【65】昨日の話しとこ
「ただいまぁ……」
私はふわふわした気持ちで、自分の部屋に行きゴロンと横になる。
はぁ……藤堂、洋介……
素敵やったなぁ
2つ上? 落ち着きがあって、気が利いて、優しくて……えらい大人びとるなぁ
大学院生やて……頭ええんやろうなぁ
東北弁が出ないように、標準語で話しとるのかぁ
それでちょっと堅い感じがすんのやろなぁ
いやぁ、多分、育ちがええんやろ。ええとこの子やな、うふふっ
……それにしても、金田、アイツほんま
気色悪過ぎやろ!
なんで私が自分のこと好きやなんて勘違いしたんや
アイツが何歳か知らんけど……60歳くらいか?
私、22やで! 有り得んやろ!
いわゆる「勘違いおじ」やな
もし、洋介が助けてくれへんかったら……
ゾッとするわ
指一本かて触られとうないのに! ほんま腹立つ!
……アベルのお客さんが、また一人減ったわ
私はため息をついて寝返りを打つ。
私、なんか勘違いさせるようなことした?
適当な相槌があかんかったん?
しかめっ面で接客して怒鳴られて、愛想笑いしたら勘違いされて……
どないしたらええんや
……誰に相談したらええんやろ
あぁでも、とにかく今日のことはおばちゃんに……
いやいや、めちゃくちゃ心配するやろ、何もなかったんやし……別に言わんでも……うん、言わんとこ
私はゴロゴロしながら、おばちゃんに借りた小説を少し読む。その後銭湯を済ませ、おばちゃんと一緒に晩御飯を作った。
……あぁ、明日もバイトやな
でも夜は幸子のとこにお泊まりやし、楽しみや……
翌日。
さて、今日は土曜日や
夕方まで働いて、夜は幸子んちにお泊まり。
仕事頑張ろ
アベルに到着。
今日は土曜日やからなぁ、忙しいだろうな……
そう思いながら中に入る。
あれれ
思ってたよりは……
私はいつも通り少し働いたあと賄いをいただいた。
和夫さんもフミさんも済ませたようや
ちょっと話せる余裕もある。
「……なんや今日は、お客さん少ないですね」
「そやな」
……和夫さんて、ほんと口数が少ないよなぁ
まあええけど……
そうや、今のうちに、昨日の話しとこ
「……あのぅ、ちょっと話があるんですけど」
「話? どないしたん」
「……ここではちょっと」
お客さん少ないとは言え、3組おる。あんな話をここではしづらい……
和夫さんは店内を見渡した。
「ま、ちょっとくらいええやろ。厨房行くか」
「はい」
厨房に入ると、フミさんが
「なんや、どないしたん」
と聞いてきた。
「なんや、みうちゃんが話があるんやて」
すると、フミさんが、険しい顔で私のことを見た。
うー、また変なこと言い出すんか、とか思てはるんかな……
「あのぅ……昨日なんやけど」
私は、金田にされたことを全部話した。そこで助けてくれた人がここのお客さんだった、てことも。……イケメンって思ったことは内緒や
「金田さんが……?」
和夫さんは、驚いて目を見開いてる。
フミさんは、険しい顔のまま。
みんなしばらく沈黙だった。
えっと……どないしよう
「怪我は……」
フミさんが、ぽつりと話しだした。
「怪我は、ないんか?」
「あ……全然、ほんま、大丈夫」
「……堪忍な」
「え!?」
なんでフミさんが謝るん?
「うちのお客さんが……なんてことを」
う、うーん……まぁ
「ほんま、すまんかった!」
そう言ってフミさんは、頭を下げた。
「すまん!」
和夫さんも頭を下げる。
ちょちょ、やめてやめて!
「いや……あの……ほんま、何もなかったんで……ほんま、大丈夫やから……」
和夫さんとフミさんは、頭を上げて2人で話し出す。
「金田さんは、出入り禁止にする」
「そやな。みうちゃんには絶対近づけん」
「あぁ、もう……ほんまなんてことを……」
「全く気付かへんかった……まさかそないなこと考えてるやなんて」
「たまに来て静かにコーヒー飲んでいくだけの人やったのに」
「いや……そういえば、みうちゃんが働き出してからは2日に1回くらいは来てたで」
「邪な気持ちで来とったんか……」
えっと……どないしよ
フミさんが私を見る。
「みうちゃん、あんたまさか……」
カランカラン……
お客さんや!
私と和夫さんは急いで厨房を出る。
そこからどんどんお客さんが入ってきて、ランチタイムは目が回りそうなくらい忙しく、ピークを過ぎてもゆっくり話すようなヒマはなかった。
16時を過ぎてもまだ忙しかったけど、和夫さんが
「みうちゃん、もうええで……あんま遅なったら心配や」
いやいや、まだ夕方やで。心配て
「まだ明るいし、大丈夫ですよ」
「……店が終わるまで待ってもらえるなら、わしが送ったるけど……」
いやいやいや、そない!? 歩いて10分やで!
「だ、大丈夫です! ほな、もう上がらせてもらいます」
「ああ。……ほんま、すまん」
フミさんからお給料を受け取る。
「今日もおおきに……寄り道せんと、真っ直ぐ帰るんやで!?」
……小学生か
「はい。大丈夫です。ほな、おつかれさまでした」
和夫さんも心配そうに
「おつかれさん……明日も、大丈夫か? 出てこれるか? 無理せんでええんやで?」
大丈夫や!!
「大丈夫です! 明日も来ます」
帰ろうと後ろを向いたとき、ふと思い出した。
もう一度振り返りフミさんに聞く。
「フミさん、あの……さっき、金田さんの話のときに何か言いかけてましたよね?」
フミさんは首をかしげる。
「えっと……ほら……あんたまさか、て……」
そう、何かを疑うような……
するとフミさんは、目を逸らして
「……ああ、なんでもないんや。気にせんとってや」
と言った。
……なに?
気になるけど、なんか……もう聞けない
「……はい。おつかれさまでした」
私はモヤモヤしながらアベルを出た。
外に出て、周りを見渡す。
……アイツ、おらんよな
和夫さんとフミさんがえらい心配するから、ちょっと不安になるやん
私は早歩きで下宿屋に帰った。
「ただいまぁ」
お泊まりセットを準備して、幸子からの電話を待つ。今日は半ドンの日じゃなくて17時半には終わる言うてたけど、何時になるんやろ……
幸子の話も聞きたいし、私の話も聞いてほしい。
電話が鳴ったらすぐに出られるように座敷でテレビを見ながら待つ。
テレビ、意味わからんすぎてつまらなーい
幸子ー。早よー。まーだー?
美羽がバイト終わって帰ったあとの和夫の行動を執筆済ですが、ネタバレが一部含まれるためSS置き場にて公開予定。金田の裏側と共に、お楽しみに! みなさまと早く共有したいです!
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次回の更新は11月11日です。詳細は活動報告へ!】




