End World.
斎川一行が訪れた場所は隣町に続く唯一の架け橋。
詳細に聞かされたことがないのでよくわからないが、ここら辺の地盤は水が染み込み柔らかくなっているらしい。
その影響で橋をかけることも難しく、どうにかかけられたこの橋もあと何年かすれば地盤沈下により壊れる恐れがあるという。
車が渋滞するほど乗ったら壊れるくらいは予想できるであろう。
「この橋を渡れば隣町に行ける……」
「ええ、でも意外と長いのよねこの橋。よく壊れずに耐えてるわよ」
町と町とが離れているためか、この橋の長さは優に二キロはある。
地盤沈下とこの地味な長さのためか、車で通ろうとする怖いもの知らずはあまりいない。
その橋を今から渡らなければならないのだ。
「中学生グループは、体育の時間でこのくらいは走っているでしょ? 体力的にはモーマンタイよね」
「モーマンタイ? なんですかそれは」
あまり聞かない言葉のようで、中学生の一部はおろか、守太……区宮までもが首を傾げている。
最近はネット検索でパパッと出るためか、あまり辞書は使わないようだ。
けれど知らなくても仕方ないのかもしれない。
「モーマンタイ=無問題。つまり『問題ない』と言える。広東語、中国の言葉よ」
「(メグさん、絶対にネット検索したものを適当に並べてるわね……)」
「へー、初めて知りました!」
わからない単語などはネット検索すればいい! と斎川は思ったという。
無駄話はさておき、斎川たちは橋の前まで来ると隣町の入口らしき道路を発見した。
面倒だなーと思う者や遠いなと思う者、この橋を渡ってしまえば終わると思う者もいた。
小鳥が一匹、無限に広がる青空を優雅に飛び立った。
それと同時に斎川たちは一歩一歩、歩を進めていく。
****
およそ半分まで進んだ時、前方に何やら人影が見えてきた。
「何だあれ、屍か?」
別に霧が発生しているわけでもないのに、その人影は正体が見えないまま徐々に近づいてくる。
二百メートルほど歩を進めると、正体がくっきりと見えてきた。
見覚えしかない顔に紗依さんと対照的な短い髪、誰が見ても美人と言えるほどの姿をした女性。
「お、お姉ちゃん……」
「久しぶりね、斎川に区宮。それに紗依」
紗依さんは身体を震わせた。
死んだはずの姉ではなく、化物の長として生き返った武藤桜華を見て。
その威圧感は紗依さんだけでなく、全員が感じ取っていた。
「紗依、どうして震えているのかしら? お姉ちゃんと再会できて嬉しくないの?」
「あ、貴方は私の知っているお姉ちゃんじゃないです! お姉ちゃんは私が成仏させます!」
素手であるにも関わらず、紗依さんは桜華へと襲いかかった。
たった十メートルほどの距離の桜華に、右ストレートを食らわす紗依さん。
しかし相手は屍の力を持ち、且つ身体能力が高い桜華であるが故に全く効いている様子はみられない。
その後も打撃を食らわせるが、傷はつけれたものの効いてはいない。
「紗依はちっとも変わらないわね……。お姉ちゃん相手だとどうしても“手加減”しちゃうんだから」
「わ、私、手加減なんて! して、ない」
紗依さんの手はさっきよりも震え、思うように動かない。
それは殴り続けたことによる痺れではなく、目の前にいる“姉”の存在。
心では自分の知る本当の姉ではないと理解していても、脳では姉としか認識しないのだ。
紗依さんが繰り出す体術も、姉との練習では本気を出せずに負け、剣術でも、何でも、姉を傷つけるようなことはしたくないから、いつも加減をしていつも紗依さんが代わりに痛みを負っていた。
姉の存在がそこにある限り、本気を出すことはできないのだ。
「いいのよ紗依。紗依はあとでお姉ちゃんがゆっくり殺すから。屍ども、残りの奴らを殺せ」
桜華が合図をすると、橋の横に掴まっていた屍たちが登ってきた。
屍犬がいないだけマシであったが、それでも屍は三十匹ほどいる。
「地味に数が多いわね。ここは――――」
「斎川さんは下がっていてくれ、俺が殺る!」
皆の後ろからよじ登ってきた屍どもへ全力で走って行く拓斗。
拓斗を援護するかのように唐木さんがニューナンブで屍を撃った。
「俺も参戦する!」
唐木将と中学生グループ+守太は怯えて石のように動こうとしない。
区宮もメグも何故か動こうとはしなかった。
斎川は拓斗を援護しようと駆けつけたい気持ちでいっぱいだが、身体がいうことをきかない。
それはもう一人の区宮による仕業で、記憶と精神の一部以外を消滅させられたことによる。
「(足が震えてうごけない)……区宮、メグさん、拓斗を援護してあげて!」
よく見ると拓斗は屍どもに引っ掻かれたり、腕を喰われたりしている。
早く行かないと死んでしまう恐れもある。
「区宮っ! メグさん!」
紗依さんはあの場で微動だにしない。
その時、区宮が動いたと思ったら斎川に近づき、
「え? 区宮?」
いきなり首を掴んで絞め始めた。
急なことで何があったかわからないが、斎川は区宮を説得する。
「く、みや……は、な、じで! くるじぃ……(区宮離して! 苦しい)」
しかし区宮は両手で斎川の首を絞めつける。
それに気がついた拓斗は、
「(しまった! もう区宮が!)唐木さん、ここは任せました!」
唐木にこの場を任せ、区宮のところへ行くと斎川は映画のように首を掴まれて浮いている光景を目にする。
それを阻止すべく拓斗は区宮に体当たりをした。
「区宮ぁぁぁ! いい加減に、しろっ!」
地面に倒れこんだ区宮の上に乗ると、拓斗は区宮の首に手を伸ばし、躊躇なく首を絞める。
こうしなければ斎川が死んでしまう。
手は震えていたが、どうしてか力は弱まらなかった。
「(俺はこいつを憎んでいたのか……? どうしてか殺すことに躊躇いがない)」
思い切り首を絞めると、区宮の息は止まった。
「……」
抵抗しなかった区宮の顔を見て、目をそらした。
脱力し、息を吐いたとき、ぐったりとしていたはずの区宮の手が上にあがり、拓斗の首を掴み絞めた。
区宮はまだ死んではいなかったのだ。
「ぐぅっ!?」
「おい……拓斗ぉ……邪魔、すんじゃねぇぞ……」
斎川はぐったりとしておそらく気絶していて、唐木さんは屍と戦っている。
将と中学生グループ+守太は目をつむって耳さえも塞いでいる状態だ。
メグも紗依さんも、依然動く様子はない。
「(これがサイゴなのか……まさかサイゴがこうなるなんて――――)」
サイゴに拓斗は紗依さんの姿を目に焼き付け、目をつむろうとした時、紗依さんが急に立ち上がり何かをした。
紗依さんの悲鳴と桜華の悲鳴。
よく見えないが、紗依さんの腕が武藤桜華の喉を貫通しているように見える。
その悲鳴と重なるように一発の銃声と弾丸が区宮の頭を貫き、絞めつけていた拓斗の首から手が離れた。
一体、なにがどうなっているのか。
「メグさん……? 何、やってるの……?」
聞こえたのは苦しそうに咳き込む斎川の声。
拓斗もメグの方へ顔を向けると、一丁の拳銃を持ったメグが引き金を引いた状態でずっと立っていた。
「斎、川……違うんだ……」
酷く咳き込む拓斗の声は斎川には届かず、メグはただ止まっていた。
先程からずっと続く紗依さんの悲鳴。
斎川を止めなければならないが、紗依さんも心配である。
「メグ、さん……区宮を……殺したの……?」
銃口から煙が出たまま、メグはただ頷いた。
メグは拳銃を捨てると一枚の紙が手から離れ、ひらひらと拓斗の元に飛んでくる。
地面に落ちた紙を拾うと血で書かれた文字が目に映る。
『タクトもサヨリさんも俺を殺す。もし危うくなったらタクトとサヨリさんをエンゴしてくれ。けど俺を殺せばサイガワに殺されるかもしれない。それが嫌ならやらなくてもいい。ただタクトとサヨリさんを助けてくれるとうれしい』
漢字がわからなかったのか、一部はカタカナで書かれている。
この文章を見る限りでは、区宮は拓斗と紗依さんのことに気がついていたらしい。
メグはこの紙を受け取ってどんな思いをしていたのだろうか、そしてどんな思いで拓斗たちを助けるために区宮を殺したのだろうか。
「人殺しいいいいいい!!」
斎川がメグのところへ全力疾走し、メグの身体を掴むと橋から放り投げた。
抵抗しないメグは橋から落下していく途中、笑ったような気がした。
拓斗は首を抑えながら紗依さんのところへと向かう。
「紗依ちゃん……大丈――――!」
「拓斗……」
紗依さんは、両目の視力を失って――――否、両目は潰され、目というものの機能はしていなかった。
両まぶたから血を流しながらも、紗依さんは笑った。
「拓斗、大丈夫だった?」
「紗依ちゃん! どうしたんだよその目は! どうして……目が……」
近くには喉を貫かれて倒れている武藤桜華の姿がある。
死しても尚、その美しさは変わっていない。
「お姉ちゃんを……お姉ちゃんを成仏させるには、私が強くならなきゃいけなかったの……でも、私は弱いままで、私の目はいつまでもお姉ちゃんだけを見てた。だから……だから、もう目は必要ないの……お姉ちゃんだけを見続ける、この目なんて必要ない。
ここからは私のわがままだけど……拓斗、私の目の代わりになってくれるかな? もう私、拓斗を見ることはできないけど、心でずっと感じているから……」
「紗依ちゃん……! 勿論だよ、俺……俺が目になる。紗依ちゃんを助けるから!」
それから何分かして一つの銃声は止まり、唐木が戻ってきた。
拓斗は屍に噛まれたため、抗ウィルス剤を注射している。
唐木がこの光景を見ると「どうなってんだ……」と眉間にしわを寄せ、紗依さんの目を見たときには自分にも痛みが伝わっているかのように目をつむってしまった。
斎川はさっきから死んだ区宮に手を合わせてずっと謝っている。
****
唐木さんが紗依さんを背負って、斎川には拓斗が肩を貸しながら橋を渡りきった。
隣町に着くともう一人の区宮が言っていた通り、ヘリコプターが何台か飛んできて安全な場所で着陸し、皆を無事に助けることができた。
この世界でようやく、斎川たちは死の世界を脱出することができたのである。
ヘリが離陸してから徐々に町は消滅していき、やがて町があったその場所には巨大な穴が空いた。
一番目のヘリには斎川、拓斗、紗依さん、唐木兄弟が乗っている。
一番目のヘリの操縦者が、
「大変でしたね。それでどうでしたか、この【Dead World.】は?」
と不思議な言葉を言う。
Dead World. ……直訳すると『死んだ世界』という意味になる。
「Dead World? 何が言いたいの……」
「嬉しくないのか……全く、俺は悲しいな」
「誰よあんた」
帽子を被った中年おやじのような操縦士は、さっきまで聞いた声が少し老けるとこんな声になりそうだ。
では誰の声だろうか? エスはさっきまではいない、メグは裏声を使っている、桜華は違う……となると――――。
「まさか……区宮?!」
「あたり。よくわかったな、斎川」
「く、区宮!? なんでお前が! それにどうして老けて……」
「え……区宮さん……?」
「区宮だと? さっき死んでいたんじゃないのか」
「え?! 幽霊? こ、怖っ!!」
ヘリにいる皆が驚くのも無理はない。
さっきまで死んでいたはずの人間が、今目の前にいるのだから。
「けど何で生きてるんだ?! メグが殺したはずじゃ――――」
「おい拓斗。俺のもう一つの名前、覚えてないか?」
「もう一つ……? ――――創造者……」
「そう、創造者。この世界を創造した人間、いや、神に近い存在だぞ? そんな銃如きで死んでも、何度でも生き返れるさ」
「「「っ!?」」」
「そうそう、その反応を待ってた! というわけで、この世界はもういらない。この【Dead End World.】は終わった。新しい世界を創造し、君たち英雄を次の世界に移すことにする」
そして、世界は一瞬にして消滅し、創り替えられた。
この【Dead End World.】(行き止まりの世界)は越されたことにより、その意味が消滅し、再び創造者(区宮志悠)によって新たな世界が誕生することになるが、それはまた別の世界。
END WORLD....
ようやく本編終わりました……。
作者の勝手な思いつきにより、その後の物語はやめておいて、なんと、新作にDEWのその後、つまり区宮が創った新しい世界にしようかと……。
ええ、皆様には大変申し訳ないと思っております。
この本編についても無理矢理すぎだし……。
結局、予想より超斜め行く結果になったDEWでした。
ここまで読んでくださった方々には感謝しかありません。
勿論、この話だけでも読んでくださった方にも感謝しかありません。
つまり、感謝しかありません。
いろいろふざけすぎた作者で申し訳ありませんでした。
それでは(読んでいる人がいれば)またいつか。




