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人狼ゲーム殺人事件  作者: iris Gabe
解決編
31/31

30.追記

 完敗だ。またしてもこの小ざかしい恭助にぐうの音も出ぬほどに叩きのめされた。この無様な俺の姿を目の当たりにして、相棒のリーサはいったい何というのだろうか。

「あらあら、どうやらまたまたリンザブロウさんの勝ちみたいですね。恭助さん、もうちょっとお勉強してから出直してくださいね」

 リーサが返した言葉は全く想定外のものであった。いや、リーサ、それは違う。負けたのは俺なんだ……。俺は恭助に横目をやった。

「そうだよね。リーサちゃん。またなんでも屋にしてやられちまったよ。畜生、今度こそは勝てたと思ったんだけどなあ」

 恭助は笑いながらリーサに応じていた。

「何度やっても結果は同じだと思いますけどねえ。まあ、若気の至りというか、駿河の富士と一里塚というか。でも、恭助さんって結構面白い人ですから、また勝負にいらしたらリンザブロウさんも忙しいさなかですけどきっとお相手してくれることでしょうね」

 どうやら、リーサのAI思考では、俺たちが推理で取り交わした高度な会話内容を理解できるまでにはなっていないということだ。無理もないが、リーサは現場にいたわけでもないし、見ていないものに対する想像力となると、まだまだ人間の頭脳には到底及ばないということだろう。

「なんでも屋に会うのなんかどっちでもいいんだけど、愛しのリーサちゃんに会えるのなら、たとえ火の中水の中、雨が降ろうが槍が降ろうが、いばらの道が立ちふさがろうが、リーサ姫を助けるために、俺はいつでも馳せ参じる覚悟だよ」

 この低俗なる会話。こんな野郎にやり込められたと思うだけで、ますます腹の虫がおさまらなくなる。ほうらみろ、リーサがしゃべる言葉に困窮しているじゃないか……。

「それじゃあ、また来るからねえ。リーサちゃん、愛してるよー」

 最後まで一方的にまくしたてまくって、如月恭助は事務所をあとにした。今度やつに会うのは、果たしていつになることやら。


 終わってみれば、人狼館にいなかった虫除けくんが、人狼館にいた誰よりも深く真相に到達していた。その人智を超えた洞察力たるや、私はただ脱帽するしかなかった。

「お見事です。まさかここまであからさまにされてしまうなんて、思いもしませんでした」

「あんたこそ、たいしたものだよ。かよわい女の子なのに、百戦錬磨のつわものたちを相手に、殺人ゲームで最後まで生き残ったんだからな」

「たまたまです。もう二度とあんなのはごめんです」

「そうだよね。せっかく助かった命なんだから、大切にして楽しい女子大生生活を満喫しておくれよ。

ところで、おせっかいかもしれないけど、なんであんた大学を受け直したの?」

「最初の大学は、授業料が払えなくなってやめざるを得なかったのです。母が急死してしまったので。でも、翌年に思わぬことから大財閥の遺産をもらえることになりました。だからもう一度受験をし直して、大学で勉強をしてみたくなったのです」

「へー、あんた見た目によらず、浮き沈みの激しい壮絶な人生を歩んでいるんだね」

「さてと……。どうやらあなたの用事は済んだみたいですね。じゃあ、そろそろお別れってことで、よろしいでしょうか」

 話がプライバシーに踏み込んできたので、困り果てた私は、話をとぎれさせようと試みた。でもそのせいで、うっかりこの楽しいおしゃべりを終結させるような発言をしてしまった。成り行きは残念だけれども、こうなっては仕方ない。これで虫除けくんとも、もう二度と会うこともないのであろう……。

「えー、せっかく美人と知り合えたのに、もうこれでお別れなんて、むごすぎるよー」

 意外にも虫除けくんが、突然泣き出した。「お願いです。なんでもいたしますから、またなにか機会がありましたら、ぜひとも俺とお話をしてください。そのお、一生のお願いです」

 そのまま虫除けくんはテーブルに頭を押し付けて土下座までし始めた。一生のお願いって、今日初めて出会った相手に向かって使うものなのだろうか。

「仕方ありませんね。その意気込みに免じて、もしまた何か機会がありましたらお会いしてあげましょう」

 想定外のやり取りであったが、私の思惑おもわく的には好都合な流れとなった。私は顔色を変えずに、最後まで高飛車に応対することにした。

「本当に! どうもありがとうございます。摩耶さま。そうだ、今日からそう呼ばせてください」

 大げさなゼスチャーを交えて、虫除けくんが喜びを表している。本音をいえば、私も心の中でちょっとだけ安堵していた。

「ところで摩耶さま、お聞きしたところによれば、摩耶さまは群馬県の大邸宅のご令嬢だそうですね」

「やめてください。摩耶と呼び捨てで結構です」

「ああそうですか。よかったあ。

 実は摩耶さまじゃあ、ちょいと堅苦しいなと思っていたんだよ。ねえ。摩耶ちゃん――」

 規格はずれの切り替えの速さ。今した私の発言は完全に失言であった。結局、会話で振り回され続けているのは、この私みたいだ。

「あざみ館ですね。群馬県の端っこの山の中にあります。里帰りした時でよければ、いつでもご招待して差し上げますよ。でも、うっかりあざみ館に足を踏み入れたら、もしかしたら生きて出られないかもしれませんね」

 そういって、私は一人でくすくす笑った。

「へえ。どうやら、人狼館に負けず及ばず怪しげなお屋敷みたいだね。ぜひ訪問してみたいものだな」

 虫除けくんもちっともひるむ様子がなかった。


 その後三十分ほど雑談を交わして、私たちは別れた。

 虫除けくん――、いや、如月恭助君は、下手したてに出たり、上から目線になったりと変幻自在で、最後まで私を翻弄ほんろうし続けたけど、終わってみれば彼との会話の時間はとても楽しくて、あっという間に過ぎ去ってしまった。

 今度彼と会えるのはいつになるだろう。そして、その時私たちはまだ味方でいられるのだろうか。もしかすると……。

 長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。

 一見すると、クローズドサークルにおける密室殺人という派手な設定ですが、メインテーマは、エロティックな描写が謎解きの根幹を担うミステリーを創作してみたくなって書いてみた作品です。

 いかがだったでしょうか。みなさまのご意見・ご感想をお待ちしております。

  iris Gabe



 本作は、私がこれまでに創作したキャラクターのオールスターキャストで書いております。ここで、彼らが活躍した過去の作品も、合わせて紹介させていただきます。



堂林凛三郎  『七首村連続殺人事件』

       『依頼人』

       『九階建てのマンション』

(如月シリーズに彗星のごとく出現した天性の語り手)


西野摩耶   『あざみ館の三姉妹』

(創作した数々の美女キャラの頂点に君臨する謎めいた女の子)


東野葵子   『小説・吸血鬼の村』、

       『続、小説・吸血鬼の村』、

       『入門編、小説・吸血鬼の村』

(吸血鬼シリーズで最も知力が高かった女の子)


久保川恒実  『入門編、小説・吸血鬼の村』

(地味ながら個性的な名脇役)


川本誠二   『ツキに見放された日』

       『九十九坂の途中で(第1話)』

       『九時を過ぎた宅配便』

       『白雪邸殺人事件』

(多数の作品で名脇役として活躍するものの、果たして同一人物なのかどうかは不明)


丸山文佳   『未来からの調査員』

       『決してあってはならないこと』

(私の初期の作品で活躍した女性に似たようなお名前が。おそらく別人でしょうけど……)


如月恭助   『白銀の密室』

       『白雪邸殺人事件』

       『宗谷本線秘境駅殺人事件』

       『小倉百人一首殺人事件』

       『毒入りカップ麺事件』

       『七首村連続殺人事件』

(ご存じ、如月シリーズの自由気ままな主人公)

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