11 裏通りはよくないわ
町は全体が壁に囲われている。といっても、王都のような高い外壁とはちがって、ガドの身長よりもすこし高いくらいの壁だ。よじ登ろうと思えば……、私にはできないけれど、できる人もたくさんいるだろう。
入り口は、門が開かれていて、槍を持った人が二人、立っていた。
私たちは荷台を降りた。
「や、どうも」
とピックさんがあいさつをしながら通行証を出す。
「やあ」
と槍の人の片方が手をあげて、笑顔で応じる。年齢はよくわからないけれど、堂々としていて、体の大きな人だ。
もうひとりの人は、じっとだまって、こちらを見るような、見ないような様子だった。
「今日は、だいぶ遅いみたいだが……、知らない顔が多いな」
槍の人は私たちを見る。
「ちょっと、里帰りしてる子なんかに手伝ってもらってまして」
ピックさんは頭を下げながら言う。
「そりゃ結構。手伝ってくれる人がいるっていうのは、いいもんだ。……馬車、それ、どうなってるんだい……? 馬は?」
門番らしい人は、不思議そうに荷台の下をのぞいた。
ピックさんが、どうしたものか、という顔でこっちを見る。
「魔法のようなものです。馬車がこわれて、今日は特別に」
ガドがすぐ言った。
「魔法? なら金がかかったんじゃないか?」
「それは、これから彼女に金額を交渉して……」
ピックさんが私を見る。
「へえ、あの子がこの魔法を?」
門番さんはめずらしそうに私を見た。
「だったら、がっぽりもらっちゃいな」
笑いながら言う。
「私、お金をもらうためにやったんじゃないわ」
私が言うと、門番さんは目を大きくした。
「なるほど。でも、もらえるときにもらっておいたほうがいい。これはお兄さんからの忠告だ」
「そう」
私は、メイの話を思い出した。
「なら、しっかりもらっておこうかしら」
「ちょ、あの」
ピックさんがあたふたするのを見て、門番さんが笑っていた。
中に入ると、看板が出た建物がならんでいて、道をつくっていた。
人が行き交っていて、にぎやかだ。
「こっちです、こっち」
手招きするピックさんの先導で、ひとつ裏の通りに入る。
するととたんに、人の数が減った。それほど薄暗いわけではないのに、さびしげな印象だった。
「ちょっといったところに、取引先の店がありますので……、ああ! あそこが取引先です」
ピックさんは、先のほうにある赤い看板を指して、振り返った。
あわただしく私たちを連れていく。
「はい、こっちへ、はい。お嬢様、こちらです、こちら……、はい! 荷台はこちらに置いてください。はい、ありがとうございます! ちょっと待っていてください。ああ、荷台はそこに置いたままで。すいませーん」
ピックさんは裏口をノックして、入っていってしまった。
「なんだかおいしそうな香りがするわね」
お肉が焼けるにおいがする。この建物の中だろうか。
「食堂かなにかでしょう。来ましたね」
ガドの言葉のあと、ドアが開いてピックさんと、背の低い男性が出てきた。
背の低い人は、大きな声でぽんぽんと、ピックさんに喋り続けている。
「おいどうなってんだ、間に合わないかと思ったぞ!」
「す、すいません、ですが」
「これか、よーし! おい、早く中に入れろ!」
「おっす!」
中から三人出てきて、荷物の積み込みを始めた。
ピックさんが私を見る。
「あの、すこし時間がかかりますし、このあと、荷車の修理依頼などいろいろやることがありますので」
「私たちは、散歩でもしていたらいいのね?」
「いえ、お先におかえりいただいて……」
「ピックさんはどうやって帰るの?」
「それはどうとでも。お礼はあらためていたしますので……。 あ、店長! 荷物が終わるまで、ちょっと出てきますから!」
ピックさんは、店員の返事を確認すると、どこかへ走っていってしまった。
私、メイ、ガドが裏通りに残された。
「いそがしいのねえ」
「そうですね」
「……そうだ。すこし散歩をしない? 私、知っているの」
私が歩きだすと、二人がついてくる。
「なにをご存知なのでしょう」
「お屋敷の廊下で、誰かが話しているのが聞こえてきたのよ」
「どんなお話ですか?」
とメイ。
「ごはんを食べられるお店があるでしょう?」
「はい」
「町というのはね。表にあるお店よりも、もっと、裏通りにあるお店のほうがおいしい食べ物を出してくれるのよ」
「そうなんですか?」
「そうよ。ねえ、ガド?」
「一概には言えませんが」
「ガドはあまりそういうことに詳しくないのかもしれないわね。あなたは、戦いのことが得意でしょう?」
「はい」
前に進む。
「うちで料理をしてくれる人は、とてもおいしいご飯を作ってくれるわ。でも、メイの村でふつうにしてるおじいさんのパンが、あんなにおいしかったのよ? ということは、町の裏通りだったら、もっとすごい料理が出てくるんじゃないかしら」
「でもナナ様」
角を曲がったところだった。
「あら?」
男の人が、前からやってきた。
四人いる。みんな同じような、そろった緑色の服を着ていて、剣や槍など、なにかしらの武器を持っていた。
「もどりましょう」
ガドが私の背中を支えるようにして、角をもどろうとした。
すると、いま来たほうからも、三人近づいてくる。やはり似たような服装で、武器を持っている。
「おい、お前、いま逃げようとしたな?」
四人うちの誰かが、大きな声で言った。
前から四人、後ろから三人。
すこし離れたところで立ち止まって、私たちを見ている。
四人の方の、先頭の、槍を持った人が私たちをにらむように見ていて、他の人たちは武器を構えていた。
「ナナ様……」
メイが私の服をつまんで、体を寄せてきた。
「おいお前、この町の人間ではないな。なにをしている」
先頭の、槍の人が言った。
持っていた槍の先をこっちに向ける。
危ないわ。
「なにをしにこの町に来た」
槍の人が、ガドに言う。
「荷物を運ぶのを手伝いに」
「荷物はどうした」
「終わって、散歩を」
「表通りじゃなく、裏通りをか?」
「ええ。食事ができるところを探して」
「通行証を見せろ」
「同行者が持っています」
「どこにいる」
「この町のどこかに」
彼らは視線を交わした。
「我々についてきてもらおう。剣を提出しろ」
「なぜ?」
「なぜだと? ……この町のどこかに」
槍の人は、ガドのまねをした。
「なにがどこかに、だ。ふざけるな。しかもそれは、素人の剣ではないな。来い。抵抗するなら」
槍の人が手をあげた。
男たちが武器を構えて、じり、と近づいてくる。
「ナナ様」
メイが私にくっついてきた。
「ガド、この人たちはなんなの?」
「おそらく、この町の衛兵かなにかでしょう」
「……私がよけいなことしたせいで、あやしまれたのね」
「運が悪かったのです」
「でも、ピックさんに来てもらえばいいんでしょう?」
「しばらく時間を取られるでしょう。一時的に拘束されるかもしれません。ピック氏が見つからなければ、大変面倒なことになります。かといって、突破するわけにもいきませんね」
ガドは腰の剣を軽くさわった。
「だめに決まってるでしょう。そんなあぶないこと」
「なにをごちゃごちゃ言っている!」
槍の人が大きな声を出したので、メイがびくっとする。
「さっさと来い!」
私はふと思った。
「ねえ、身分が明らかになればいいのよね?」
「そうだが」
槍の人が、うたがうように私を見る。
「なら、いったん家に帰って、証明できる人を連れてくるわ」
「はあ? 帰らせるわけがないだろう!」
槍の人が言った。
「私たちはあやしい者ではないわ」
「それはこちらで決める!」
「すぐよ、すぐ」
私は見上げた。
空を、ふわふわと剣がやってきていた。
ふと思いついて、大きく広げてみた。すると剣のひとつひとつが、ドアよりもすこし大きいくらいまで広がった。
このほうが乗りやすいわ。
それを私たちの足元に滑り込ませた。
ちょっと、自分で自分に足払いをかけるような形になってしまって私とメイは剣の上で尻もちをついてしまった。
ガドはきれいに飛び乗っている。
「すぐ、もどってくるから」
私たちは、そのまま空に舞い上がった。
見下ろすと、彼らは、おどろいた顔でこっちを見ていた。
「薄くても、しっかりしてるわね」
私が剣を、パンパン、とたたいてみたら、メイが私の腕にしがみついた。
「お嬢様、いけません!」
「だいじょうぶよ。だって、なんていうか……。だいじょうぶそうだもの」
「お嬢様!」
「それにしても、裏通りって危ないのね。おいしい食べ物なんて、やめておくわ。お母さまに来てもらわないといけないかしらね」
私が言うと、ガドはなんとも言えない顔をしていた。
あんな態度だったけど、おいしい食べ物を期待していたのだろうか。気持ちはわからなくもない。




