序章・1幕 蛭子神社(前編)
この物語は、2つの恐怖と2人の主人公が軸となるー。
神隠しなのか、人が消える事件…
妖怪の仕業か、人が惨殺される事件…
本編『ケダモノたちよ』では、長らく謎とされていた置田村の北地区・神奈備の副統括・神籬蓮庵。
いつからか、その行方は不明となり、本編でも蓮太らが僅かな情報を得るのみ。
そんな神籬の行方も明らかになるストーリー。
置田村の北地区・神奈備の中でも北に位置する蛭子神社。その裏に生い茂る森にひっそりと暮らす小さな集落『蛭子里』。
幾つかの家屋の内の1つ、灰谷家。
そこ嫁いだ妻、灰谷墨子。彼女を中心に、この話は展開していく。
若く、容姿端麗な墨子は、旦那・朝友との間に男児・美継を儲け、義父・儀兵衛と共に、長閑に暮らしていた。
しかし、冬に唯一の肉親である、母と姉が蛭子神社で失踪した。
月日も流れていく内、捜査も進展しないまま、事件は風化していく。
そして今、墨子の幼馴染・水戸部喜朗、その妻・雅代、最近中心部より移住してきた三条勝巳など、個性的な住人を交え、この里に起こる不思議な怪奇事件をあなたは目撃する…
ーーー
そんな彼らの生活より1ヶ月前、ある2人がこの『蛭子神社』を訪れていた。
序章は、その2人の物語。
そして、それは失踪事件とは別に、惨殺事件の最初の被害者でもあった…
◎和都歴450年 6月20日 14時
置田村・神奈備・白石組集会所 北の森
2人の男女が歩いている。
2人は本置田で、博打や詐欺、悪行で金を蓄え、閑散とする村の奥地へと向かっていた。
「こんな奥地まで来て、そもそも人住んでるの?」
「…ああ。何でも古い神社の裏手には、隠れ里があるらしい…」
「それなら…いいけど…無駄足はごめー
ーンン…!?」
男は女に口づけをする。
「俺を信じろ。この金で、置田蓮次のように支配者になってやるさ。」
「…アンタ…」
2人は金の流通の少ない、その里を狙っていた。経済というものの利便性を教える一方で、金で人を買い、労働力にしようと画策していたのだ。
「さあ、行くぞ。俺たちの里に、な。」
八田 信二郎。赤島会・黄田組の末端の1人。詐欺で得た元手に、博打である程度の金を貯めた。経済流通の無い里を買い占め、奴隷化を企む。
2人はしばらく森を歩く。
ーガサ…
「きゃあ!何?」
…リスが逃げていく。
「リスくらいで大きな声を出すなよ…」
信二郎が嗜める。
「だっ…だって熊かと思って…」
座古 都子。貧民の出自で、信じていた許嫁に捨てられ、仕方なく美貌を武器に売春をして暮らす。そんな状況で信二郎に買われ、そのまま恋人となる。ハスキーボイスが特徴。
「行くぞ!夕暮れ前には着かないと、それこそ熊でも出そうだ。」
「あ、待ってよ~!」
鬱蒼とする森に、静かに不気味な風が吹く。
そして、2人を茂みから見つめる瞳があった…
◎和都歴450年 6月20日 17時
置田村・神奈備・蛭子神社
信二郎と都子は、何とか夕暮れ前に蛭子神社へと辿り着く。
蛭子神社は小高い丘の上にあり、東を向いて鳥居が立つ。
南側から西にかけては崖になっており、入口はその東1つのみである。
北側には、里があるが、知らない者からはまず見えない。
西に向かって、鳥居を抜けると、随神門をくぐり、神池を跨ぐ神橋を渡り、右手に社務所、左手に手水舎がある。
さらに奥の右手に授与所、左手に神木と神楽殿があり、中央奥に本殿がある。
「意外と…大きいんだな…」
信二郎がまず鳥居をくぐり、辺りが薄暗くなる神社に、少し不気味さを感じながらも、振り返る。
「都子、来いよ。着いたぞ。蛭子神社だ。」
「う、うん。」
都子も少し不気味さを感じながらも、鳥居をくぐり、信二郎の腕を掴む。
「何だか気味が悪いわ…」
「離れるな。行くぞ。」
2人は随神門まで歩く。
[スー…]
周囲の空気全てを吸い込むようなバキューム…
[ファ~…]
体内の隅々にある大気を絞り出すかのようなエクスヘイル…
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
随神門を抜ける2人を、不気味な息遣いの何者かが見つめる…
2人はそのまま、神橋を渡る。
すると、右手の森の茂みから里の灯りが見える。
「あ、あれだ。あれが里じゃないか?」
「やっと着いた~」
ーピカッ!ザァァ…
「うわ、雷雨だ!」
突然の雷雨に辺りが見えなくなるくらい雨が降り出すと、信二郎は都子の手を引き、走る。
「スゴい雨量だ!一旦あそこへ…!」
2人は社務所に走り込む。
「ハァハァ…大丈夫か、都子?」
「ハァハァ…うん、ビショビショよ…」
2人は社務所に辿り着くも、巫女も誰の姿もない。
「雨も止まなそうだし、今夜はここで休ませてもらうか…お~い、誰かいるか!?」
信二郎は声をあげる。
「誰も居ないのかしら?」
不思議がる都子。
「時間も時間だしな…中へ行くか。」
信二郎は都子を後ろに据えて、受付隣の扉を開けて、社務所の中へと入っていく…
ーピカッ…ゴロゴロ…
「きゃあ!」
雷鳴に驚愕する都子。
雷雲が社務所の中をも薄暗くし、稲光をより一層不気味さを醸し出す…
「…行くぞ?」
信二郎は都子の手を握り、恐る恐る廊下を進む。
廊下は左手に和室と、右手にトイレがあり、突き当たりに台所があるようだ。
「和室で、少し休もう…」
ーガラ…
和室にも誰もいない…
「この神社、廃墟なのかしら?」
都子は不安を口にする。
「いや、にしてはまだ綺麗だ…とりあえず、ランプに灯りを…」
部屋を明るくすると、居心地の良さそうな部屋であることがわかる。
「私、台所でお茶でも淹れてくる。」
「ああ、頼むよ。」
都子は、奥の台所へ向かう。
ーザァァ…
外は変わらず豪雨が降り注ぎ、社務所は、その雨音でひしめいていた。
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
そんな社務所を、ずぶ濡れの中、見つめる人影があった…
次回2026/7/25(土) 18:00~
「序章・2幕 蛭子神社(後編)」を投稿予定です。
正式投稿は8月からの投稿致しますので、御期待下さい。




