12 なにか来るみたい
気づけば、町の一番高い建物よりもずっと高くまで上がっていた。
「ほらメイ、ごらんなさい。いい景色よ」
偶然だったけれど、町のまわりの景色がよく見えた。
特に、来る途中は見なかったけれども、振り返ってみると、崖の岩肌や、離れたところにある湖なども見えた。
「湖を見てから帰る? あそこは有名な場所なのかしら」
「まっすぐ帰りましょう」
メイは私の腕をしっかりつかんだ。
「だいじょうぶよ。下を見て見なさい。あの人たちは、ここまでは来られないわ」
私がメイの手を引いて剣の端まで行こうとすると、メイがぐっ、と体に力を入れてこらえた。
「だいじょうぶです」
「でも実際に見たほうが安心で」
「だいじょうぶです!!」
「……それならいいけど」
私は前を指した。
「だったらそうね。遠くを見なさい。そうすれば、きれいな景色に見えるわ。下を見るといけないのね。下を見るとあんなことになっているからね。下を見たらいけないわ」
「よけいに気になります!」
「うふふ」
「お嬢様、彼らに身分を明らかにしますか?」
ガドは言った。
「それとも放置しますか?」
「そうねえ。やっぱり、ちゃんとしておかないと、あとで面倒なことになってお母さまに迷惑をかけてもいけないし……。でも、お母さまに来てもらうほうがいいのかしら。それだと、お母さまに迷惑が……、ねえ、あれはなにかしら」
なんとなく見ていた草原の先で、なにかが盛り上がっているのが見えた。
いや、そうじゃない。
動いている。
じんわりと広がりながら、近づいてくる。
「土煙かしら」
「そうですね……」
メイも気づいたようだった。
「強い風でも吹いているのかしら。ずいぶん広がってきているわね」
「お嬢様、あれは……」
ガドが目をこらす。
「わかる?」
「魔物でしょう」
「あれが?」
土煙しかわからない。
「魔物の群れです。このままだと、しばらくしたらこの町にやってくるかもしれませんね」
「魔物が? そういうことは、よくあるの?」
「この町の外壁や、先ほどの男たちの装備を見るに、それほどの戦力が必要な場所ではなさそうですから、おそらくはあまり来ないのでは」
「じゃあ平気なのね?」
ガドは首を振った。
「いえ。あの魔物が、あの数、突進力でそのままやってくるとなれば、壊滅的な被害になるかもしれません」
「大変じゃない」
「避難指示を出して、町民の安全を確保できる場所に集め、守るか、攻撃するべきでしょう」
「町の人に教えてあげなきゃ。あ、でも、よくあることかもしれないのよわね……。勝手にさわいだら、迷惑かもしれない……」
「でも、来てしまったら」
メイが不安そうに言う。
「そうだわ。町の人ならわかるわよね」
私は、ゆっくりおりていく。
一度は離れた彼らとの距離が、また縮まってくる。
「お嬢様!?」
メイが私の服をしっかりつかむ。
「いけません、危ないです!」
「ねえ、あなたたち!」
私が呼びかけると、男たちが武器を構えた。
「おい、またきたぞ」
などと言っている。
「ガド。あの中で一番上の人は誰?」
「おそらく、槍を持った男でしょう」
「あなた! ちょっといいかしら!」
私が槍男を指すと、びくっ、とした。
「な、なんだ」
「この町についてききたいのだけれど!」
「それより、我々についてこい! これ以上抵抗するつもりなら」
「いま、あっちの方を見たら、遠くのほうで土煙が上がっていたの。ガド、この男の人が言うには、たくさんの魔物がこっちに向かって走ってきていると言っているわ。そのまま町に来たら、大変な被害にあうだろうって。こういうことってよくあるのかしら」
「はあ?」
男たちは顔を見合わせる。
「なにを言っているんだ?」
「このままだと町が壊滅するかもしれないって言っているわ」
「そんなことはありえない。いいかげんなことを」
「ウォールホーンかと思われる」
ガドが言うと、槍の人がちょっと顔色を変える。
「なんだと?」
「すぐに対策を練るべきかと思うが」
「まさか。いや……」
そう言って、槍の人はこっちを見た。
「……ちょっと、景色を見せてもらえないか」
「いいわよ」
「お嬢様!」
メイがぐっ、と腕を引く。
「危ないですよ!」
「え? 見せてあげるだけよ?」
「捕まってしまいます!」
「その可能性はありますね」
ガドも言った。
「そうなの? 油断もすきもないのね。じゃあ、こうしましょう」
私は、あまっていた剣を引き寄せて、刃の部分を丸めた。
そして下で待っていた槍の人の胸に巻きつけた。
「お、おい」
槍の人は槍を放り出して、巻きついた剣をつかんで外そうとする。でも無理みたいだ。
私は剣を引き上げた。
槍の人の顔が、私たちと同じ高さまで上がってきた。
「おい、はずせ!」
「暴れると危険よ。さあ行きましょうか」
そのまま一緒に、前に動き出した。
「な、なんだ!」
「見せてあげるわ」
すーっ、とどんどん、高く上がっていった。




