届かない手紙
9時過ぎに目を覚ました俺はふらつく頭で、新宿の携帯ショップに来ていた。
ダンジョンの中で約束したカイムのスマホを購入するためだ。
カイムがスマホを選んだあと、店員のマシンガントークがさく裂し次々と訳の分からない契約が追加されていく。
一応は俺の2台目としての購入となるので初めは代金も安くなったりしてお得だと思っていたら、
終わる頃には月々の代金が俺のスマホの2倍を超える金額になっていた。
カイムが横でギャアギャア喚くため、仕方が無しにそのまま契約を結んできた。
そして、お金の事より酷いのが時間の事だ。
10時に店に訪れて、即スマホを決めたのに、くだらないセールストークのせいで1時間以上潰された。
俺が駅の近くのファミレスに陣取り、待っているとほどなくして2人が到着した。
俺は手を振りキョロキョロしている2人を呼びせる。
何故か、加藤君がデカいキャリーケースを引いている。
「加藤君、それ何?」
俺は不思議な大荷物について質問してみた。
「これかい、これには三沢君に選んでもらった服と日記が入ってるんだ。
三沢君が菅原君が告白の作戦を立てるのに必要だから持ってくるようにって・・・。
少し恥ずかしいけど、ここまでしてくれた2人になら見てもらっても構わないよ。
ただ、こういった日記を書くのは初めてだから、ちょっと多くなってしまってね。
服の方はいつでも告白に行けるように、常に持ち歩いてるんだ。」
異様にテンションの高い加藤君とは裏腹に大輔が不安そうな顔をしている。
「加藤君、ちょっと日記を見せてもらっていいかな?」
加藤君がケースを開けて机の上に日記帳を取り出す。
1日に1ページ書いているようだが、中に書かれてるのは小学生の感想のような事しか書かれていない。
後の世の学者先生の資料としては落第点だ。
お相手の事を聞くと、今度は厳重に封をされた紙の封筒を寄こしてきた。
お相手は渋谷アルキメデス女学院の二年生、黒田裕子さん、文武両道の胸は大きく無いが綺麗な女性だった。
隠し撮りの写真や家族構成まであるのは探偵の仕事だからだろう・・・。
「よし!わかったぞ!加藤君、君の告白はラブレターですることにしよう!」
「ラブレターかい?」
「そうだ!君の相手の黒田さんは奥ゆかしい日本女性の鏡ともいうべき人だろ!」
「う、うん・・・。」
「そんな人がいきなり告白されてウンと言うはずが無い!だから手紙で加藤君の心を伝えるんだ!」
「僕の・・・こころ・・。」
「そうだ!だが、失敗は許されない!ここは俺と大輔で加藤君が書いたラブレターを確認させてもらう!」
「えっ!なんだか恥ずかしいな・・・。」
「だが、必要な事だ!俺達の心を動かせるような手紙なら、彼女にも必ず届く!そう思わない?」
「そ、そうかな・・・。」
大輔!さっさと仕事しろ!!
ここだ!ここで同意するんだ!!!
「そ、そうだよ!加藤君、俺はともかく直道の作戦は完璧だ!俺もそのお陰で宮沢さんと付き合ったようなものだし!」
「う、うん、分ったよ!」
大輔め!俺を売るとは成長したな・・・。
お前、付き合った事は事後報告だったくせに・・・。
「それと加藤君、手紙を書くのは1日30分だ!それを超えて書いてはいけない!」
「えっ!な、何故だい?」
「ダラダラ書いても、良い手紙は書けない!その30分に全てを込めて書くんだ!
書けないって事は残念ながら加藤君の想いが足りて無いって事だからね。
それでは心を揺さぶる言葉を書けたりはしない!」
「わかった!僕、やってみるよ!」
こうして、ファミレスでの作戦会議は終わり、加藤君はラブレター用のレターセットを買いに行くと言って店を出て行った。
あいかわらずの行動力だ。
「お前、この後どうすんだ?」
「もちろん、加藤君の手紙が俺達の審査を通る事は無い。」
「ずっと手紙の審査を続けるのか?」
「お相手の黒田さんはかなりの美人だ。すぐに彼氏が出来て、その必要も無くなるさ。」
こいつ、あいかわらずのビビりだな。
もう賽は投げられたんだ、今更どうのこうの言うなよ。
大輔は不安そうだったが、それまで大人しかったカイムが帰ると言い出すとあっさり引いた。
久々に宮沢さんと会うと言っていたので、俺は助けた事を後悔した。
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家に戻ると、換金を大石さんに頼まなければいけない事を思い出した。
どう説明しよう・・・。
春休みの事も話すべきだろうか・・・。
説明が面倒そうだが、あのデカい魔石と不思議な眼鏡はそうとうな値段になりそうだ。
売らないという選択肢は無い。
一度、荷物を整理してから持って行こう。
多くの感想と誤字報告、有難う御座います。
書けば書くほど誤字脱字が増えるのは無間地獄にいるようです。
本日2本目の投稿をさせて頂きます。
色々ご心配かけたり応援して頂いたりで頭が上がりませんが、これからもよろしくお願いします。




