45 おばさまはにぎやかね
「これで、だいたい終わったかしら」
「町に行っている人以外は、全員いるそうです」
メイが言った。
牛小屋の近くの小屋、というにはすこし大きいか。
三階、四階、五階とだんだん広がっていって五階が一番広くなっていた。
中に置いた椅子やテーブルでくつろいでいた人たちは、こっそり家からおやつを持ってきた人などでにぎやかになっていた。
「あらお嬢様! こっちへいらっしゃいよ」
テーブルを囲んでいたおばさまたちが、私を手招きした。
「なにかしら」
「お嬢様がやったんですって?」
「魔物から逃してくれて、この建物までつくってくれたのよ」
「あらあえらいわねえ。やっぱり、ただのお金持ちとはちがうのね」
ぽんぽんと、いろいろな人が話をしている。
「これはなにかしら?」
「お菓子。わたしがつくったのよ」
「あら。カリカリしておいしいわ」
「三日前のパンを焼いたのよ」
「こうするとおいしいでしょう」
「ええ」
カリカリしたなにかを食べながら、ちょっと独特の香りがするお茶を飲んだ。
「もう、みなさんおそろいなのよね?」
「ええ」
「もう安心」
「助かるわあ」
「よかったわ。ネズミがいたから、心配だったの」
メイの母親は、別の人たちとなにか食べている。
「ほんと、困っちゃうわよあのネズミ!」
「なんだかうじゃうじゃ出てきて、気味が悪いわよねえ」
「お嬢様、今度、うちに遊びに来なさいよ」
「うちにもいらっしゃい」
「ありがとう。じゃあ、そろそろネズミを片づけに行こうかしら」
「まだここにいらっしゃいよ。つかれたでしょう?」
「そうでもないけれど。ネズミを片づけたら、この建物も片づけないとね」
「片づけちゃうの?」
「ずっとあったら、じゃまじゃないかしら」
「そうだったの? 使用料がかかるのかと思っちゃったわ」
「ずっと置いておいてくれるなら、おいといてよ」
「そうよそうよ」
「そうなの? 私も、片づけるのは面倒だから、置いておいていいならそのままにするけれど」
「そうしましょう」
「避難所にしたらいいじゃない」
「なるほど。また、似たようなことがあるかもしれないものね」
「そうそう」
「村長さんからお金をもらわなきゃ」
「そうよ。村長さんはお金持ちだから」
「お嬢様のほうがお金持ちだけどね」
「あっはっは」
もう誰がしゃべっているのかわからないけれど、おばさまたちはにぎやかだった。
「これで、この村も安全ね。……、……」
「ナナ様、どうかしましたか?」
メイがカリカリするものを手に持って、やってきた。
「どうぞ」
「ありがとう。ええと、なにか忘れているような気がするけれど……。あ、パンのおじさんがいないわ」
「あ」
メイも気づいたようだった。
「そうよ、木を切ってあげて、パンをくれたおじさん。そうだわ。いないわ。どうして他の人たちは気づかなかったのかしら」
私に、予想外のパンの味を教えてくれたおじさん。
「ナナ様。あの人は、村の人、というわけではないのです」
メイは言った。
「どういうこと?」
「あの人? 何年か前に、村の端っこで住んでるのよねえ」
おばさまのひとりが言った。
「そうそう。あいてるところだからって、村長さんも許してあげて」
「いろいろ手伝ってくれてるみたいだけど、村の会合にも来ないし、税金なんかも払ってないみたいだわ」
「ご近所さん、が居心地がいいみたいよ」
「話をしたこと? ないわねえ」
「あらやだ、あの人まだ来てないの? 迎えに行ってあげてよ」
「わかったわ。行きましょ」
「はい!」
私はガドたちと一緒に仮設の建物を飛び出した。
「どこかしら」
「あちらです」
「ガド、覚えてるの?」
「一緒に行動していましたから。お嬢様が、木を切る手伝いをしていたときですね」
「そうよ! 本当によく覚えているのね」
ネズミや、犬のような形をした魔物がいる上を通って、森の入口のようなところへ飛んでいく。
「犬みたいな魔物もいます」
「本当ね。あ、そうそう、あそこにおばあさんがいたわね。一緒に飛んで、その先だから……」