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君の心の中。

続編です^^



 朝。

 透き通るような気持ちいい空気に、私は静かに目を開いた。気づくと彼が私の隣で寝息を立てて目をつぶっていた。

「起きて。佐伯君。」

 私は彼の名前を呼ぶ。佐伯和己、それが彼の名前だ。彼が来てから何日かたったある日、私が呼びずらいからという理由で簡単に思ってつけた名前は彼の存在を大きく広げる。

 彼は私が言うなり、目をこすって眠そうに唸ることもなく、理由を付けて寝るふりもすることなくすくっと起き上がると「すいません。寝てしまったようです。」そう言ってそっと私のまわりを通ると私の足を踏まないように静かにベットから出た。

「何の夢を見たの?」

 私が訪ねると彼は「何の夢も見ていませんよ。目をつぶっていただけです。」そう言って光が射し込む窓のカーテンを開ける。

 私も起き上がって朝食の支度をすると彼が「包丁は危険なので私がやりましょうか?」と私に言った。

「お願いできる?このウインナーとキャベツを切ってほしいんだけど。」

 私は食材を手渡すと彼に包丁を手渡した。

「君も手、切らないようにね?」

 私はいたずらっぽく笑う。

「平気です。私が怪我をするよりあなたが怪我をするほうが危険ですから。」

「ほらぁ〜またそんなこと言う。私、君のことも心配だ。」

 そんな会話を交わして、私は台所からは慣れるとリュックサックに机に置いておいた教科書や弁当を詰め込む。

 台所に戻ると彼が切り終わって無表情に見つめていたので吹き出しそうになった。

「そんな無表情に見つめなくても。笑えばいいのに〜」

「笑えませんよ。まだ。。。」

「まだ?」

「まだです。まだ、とても。。。」

 彼は無表情なのに何故か切なそうな表情をしたような気がした。気のせいだきっと。

「あとは、私がやるから出る準備をしておいてくれる?」

 彼にできないことを追求しても仕方がない。私は彼にそう言うと彼はコクンと頷いて台所から離れた。




 今日もきっと私が出た瞬間に雨が降ってきっと彼が傘をさしてくれるだろう。そう思ってたけど、今日は何故か雨が降らなかった。

 学校につくと友人が私に気づいて「今日は、君が来たのに雨降らなかったよ。よかったじゃん!」そう言って私の肩をトンと叩いた。

「うん。珍しくね〜」

「良かった良かった〜!!」

「うん。」

 席に着くと広々とした空間の中、他の生徒の話し声が聞こえる。ざわざわとした心地よいその空気にチャイムが鳴って先生が入ってくるとシーンと静かになる中、彼は私の右隣に座って静かに前を見つめている。

「あの、前にいる先生最近彼女ができたんだって。」

 私が彼に小声でそう話すと「授業中です。」そう言って彼も小声で返してくれた。



 何日も何日も彼と過ごした。

 夏の暑さに顔をしかめた日も、冬の季節、鼻水が止まらなくってそんな事だけなのに涙が出た日も、春には友人と彼とで花見に行った。彼がおにぎりを作ってそれがとても塩辛くて友人と笑った日も彼がいつものように私のそばにいて私を守ってくれていた。

 そのおかげで生傷がたえなかった私は、彼のおかげでなくなったし前よりも笑うようになった。

 でも彼はそのせいでいつも傷だらけだ。

 それに何日も何日も立ってるのに彼はいっこうに表情を見せなかった。

 いつも暗い瞳を持って涙1つこぼれない。

 痛みでさえも彼は『痛い。』さえも言わずに無表情さを気取っていた。


 彼の今の心情が知りたい。

 ほんの少しの欠片でもいい。

 私は思った。

 彼が感情を見せないのは怖いからじゃないだろうか。

 そう、いきなり彼の心にできた感情や痛みは彼を揺るがしているんだ。


 何かのきっかけが欲しい。

 彼を変えるきっかけがあれば、彼は笑ってくれるかもしれない。

 日々は、彼を中心に回り私は彼が笑っている姿を想像するとまるでそれこそこの世界に生きてる人間のように思う。




買い物を済ませて、季節はぐるぐる回って夏の季節。

「私が持ちますよ。」

彼はそう言って私の買い物袋を持ってくれる。手と手が触れて彼の体温が私の手に伝わる。温かい、彼の手は私の心を優しく包み込んでくれる。

「重たい?」

私が言うと「いえ、大丈夫。」彼はそう言って私を見る。

夕日のせいでこの空間はオレンジ色に染まっていた。


「綺麗だね。写真に収めたいぐらい。」

私は空を見上げて彼に言う。

「そうですね。」

「でも、自分が見ているこの風景は写真に映すのはとても難しいんだよ。この自分の目で見ているものと写真とでは全然違うの。」

「私が映すこの瞳は人工的に作られたものです。あなたみたいに繊細じゃない。」

彼を見ると、なんだか切なそうな表情に見えた。彼にも感情というものがあったのなら今どんなことを考えて感じてるのだろう。

「君も私と同じだよ。感じてみて。」

「どういうふうに、ですか?」

「心で感じるの。ほら私みたいに。君はさ、自分を深く考えすぎるんだよ。それは逃げてるだけ。私は君が感情を抑えてるの知ってる。」

そう言ってみると、なんだか心が軽くなったような気がして私は笑ってみた。


ほら君も笑ってみてよ。

そんなふうに彼に向けて、私は言う。


「今、私の中は君でいっぱいだ。だから私は君の気持ちを知りたいんだ。」

広い外の世界で君が何を考えてるのか、それが知りたい。

縛られることも難しいことも考えなくていい。

それでも彼は笑わずに、うつむいただけだった。そっと私に向けていた目をそらす。それが私には何かを隠しているんじゃないかって感じた。

空はいつの間にか青に染まる。キラキラと星が輝いていた。これはこれで本当に綺麗。私はうつむいたままの彼にそう言う。

彼は「そうですね。」素っ気なく返す。

愛想笑いぐらいしてくれたらいいのに。私はそう感じたけど飲み込んだ。




きっとスムーズに答えが見つかるわけじゃない。

曖昧に取り繕った言葉じゃ相手の気持ちを理解したとは言えない。



ゆっくりでいい。

もしかしたらふいに彼が微笑んでくれるかもしれない。



そんな事を思った。




読んでいただきありがとうございます!

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