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S↔R ~令和女子、昭和に放り出される~ 「1970年」マジありえない文化なのに人情に泣ける。そして未来へ繋がる……  作者: 髙井菜是


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【43】下宿屋のおばちゃん⑨/⑭

ヒュルルル……ドーン!

近くでまた焼夷弾が落ちる

「キャー!」

「あかん! トキちゃん! どこやー!」


止まれない、みんなが走り回っている。人とぶつかる。押される。煙と火の粉が舞う。周りは見えない。


「トキちゃーん!」


爆撃の音、敵機の飛ぶ音、人々の叫び声、うちの声は掻き消される。


火の手が迫る、逃げな、トキちゃん! 逃げな!

走る、逃げな、熱い! 逃げな、逃げな!


まだ無事な防空壕に辿り着いた。だけど、人がいっぱいで奥までは入れそうにない。1人くらいなら……

「……せっちゃんは、ここにおって。うち、トキちゃん探してくる」

「あかん! 何考えてるんや、千代子さん!」

「トキちゃんひとりにはできんわ!」

「あかんて! トキちゃんなら……大丈夫や! あの子はしっかりしとるんや!」

「そやけど!」

「千代子さんも! 死んだらあかんのや!」

……せっちゃん


「あんたら! 入るんなら早よしい! 危ないで!」

「敵機に見つかったら狙われる! 入らんならどっか行ってくれ!」


知らない老夫婦にうちらは叱られて、無理矢理、防空壕へ押し込められた。


みんな、小さく縮こまって座っている

少し離れたところから爆弾が落ちる音や、真上を飛ぶ敵機の音に怯えながら、みんな黙って耐える。


……もし、爆弾が直撃したら、この防空壕はもつんやろか


ドーン! ゴォォォ……ヒュルルルル……ドーン!

ゴォォォ……ゴォォォ……ドーン……


みんな、ひたすらジッと耐えていた。


ゴォォォ……ヒュルルルル……ドーン!

ゴォォォ……ゴォォォ……ドーン……


……


何時間経ったんやろう


やっと、攻撃の音が止んだ……

それでもうちらはしばらく動けんかった。ほんまに終わったのか、わからへん……


1人、また1人と、外に出ていく。

うちとせっちゃんも、手を取り合って恐る恐る外に出る。


敵機の音はせん。そやけど、あちこちで炎が見える。まだ空は暗いけど、炎の明かりでうっすらと周りが見える


たくさんの瓦礫と、倒れている人たち

……人が、たくさん、亡くなっとる


「……トキちゃん探さな」

「……千代子さん、もしも、バラバラになったら、集合場所決めとったやろ」

「……」

「大丈夫や。探さんでも……トキちゃんは自分の足でそこに向かうんやから」

「……そやな、トキちゃんは、無事や」


うちらは、集合場所へ向かうことにした。


集合場所は、いくつか決めていた。

もし下宿屋が被害に遭っていたら、次はここ、そこもダメなら次はここ、というふうに

義雄さんが決めてくれていた。


まずは下宿屋へ向かいたい

……だけど

せっちゃんと2人で辺りを見回す

繋いだ手に、力が入る


「ここ、どこなんやろ……」

「わからへん……めちゃくちゃや……」


薄暗い中、まだ燃えている建物、至る所に上がる煙、形の歪な家屋、飛び散ったガラス。

電柱が倒れていたり傾いていたり。電線がぶら下がっていたり、焼け焦げている人や建物の下敷きになっている人もいる


目を逸らして歩き出す。

右も左もわからん……目印ないやろか

ふと防火水槽に目がいく


……足?

足が、防火水槽の縁から出ている

目を逸らして歩く


燃えずに残っている家もある

火の上がっている家に水をかけている人もいる


せっちゃんと2人で無言で歩く。言葉が出てこん


ガラスや、切れた電線に気をつけながら歩く

倒れた電柱を迂回しながら歩く

真っ黒になった人を横目に歩く

ひどく損傷している人もいる。焼夷弾の直撃を受けたんやろか

目を逸らして歩く


大きい建物は割と残ってるようや

あ、この建物は……

「ここ、あそこちゃう?」

「うちも思たわ。ということは、下宿屋はあっちの方向やね」


2人でまた、無言で歩く

瓦礫と、煙と、焼けてしまった人を避けながら


「もうすぐ、ちゃうかな?」

「そうやね、もうすぐや」


薄暗い中で、形のある建物が見えてきた


「……下宿屋や」

「ほんまや……下宿屋、残ってる!」


足元に気をつけながらも、少し早歩きになる


下宿屋が、残っている!

周りを見渡すと、他にも形を留めている家屋が2、3軒見える。


いつの間にか離していた手をまた握り、頷き合って下宿屋に向かう。

トキちゃん、トキちゃん……


下宿屋の周辺には、いない

玄関に行き、ガラガラ、と開ける


「トキちゃん!」

「せっちゃん! 千代子さん!」


玄関で座っていたトキちゃんが立ち上がり、うちとせっちゃんに抱きついてきた


生きてた!


3人で泣いて喜ぶ

「良かったぁー! 生きてた、生きてたぁ!」

「トキちゃーん! ひとりにして堪忍なぁ!」

「怖かった、怖かったよぉー!」

「うわぁぁぁん!」

「良かったぁ!」

「うえぇぇぇん」


3人とも疲れ果てていて、玄関で座り込んだ。

「痛たっ」

トキちゃんが膝を押さえた。

「……怪我したん!?」

「転んでなぁ……」


聞くと、あのはぐれた時、逃げ惑う人たちに押されて転んでしまって、気づいた老夫婦に助けられて一緒に逃げたけど、結局またはぐれて一人になって、周りに流されながら走っていたら、防空壕に辿り着いてそこに入って助かったらしい。


「そこがなぁ、外に出てから気づいたんやけど、訓練で何度も行ったとこのひとつやったわ。いつの間にか下宿屋からそう遠くないとこに来てたみたいで……」


「どこ走ってんのかも、わからんかったもんなぁ」

「そやなぁ……そやけど、3人とも、無事やった。下宿屋も無事やった……良かった、ほんま良かったわ」


少し、外が白んできた。

3人で手を取り合いながら立ち上がって気づいた。

泥なのか煤なのか、服が酷く汚れている。顔も真っ黒や。


「……勝手口の方から入って台所で汚れ落とそうか」

3人で下宿屋の裏手に回る。

少し歩くと、異変が目に入る


「……!」


下宿屋の裏手に見えていた、近所の家は完全に焼け落ちている。そして境目にあった垣根も焼失している。


「……これ、なんで下宿屋は無事やったん?」

3人で首をかしげる。

「ほんまやね……」

トキちゃんがキョロキョロして言う。

「下宿屋との間に、燃えるものがなかったんちゃう?」


……確かに、これなら周辺の家からの貰い火がないかもしれん


「あ!」

せっちゃんが指差す。

見ると、地面に瓦が何枚か落ちて割れている。

屋根を見上げるけど、よくわからへん……


「……うち、逃げてるときにたまたま見たんやけど、焼夷弾がな? 家の屋根に落ちたかと思ったら、コロコロって転がってな、隣の家の方に落ちていって、その隣の家、あっという間に火が上がったんよ。……もしかしたら……」


そう言いながら、完全に焼け落ちた裏の家を見る。

「……わからへんけど、風向きとかもあるんかな」


下宿屋は確かに、周囲の家との間に庭があって表と横は塀で囲まれている。屋根に落ちた焼夷弾が、何故下宿屋を焼かなかったのか、わからへんけど……


3人で下宿屋の周囲を見てみたけど、ほとんど損傷がない。屋根瓦が落ちているのと、煤だらけになっていたり、どこからか飛んできたのか割れたガラスが散らばっているくらいだった。


周囲にも、何軒かポツポツと残っている家はあるけど、ほとんどが焼失している。


「……ほんま、酷いことするなぁ」

「……」

「……」

「……顔、洗おうか」


勝手口から台所に入り、水道の蛇口を捻る。……出ない。

「……え?」

「千代子さん?」

「……水、出ぇへん」

「え?」


蛇口も供出してて代用品やから、水が漏れることはしょっちゅうやったけど……


「……大元が断水してるんちゃう?」

トキちゃんが冷静に言った


どうしよう……

うちらはとりあえず、防火用水として溜めていたバケツを運んできて、お互いに柄杓で水をかけ合いながら、手と顔を洗う。飲むのはさすがに無理や……


「飲み水がいるよな……」

「うちの実家やったらもしかしたら……井戸があるし……被害に遭ってなかったら」

「……みんなで行ってみる?」


3人とも黙り込む

もう、疲れてヘトヘトや


着ていたドロドロの服を脱いで、たらいにバケツの水を入れてそこに漬け込む。


うちらはまた防空服装に着替えてから、3人で同じ部屋に行き、敷いたままの布団に倒れ込んだ。



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