚く。
「外に出てる」
全然気づかなかった。
……うわぁ、私、どんだけ必死にしがみついてたんだ。
「頼んで無理やり出してもらいましたから。先輩、ちょっと失礼しますね」
と、蔵人くんが着ていた上着を私にかぶせてくる。と同時に抱き込まれる。
「わわっ」
「涙、出てますよ。泣くほど怖いのに、下手な意地はらないでくださいよ」
肩口に頭を押しつけられてるので、蔵人くんのついたため息がやけに耳についた。
「……だって、」
「はいはい。しばらく、こうしておいてあげますから、その涙をさくっととめて僕を安心させてください」
「うー……。かっこ悪くてごめんね」
「こっちこそ怖い思いさせてすみません。今度はちゃんと、こういうことがないようにしますから、僕には恥ずかしがらずに苦手なこととか教えてくださいね。本当は、お化け屋敷のイベントがあるから、ここをデート場所の候補にするの嫌だったんでしょう?」
ぽんぽんと、頭を軽く撫でられる。
「……次からは、ちゃんと守りますから」
これ、いつもと立場が逆だし……とか、あっさり嬉しいこといってくれちゃってる頼れる彼氏に感動したりとか、蔵人くんの腕の中で色んな思いを巡らしながら、しばらくその優しい温もりに甘えた。
ようやく涙がとまったので、蔵人くんの腕と上着から脱出する。
目元を鞄から引っ張り出したハンカチで押さえる。
「やばい、絶対に顔が大変な状態になってる。ごめん、蔵人くん。ちょっとお手洗い行って直してくるね」
うぅ。
せっかくのデートだからとメイクしたのが裏目に出たし。
「え。先輩、今日、化粧してたんですか?」
…………なんだと、このやろう。
マジマジと私の顔を見つめてくる蔵人くんの顔をべしっと、手で覆う。
「崩れてるんだから、凝視しない! つか、彼女のオシャレに気づけてないので、マイナス百点!!」
「……はい、すみません。今後、精進します」
お手洗いから戻ると、蔵人くんがスマホで誰かと話していた。
「お待たせ」
じいっと、こちらを眺める蔵人くん。
その顔は、私がいつもとどこが違うのかが理解できてないと物語っている。
「次回の君のコメントに期待するから、何もいわなくていい」
たぶん、今の君のレベルだと墓穴を掘る以外の選択肢はないであろう。
「……ちょっと、本気で勉強しときます」
何の勉強する気か、おい。
「で、誰と話してたの?」
「あぁ、会長とです。合流するか話してたんですが、色々と満喫したみたいなんで、別行動にしようってことになりました」
「よし、よくやった」
ようやく、あの二人から解放されたか。
「てことで、ゆっくり邪魔されずに、のんびりデートしましょうか」
蔵人くんも肩の荷が下りたのだろう。
会長たちの前では少し堅めだった表情を、私仕様に和らげる。
「もちろん。せっかくのデートだもんね」
まだまだ解散するには早い時間だもの。
邪魔者も消えたことだし、休日デートを満喫しようじゃないか。
副会長、生徒会長のターンかと思いきや、
まさかの仔猫が頑張るお話でした。




