26 この世の終わりだわ
「つまり、ネズミを倒したら剣が出て、それから倒すたびに剣が出た、と?」
ナイソックさんは言った。
「ええ」
「それが自由自在に動くと」
「そうよ」
ナイソックさんたちは、信じられないという顔をしていた。
「信じられません……」
信じられないと言っていた。
「ええと、じゃあ、今日のところは、信じられなかった、ということでいいかしら」
私が立ち去ろうとすると、お待ちを、とナイソックさん。
「では、王都へ参りましょう」
「え? 私が?」
「はい。ナナさんの、その強大な力を、王都のために使っていただきたいのです」
「また今度でいいかしら」
「いえ、これから王都へ」
「これから? いますぐということ?」
「はい」
お昼寝の時間がなくなってしまうわ。
「長くかかるのかしら」
「時間がかかっても、きちんとした宿をご用意いたします」
「宿」
泊まるの?
「生活に不自由しないような、いえ、快適にすごしていただけるような場所をご用意します。そういう協力があってこそ、国の安全が保てるわけで。ナナさんのお話は、それだけ重要だと考えています」
「はあ」
「時間に応じた報酬もお支払いしますし、安全には充分に配慮します」
「安全?」
「はい。ナナさんの、その特殊な力の確認を、させていただくということで」
「ううん……」
私は考えた。
「報酬って、お金でしょう?」
「はい」
「最近、報酬について、よくお話するのだけれど。報酬だったら、時間がほしいわ」
「時間、ですか」
「ええ」
私は大きくうなずいた。
「報酬をもらわないというのは、いろいろな意味でよくないということは学んだわ。でも、お金ならいっぱいあるもの。それより、私を自由にしてほしいの」
「しかし……」
ナイソックさんは困ったように私を見る。
「だっておかしいでしょう? 私、自分で言うのも変だけれど、いいお手伝いをしたと思うの」
「それはもちろん」
ナイソックさんは力強く言った。
「そうでしょう? だから、報酬をもらえるんでしょう?」
「そうです」
「でも、報酬をもらうと、お手伝いをするんでしょう?」
「そうですね」
「お手伝いをすると、報酬をもらって、お手伝いをするんでしょう」
「はい」
「報酬って、もらう人のためにあるのよね?」
「おそらく」
「ということは、よ」
「お手伝いをすると、私にとってうれしくないものが報酬で、しかも、お手伝いをしなければならなくなるのよ!」
私は気づいてしまったのだ。
お手伝いからのお手伝い。
お金はもう持っている。
なのにお手伝いは続く。
お手伝いからの、お手伝い。
私はいつ、お昼寝ができるのだ。
「ナナ」
お母さまが言う。
「王都から頼まれるなんて、名誉なことよ」
「でも、お手伝いが終わらないわ。それにお母さまも、私が結婚したほうがいいのでしょう?」
「それはそうだけれど」
「……待って」
私はまた気づいてしまった。
「お母さまは、お母さまだわ……」
「ナナ、なにを言っているの?」
「お母さまって……、大変だわ……」
私のお世話をしている。
いいえ……?
お姉さまたちのお世話をしている……?
え?
どういうこと?
結婚って、大変だわ?
なにもかも、大変だわ!?
「ナナ、どうしたの?」
「ちょっと、ええと……。なにを考えたらいいかもわからないわ」
「ナナ?」
「……もう、私には、できないわ……。そうだ、この剣あげますから、持っていってください」
私は、そのへんからてきとうに、十本くらい剣を動かしてきて、ナイソックさんの前に置いた。
「これを、譲っていただけると?」
「ただであげるわ。いえ、安くしておくわ。重いそうだから、気をつけてくださいね」
「これは、たしかに」
ナイソックさんと一緒に来た男の人が、二人で持ち上げようとしている。
他の人も加わって、一緒に剣を一本、持ち上げようとしはじめた。ならんで二人、一緒に三人、と増えていって、全員でやっても持ち上がらない。
「だめです……」
「お嬢様に来ていただかなければ」
彼らは私を見た。
「だめだわ……。もう……」
私は力尽きそうだった。
剣でつくった椅子に座って、体をだらりとさせた。
「お嬢様」
ガドが言った。
「なにかしら……」
「お嬢様は、お手伝いについて、難しく考えすぎています」
「はい……?」
「お嬢様は、難しく考えることは、お好きですか?」
「いいえ……」
「おききますが。お嬢様は、昨日の、これまでのお手伝いは、難しいものでしたか?」
「いいえ……。面倒なところはあっても、別に、難しくはなかったわ」
「そうですか。では、難しくないお手伝いだったら、引き受けるというのはいかがでしょう」
「え?」
私は顔を上げた。
「それでいいの?」
「おそらく彼らも、今回、盗賊を捕まえたことであったり、町の魔物を止めたことであったり、それくらいのことについての、話をするつもりです」
「あれくらいの?」
「お嬢様にとって、それらのことは、難しかったですか?」
「いいえ」
「無理がありましたか?」
「いいえ。でも、いかにも難しい話をされそうだわ」
「彼らは、そうした希望も聞いてくれるでしょう」
「そうなの? でも、難しい話になるかもしれないわ」
「そうなら、断ればいいのです。いざとなれば、わたしも一緒に考え、一緒にお断りしましょう。とりあえず、話を聞くだけ聞いて、あとで考えるということもできます」
「そんなことが……? 帰ってきて、いったんお昼寝をしてもいいの……?」
「それは話を聞いてからです。無理だと言いにくいなら、わたしが代わりに言いましょう」
「自分で言ってもいいけれど」
「では」
ガドはナイソックさんに向き直った。
「かまいませんね?」
「え? ええ、それは、こちらとしてもお願いするわけですし、あれがかんたんだというのなら、特に問題もなさそうですし……」
「ということです」
「話を聞くだけで終わることもあるの? なら、話だけは聞こうかしら。ガドと、メイドのメイを連れていってもいいのかしら」
「はい、それはもちろん」
「無理なことはしないわ」
「はい」
「じゃあ、一度、行ってみようかしら」
「ありがとうございます!」