目を覚まして
意識が遠のいていく。
音も、色も、痛みさえも薄れていく。
その代わりに――
胸の奥にしまっていた“あの日々”が、
まるで光の粒になって浮かび上がってきた。
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幼稚園の砂場。
泣いていた千景の前に、
小さな影が二つ落ちた。
**翔太(幼)**:「だいじょうぶ? ちかげちゃん」
泥だらけの手で、
そっと千景の手を握ってくれた。
その手はあたたかくて、
泣き声がすぐに止まった。
**日向(幼)**:「泣かせたら、あたしがゆるさないから!」
小さな身体で前に立ち、
千景を守るように腕を広げる日向。
その背中は、
世界でいちばん頼もしかった。
千景は、幼い自分が笑っているのを見た。
(……そうだ。
私、あのとき……守られてたんだ)
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白いラインの上を、
三人で手をつないで走った運動会。
転びそうになった千景を、
翔太が支えてくれた。
**翔太(幼)**:「ちかげちゃん、いっしょにゴールしよ!」
日向は振り返って笑った。
**日向(幼)**:「ほら、早く! 置いてくよー!」
千景は、
あのときの風の匂いまで思い出した。
(……楽しかったな)
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桜の花びらが舞う卒園式の日。
三人は園庭の隅で、
小さな手を重ねていた。
**翔太(幼)**:「ちかげは、ずっと大好きだよ」
**日向(幼)**:「どんなにはなれても、一番の友達だから!」
千景は泣きながら笑っていた。
**千景(幼)**:「うん……ずっと、ずっと……!」
その約束は、
千景の宝物だった。
(……忘れてなかったよ。
ずっと、胸の中にあった)
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走馬灯の景色がゆっくりと薄れていく。
代わりに――
遠くから、誰かの声が聞こえた。
**翔太**:「千景……! 千景っ……!」
**日向**:「お願い……戻ってきて……!」
泣きながら呼ぶ声。
震える声。
必死の声。
(……翔太くん……
日向ちゃん……)
千景は、
その声に手を伸ばそうとした。
でも、
光が強くなり、
身体がふわりと浮くような感覚に包まれる。
(……もう一度……会いたい……)
その願いだけが、
千景の胸に強く残った。
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千景の身体は動かない。
まつげも震えない。
呼吸器の音だけが、静かに響いている。
翔太は千景の手を握りしめ、
涙を落とし続けていた。
**翔太**:「千景……お願いだ……戻ってきて……」
日向は千景の髪を撫でながら、
声を震わせた。
**日向**:「あたし……守るって言ったのに……
なんで……千景ちゃんが……」
颯も健斗も、香奈も優里も、雫華も、
みんな泣きながら祈っていた。
千景の母親は泣き崩れ、
先生たちも顔を歪めていた。
夜の病院に、
祈りだけが響いていた。
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