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人狼ゲーム殺人事件  作者: iris Gabe
出題編
21/31

21.手記

 とにかく俺は、これまでに起こった事実を思い出していき、それらをノートに一つ一つ書き連ねていった。幸いにも、ノートや筆記用具は、俺の個室にあった書き物机の中に、いっぱい入っていたのだ。人狼館の主――高椿子爵が、メモ魔である俺の性格に配慮をしてくれたのかもしれない。

 それにしても、今回の事件は、極めて複雑怪奇な難事件で、真相の究明のためには、煩雑となってしまった手がかりの要約が、なにより不可欠である。

 以下に、これまでに俺がまとめあげた数々の貴重なメモの内容を、記載してゆこう。



 堂林凛三郎による手記 ~人狼館における連続殺人事件の全貌~


1.事件のあらまし

 一日の時間帯を以下のように大雑把に区切って、ここでは記述することとする。

  午前(午前五時から正午まで)

  午後(正午から午後七時まで)

  宵刻(午後七時から午前零時まで)

  深夜(午前零時から午前五時まで)


一日目

 宵刻 堂林、相沢、川本、藤ヶ谷、丸山、高木が顔を合わす。


二日目

 午前 久保川が館へやってくる。

 宵刻 AIメイドのアオイの宣告で、人狼ゲームが開始される。

 宵刻 西野が自室から出て、姿を現わす。

 深夜 相沢が殺される。


三日目

 午前 相沢の遺体が発見される。

 宵刻 相沢の遺体を電気椅子に掛ける。

 深夜 高木が殺される。


四日目

 午前 高木の遺体が発見される。

 午後 一ノ瀬夫人が失踪する。

 深夜 藤ヶ谷が西野を強姦する。


五日目

 午前 藤ヶ谷が失踪する。

 午後 久保川が殺される。

 宵刻 堂林が張り込みをする。

 宵刻 藤ヶ谷が殺される。


六日目

 午前 久保川の遺体が発見される。

 午前 マスターキーが見つかる。

 午前 藤ヶ谷の遺体が発見される。

 午前 凶器の鎚矛が見つかる。


 以上が事件の概要である。なお、事の詳細は後述することとする。



2.アオイがした発言

 AIメイドの東野葵子が、これまでに返答した内容を、以下に記述する。


 一、人狼を処刑すれば、ゲームは終わる。

 二、処刑を行う装置が、館内に用意されている。

 三、処刑が執行できるのは、毎日の午後九時から午後十時まで。

 四、処刑は、一日で一人にしか執行できない。

 五、ゲームの参加者は、十人。

 六、その十人の中には、一ノ瀬夫妻も含まれる。

 七、人狼は、一人しかいない。

 八、マスターキーは、一つしかない。

 九、参加者それぞれに用意された個室の鍵も、一つずつしかない。

 十、西野は、藤ヶ谷から男性器を挿入されてはいない。

 十一、館内には、監視カメラが百八個設置されている。

 十二、小型金庫の開閉ができる鍵は、一つしかない。



3.個々の出来事に関する詳細事項

A.相沢の殺害

 三日目午前九時に、堂林が相沢の遺体を発見する。現場は、相沢の個室であった七号室。遺体の発見時には、七号室の扉と二階のガフの扉のいずれにも、鍵は掛かっていなかった。

 死因は後頭部の殴打による損傷。相沢は裸のままで殺されていた。久保川による、相沢の死亡推定時刻は、三日目午前五時よりは前とのこと。ちなみに前の晩に相沢が一同と別れたのが、午前零時五十分。

 現場の七号室の鍵が紛失していた。おそらく犯人が持ち去ったと思われる。


B.高木の殺害

 四日目午前九時に、堂林と川本が高木の遺体を発見する。現場は高木の個室であった五号室。遺体の発見時には、五号室の扉の鍵は掛かっていなかった。

 死因は後頭部の殴打による損傷。高木は裸のままで殺されており、さらに顔面から胸元までの部分と、女性器の内部が、男性の精液で汚されていた。

 高木の生存が最後に確認されたのは、前の晩に行われた、相沢の遺体を利用した電気椅子実験の直後となる、午後十時過ぎ。

 遺体の上半身にかけられた精液は、重力方向に流れ出た痕跡が確認された。


C.一ノ瀬夫人の失踪

 四日目の午後二時頃に、一ノ瀬夫人は館内から姿を消した。彼女を最後に目撃したのは堂林で、人狼館の裏口から森へ向かう小道の途中にある、焼却炉がある広場を、一ノ瀬夫人は、ひとりで鼻歌を歌いながら森のほうへ歩いて行った。


D.西野の強姦、および藤ヶ谷の失踪

 西野本人の証言によれば、西野は、五日目の午前零時に自室の一号室にて、部屋の鍵を掛けて就寝をしたのだが、気が付くと(この時の正確な時刻に関して、西野の証言は極めてあいまいである)、部屋の中に藤ヶ谷がいて、強姦をされた。西野は強姦の最中に意識を失い、気付いた時には、部屋に藤ヶ谷の姿はなかった。

 その後、西野は一号室を出て、助けを求めて丸山の四号室へ向かった。丸山が西野を四号室へ招き入れたのは、午前六時二十五分。

 午前八時に、堂林と川本が四号室を訪れ、丸山と西野の姿を確認する。

 久保川の証言によれば、同日午前六時半に、藤ヶ谷が東屋の前の小道を森へ向かって走っていった。その様子はかなり脅えていて、俺じゃない。俺がやったんじゃない、などと意味不明なことをわめいていたらしい。

 それ以降、翌日霊安室にて遺体が発見される瞬間まで、藤ヶ谷の姿を目撃した者は誰もいない。


E.久保川の殺害

 六日目の午前八時に、堂林、川本、丸山、西野、一ノ瀬氏の五人が久保川の遺体を発見する。現場は久保川の個室であった八号室。遺体の発見時には、八号室の扉と二階のガフの扉のいずれにも、鍵が掛かっていたが、七号室の扉の鍵は掛かっていなかった。一方で、現場である八号室の中には、七号室の偽札がつけられたマスターキーと、八号室の鍵の両方が残されていた。すなわち、犯行現場は結果として二重に閉ざされた密室となっていたことになる。(ガフの扉の開閉ができる七号室の鍵は、四日目の昼食時にすでに破棄されている)

 五人がガフの扉を破壊して、中へ踏み込んだ時に、七号室の中には誰もいなかった。そのあとで、八号室の扉も破壊した。

 久保川の死因は、後頭部の殴打による損傷。久保川は裸のままで殺されていた。久保川が最後に目撃されたのが、前日五日目の昼であり、さらに遺体の硬直の進行状況から、犯行時刻は、五日目の午後一時から午後八時までのあいだと結論付けられた。

 さらに、現場に残された不審な点を、以下に羅列しておく。

 一、現場の八号室には、久保川の遺体以外に、誰もいなかった。

 二、化粧台の椅子が、大きく引き出されていた。

 三、本棚にあったはずのサバイバル入門という本が、書き物机の上に置かれていた。

 四、壁時計が、三時五十分を指した状態で止まっていた。

 五、西野が、となりの七号室で白い布のようなものを見つけたが、彼女はそれをこっそりと持ち去った。

 六、五日目の午後四時頃、一ノ瀬氏が八号室へ行こうとしたが、ガフの扉に鍵が掛かっていたので、その先へ進めなかった。


F.藤ヶ谷の殺害

 六日目の午前十時二十分に、堂林、川本、丸山、西野、一ノ瀬氏の五人が、藤ヶ谷の遺体を発見する。現場は霊安室。遺体の発見時には、霊安室の扉に鍵が掛かっていた。

 五人が霊安室の扉を、管理していたマスターキーで開錠して、中へ踏み込んだ時に、霊安室の電灯は消えていた。さらに、現場には、藤ヶ谷の遺体以外に、誰もいなかった。

 藤ヶ谷は、裸のままで、電気椅子にしばられた状態で死んでいた。遺体に打撲痕が残されていなかったので、死因は電気椅子に掛けられたためと結論付けられた。したがって必然的に、犯行時刻は電気椅子が稼働可能となる五日目の午後九時から十時までのわずかな時間に限定されてしまうが、この事実と遺体の死後硬直の進行状況は矛盾してはいなかった。

 現場に相沢、高木、久保川を殺した凶器と思われる鎚矛が、放置されてあった。


G.五日目の午後九時から十時までの参加者たちの行動

 以下の記述は、堂林の証言による、五日目宵刻の目撃情報である。なお、この時間帯は、人狼が藤ヶ谷殺害を決行している時間帯に当たるため、参加者の言動は極めて重要となる。

 一、八時過ぎから、堂林は館の西廊下を見張り始めた。

 二、九時十分に、二号室から川本が現れて、そのまま居間へ移動した。

 三、九時十五分頃、堂林は四号室と一号室の部屋の様子をうかがう。四号室からは人の気配はせず、一号室からは西野の声がした。

 四、九時二十分頃、居間から川本と丸山のいい争う声が聞こえる。このいい争いは、その後もとぎれとぎれに、時々聞こえてきた。

 五、九時半に、一ノ瀬氏が一階廊下を食堂のほうからやってきて、そのまま居間の前を通過した。(一ノ瀬氏の証言によれば、一ノ瀬氏は八時五十五分からワインセラーで仕事をして、リネン室へ移動するところであったそうだ)

 六、十時五分に、川本が居間から出てきて、堂林に話しかける。ちょうどその時、一号室から西野が出てきて、食堂のほうへ歩いて行った。

 七、十時二十分に、堂林は川本とともに二号室へ行き、そのまま翌日零時過ぎまで二号室にいた。


H.個々の部屋の鍵の行方

 『マスターキー』は、当初から行方不明であったが、六日目の午前に、久保川の殺害現場から、『7番』の偽札が付いた状態で、発見された。その後は、小型金庫に入れて鍵を掛けた状態で保管をし、金庫本体は西野が、金庫を開ける鍵は川本が、それぞれ管理をした。

 『1番鍵』は、西野が所有。

 『2番鍵』は、川本が所有。

 『3番鍵』は、堂林が所有。

 『4番鍵』は、丸山が所有。

 『5番鍵』は、殺された高木の部屋で見つかった。

 『6番鍵』は、行方不明。おそらく、藤ヶ谷の自室にあるのであろう。

 『7番鍵』は、一ノ瀬氏が、マスターキーであると信じて、ずっと保管していた。四日目の午前に破棄された。

 『8番鍵』は、殺された久保川の部屋で、マスターキーとともに見つかった。

 『9番鍵』は、一ノ瀬氏が所有。

 『10番鍵』は、一ノ瀬夫人とともに、行方不明。機能は『9番鍵』と同じであると推定される。 


 以上にて、堂林凛三郎による事件概要の手記は、完結せり。

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