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再会

1.

佐藤仁哉さとう にちかは真面目な人間だ。どのくらい真面目かというと、土日祝日以外は仕事に行くくらい真面目だ。朝も始業の10分前には職場である役所にいる。

仁哉は今年25歳になるが彼女はいない。過去には彼女がいたこともあるが長くは続かなかった。付き合ってきた彼女たちは口を揃えてこう言って仁哉の元を去っていった。

「私のこと、ほんとは好きじゃないでしょ。」


ところで、仁哉の実家は神奈川県横浜市の高級住宅街の一角にある。自分ではそう思わなかったがそれなりに裕福な家で仁哉は育った。横浜から遠く離れた松南という市に勤めるようになったのは仁哉がそれを望んだからだ。彼はどうしても家を離れて暮らしたかった。

仁哉は自分でもあまり感情がないんじゃないかと思う。他の人が雑談をして笑っていても仁哉には何が面白いのかわからないし、同僚のケースワーカーが担当のケースに本気で怒っているのを目にするたび、赤の他人のことでよくもまぁそんなに感情を荒立てられるなと感心してしまう。

彼の仕事は生活保護のケースワーカーだ。生活保護者の自宅に行き状況を調査したり、就職して自立するための支援をしたり、精神障害で通院をするケースの付き添いに行くこともある。

それは役所の仕事とは想像のつかないほど激務である。自宅を訪問したら飼い犬に噛まれたりケースから罵声を浴びせられたり担当のケースが自殺未遂をしたと言って夜中に電話が来ることもある。今まで何人ものケースワーカーが異動を申し出たり辞めたりしていくのを見ていたけれど、仁哉は不思議と辞めたいと思ったことはなかった。ケースからどんなひどい言葉を浴びせられても何をされてもそんなに嫌という感情はないのだ。いや、感情というものそのものが仁哉にはあまりない。それくらいがちょうどいいのかもしれない。あまり感情的に深入りしても仕方のない仕事だから、と彼は常々思っている。


ある日の午後だった。梅雨の時期でその日も雨が朝から降り続いていた。仁哉は雨音を聞きながら蒸し暑い所内で午前中に訪問したケースの記録を入力していた。キーボードの音が雨音に重なっている。周りのケースワーカーたちはそれぞれ訪問に出ていて静かだ。そんな静かな空間が彼は好きだった。

その時、電話の音が雨音をかき消した。仁哉は受話器に手を伸ばした。

「松南市役所生活福祉課です。」


「えぇ、頭をですね、強く打ったみたいで。まぁ、命に別状はないんですがね」

病院の廊下を仁哉は警察署の担当者と並んで歩いていた。

「身元のわかるものもないんですか」

「そうなんですよ。所持金もほとんどない状態で」

「そうですか・・・」

「すいませんね、佐藤さんもお忙しいだろうのに」

いえ、という仁哉の言葉に担当者は少し頷きながら病室のドアを開けた。


「記憶障害ということでして。名前もわからない状態なんです」


ベッドを覆っているカーテンを担当者が開けた時、仁哉は一瞬心臓が止まるかというほどの衝撃を受けた。


ベッドに座っていた男が二人を見た。

目は虚ろで、生気が抜けているようだ。

もう数日食べていないのか、体はやせ細り全身傷だらけだ。


「・・・佐藤さん?」

担当者が訝しげに仁哉の顔を覗き込む。


「・・・兄です」

仁哉は振り絞るように声を発した。


「え!?」

担当者は声を上げた。


「申し訳ないです。彼は僕が引き取りますんで」

仁哉はなぜか焦りながら兄の腕をつかんだ。

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