第1章・7幕 殺しに行く者
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
◎灰谷家
・灰谷 墨子 (はいたにすみこ)
蛭子里の生まれで、朝友と喜朗とは幼馴染。母子家庭だったが、半年前の冬に母と姉が行方不明となり、灰谷家へと嫁ぐ。非力だが賢く、里でも若く美人との噂。
・灰谷 美継 (はいたによしつぐ)
朝友と墨子の息子。純粋無垢で、母・墨子を慕う健気な少年。真っ白い甚兵衛が特徴的。
・灰谷 朝友 (はいたにあさとも)
墨子と喜郎の幼馴染みで、墨子の旦那。墨子の境遇を想い、結婚に至る。里に小さいながらも畑を管理している。里でも良好なイケメン男子で通る。
◎里の住人
・水戸部 雅代 (みとべまさよ)
喜朗の妻。育ちが悪く、喜朗の人の良さを利用する。美貌とスタイルは里でも墨子に引けを取らない上、それを武器として生きてきた。
・吉崎 時常 (よしざきときつね)
里でも珍しい商人家系で、親の七光りから良家の嫁を貰うも、影では好き放題に遊び歩く。所謂、ボンボンのクズ男。
ーーー
・?不気味な息遣いの者?
花魁が着るような、打掛を着た正体不明の怪異。不気味な息遣いをしながら里の者に迫る。
■ ▢ ■ ▢
【前回までのあらすじ】
蛭子里に住む墨子は、山菜採りに北の森へと向かった、旦那・朝友と幼馴染・喜朗に合流する為、北の森へ、息子・美継と向かう。
森で、朝友と合流するも、喜朗の姿は見えない。
美継の姿も消えてしまうと、墨子は探し回る内に蛭子神社へと辿り着くと同時に美継を発見。
彼は喜朗を見たというも、時間を掛けても神主・神籬すら見つからず、一旦帰宅をする。
墨子らが健右衛門と雅代の関係を疑いながら、帰宅すると、朝友はその件は保留にした。そして翌日に、神社へ喜朗を探しに行くと二人を安心させた。
一方、夜九時に、良からぬ企みをする勝巳は、灰谷家へと向かうが、健右衛門が訪ねてくると、その企みは失敗する。
その頃、雅代の元を訪ねる朝友は、寂しそうな雅代に一線を越えてしまう。
明くる日、黄田組が統治の名目で重税を徴収しに来ると、朝友は、灰谷家の分を出す。
黄田組は、次に向かう先は水戸部家。雅代が襲われそうになるところを助けるが、妙に恋心を抱かれる。朝友は、喜朗・捜索の前に、雅代の家に寄るが、時常と交わる雅代を見る。
雅代の幸せの為にも、喜朗・捜索をしようと心に決めるが・・・
◎和都歴450年 7月13日
置田村・神奈備・谷川~祖柄樫滝 13時
「お母、もう魚はいいんじゃない?」
美継が。ボーッとする墨子に話しかける。
「…あ!…そうね。そろそろ帰ろうか。」
「お母…大丈夫か?」
「…喜郎のことが、ちょっと気掛かりでね。うん、でも帰ろうか。
あ、魚を頂いてしまって、ありがとうございます。」
墨子がお礼を言う相手は、緑に染め上げた合羽を着込む、男だった。
「いや、全然。僕はこの辺りの釣り場を色々探すのが好きでね。その鮎は全てあげるよ。」
美登利 矢之助。釣りを愛する旅人。祖柄樫山の人間ではないが、この辺りの釣り場に時折現れ、釣りをする。緑に染め上げた合羽が特徴的。
「ホント、助かりました。ありがとうございます。
美継、行きましょ。」
「うん。」
2人はその場を後にし、里へと向かう。
矢之助は、その2人の背後を、微笑ましく思いながら見送っていた。
◎和都歴450年 7月13日
置田村・神奈備・蛭子里・水戸部家 16時
朝友と雅代は、寝床で裸になり、お互い背中を向けて横たわっていた。
「…そろそろ夕暮れだ。帰るよ。」
「あと5分だけ。」
朝友が布団から出ようとすると、こちらを向いて朝友を抱き締める雅代。
⦅おーい、雅代!⦆
外から声がする。
「また来たわ。」
「誰だ?」
「時常よ。少しの食料を貰ったからって、何度もしつこいの。朝友、助けて?」
「…わかったよ。雅代さんも着物を着ておいてね。」
朝友は着物を着ると玄関へ行く。
「雅代!雅代!食い物いらないのか?」
ーガラッ!
「あ、朝友?な、なんでお前?」
唖然とする時常。
「お前こそ。聞いたぞ?喜郎が知ったら事だし、お前には凛さんがいるだろうに。」
「…話したのか?」
時常が、奥にいる雅代の顔を見る。
「この事は、俺の中で留めておく。もう止めろ?」
「…っ…っ…」
朝友にそう言われ、口を尖がらせる時常。
「雅代さん、俺もそろそろ帰るよ。」
そう言って朝友は帰っていく。
「雅代!お前ー」
「ーもう、アンタにゃ価値ないんだよ。朝友が明日には旦那を探してきてくれる。そしたらアタシはまたやり直すし、食料には困らないんだから。もう終わりだよ。」
ーガラッ…ピシャッ!!
そういうと扉を閉める雅代。
「待て!…待てよ!!旦那が…喜朗が見つからなかったら、何も変わらないぞ?」
扉越しに叫ぶ時常。
「美継君が神社で昨日見たそうなの。きっと神社近くにいるわ。明日、朝友さんが神社に行けば、きっと何とかなるわ。」
扉越しに雅代の声が返ってくる。
「…くそッ…喜朗みたいな軟弱野郎に…雅代は渡さないー」
ー殺してやる…!
雅代の強気な態度に、腸が煮えくり返る時常。
雅代を手に入れる欲望の為に、時常は殺しに行く者となった。
◎北の森
「あら?時常さん?今晩は…今から何処へー」
「…っ…っ…!」
墨子と美継が、時常とすれ違い、墨子は挨拶を交わすも、時常はツッケンドンな態度でそのまま早足で東の道へと曲がっていく。
「…どこ行くのかしら?」
墨子は、そのまま里へと帰っていく。
(喜郎がいないから、雅代に付け入る隙があった。喜郎が帰れば確かに…俺は…!
雅代は…雅代は…諦めきれない…!)
時常の目は血走り、早足で神社へ向かう。
◎蛭子神社 17時
「喜郎…!」
時常は鳥居の前に辿り着くと、忍ばせていた包丁を取り出すと、随神門へと引きずる様に歩み始める。
ーポツ…ポツ…
間もなくすると、小雨が降り始める。
(本当は墨子さんみたいな別嬪を隣に置いておきたいが…
墨子さんは、あの朝友が離さないだろうし…
そうなれば、やはり雅代が…
凛なんかより妖艶な女が、俺には必要だ!
やむを得ない…喜郎、お前がいなくなる、それしかない…!)
時常は、眉間にしわを寄せ、歯を食いしばると、包丁を握り直す。
随神門をくぐり、神橋を渡り始めると、雨は強くなる…
ーザァァァ…
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
鳥居の横の茂みに、不気味な息遣いをする
何かが、時常の背後を見つめている。
時常は、とにかく喜朗を見つけようと意気込んでいた。
そして、妻・凛と雅代との快楽を比べ、それを忘れられなかった。
~~~
「あなた?私は、魅力ないのかしら?」
「凛…そんなことないさ。」
「アァン…時常さァん…スゴく…アァ…!」
「ま…雅代!」
~~~
妻・凛との物足りない生活に、雅代との出逢いから、その刺激が忘れられない時常。
(俺には、雅代が…必要だ…悪く思うな…喜郎…)
時常は本殿前に辿り着くと、雨は益々強まる…
ーザァァァ…
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
不気味な息遣いの何者かが、時常を殺しに行く者となり、足音なく迫っていた…
次回2025/8/28(金) 18:00~
「第1章・8幕 神隠し」を投稿予定です。
※8月はお盆休み・強化月間です。
期間中は毎週(火)(金) 及び祝日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。




