『桜咲く日に、カオスは始まる』
四月。満開の桜が風に揺れ、校門前には新入生たちのざわめきが広がっていた。
進学校・都立白鷺高校の入学式。
ここから、後に“伝説のクラス”と呼ばれる1年A組の物語が始まる。
優里は、胸元をそっと押さえながら深呼吸していた。
「今日から高校生…しっかりしなきゃ」
落ち着いた声と大人びた雰囲気。周囲の新入生がそわそわしている中、彼女だけは妙に凛としている。
そこへ、スポーツバッグを肩にかけた香奈が歩いてきた。
「うわ、桜すげー。写真撮っとこ。…って、日向まだ来てないの」
香奈はキョロキョロしながら、塾友の姿を探す。
その瞬間、後ろから風を切るように日向が登場した。
髪はゆるふわ、メイクは完璧、制服の着こなしはすでに完成形。
「お待たせ〜!ヘアセットに時間かかっちゃってさ」
「いや、毎回時間かかってんじゃん」
香奈が即ツッコミを入れる。
日向は香奈の肩を軽く叩きながら笑った。
「だって初日だよ?手抜きできないでしょ。あ、あの子…」
日向の視線の先には、セーラー服が異様に似合う少女がいた。
雫華だ。
日向は思わず声を漏らす。
「すっごい美人…」
しかし雫華は、桜の花びらを拾いながら独り言を言っていた。
「これ、天ぷらにしたら美味しいかな…いや、さすがにないか」
美貌と発言のギャップがすでに強烈。
その隣で、慌ててハンカチを落としたのがはるか。
「わっ、ちょっと待って、あっ、踏んだ!」
「え、はるかじゃん!!」
雫華が拾って渡すと、はるかは照れ笑い。
「ありがとう。今日から同じ学校だね。よろしく」
「うん。楽しみ!!あ、そういえば桜の天ぷらってどう思う?」
「ええ…!? 発想が独特すぎるよ」
一方男子陣は________
校門の反対側では、女子たちがざわついていた。
「ねえ見て、あの人絶対イケメンじゃん」
「背高いし、顔ちっさ…!」
噂の中心にいたのは翔太。
爽やかで整った顔立ち、姿勢も良く、まさに“学年一のイケメン”の風格。
彼は周囲の視線に気づきつつも、落ち着いた表情で歩いていた。
その横で、英語の参考書を片手にぶつぶつ言っているのが健斗。
「いや、mathは無理だって…なんでsinとcosが必要なんだよ…」
英語だけは完璧だが、その他の教科に怯えている。
さらに、眼鏡を押し上げながら歩く理人。
「この学校のカリキュラム、理系科目の配点が高いのはありがたいな」
冷静で知的な雰囲気だが、眼鏡の奥の顔立ちは意外と整っている。
そして、ひときわ元気な声が響く。
「おーい!新入生のみんなー!テンション上げてこー!」
颯だ。
初日からテンションMAXで、すでに周囲を巻き込んでいる。
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掲示板の前に人が集まり、A組の欄に視線が集中した。
「え、私A組だ」
「俺も」
「私もだよ!」
「え、全員A組じゃん」
気づけば、先ほどのメンバーが全員同じクラスに集結していた。
香奈が苦笑する。
「なんか…クセ強いのばっか集まってない?」
日向が頷く。
「うん、すでにカオスの予感しかしない」
そこへ、体育会系の声が響く。
「おーい!A組の新入生は体育館に集合だー!」
熱血教師・大河内先生が腕を組んで立っていた。
「よし、行くか」
颯が先頭に立ち、みんながぞろぞろとついていく。
優里は小さく微笑んだ。
「なんだか…にぎやかな一年になりそう」
雫華は桜の花びらを見上げながら言う。
「天ぷらはやめとくけどね」
香奈が即ツッコミ。
「そこはまだ考えてたんかい!」
桜が舞う中、1年A組の物語が静かに、しかし確実に騒がしく幕を開けた。




