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差別はいけない

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 屋敷に戻ってきたのは夜も更けてからだった。

 きょうも襲撃はなく平和なものである。

 平和なものだったけど、僕は疲れている。

 きっと四回戦もしてしまったからだろう。

 平和だったのに四回戦とはこれ如何いかに?

 クォールも好きだからなぁ……。

 少し早めに寝たいが、手に入れたばかりの【身体強化薬】をエビダスで試してみたかった。

 つくづく護衛任務が面倒になってきたよ。


「兄さん、もう襲撃はないのではありませんか? 敵も諦めとおもいます。護衛の数も増えたことですし、そろそろ僕は用済みかと……」

「なにを言うか。くだらんことを言うんじゃない。今抱えている案件が終われば開放する」

「なにか問題でも起こっているのですか?」

「なんだ、知らずについてきていたのか」


 兄さんはあきれ顔で僕を見ている。


「申し訳ございません。宮廷内のことにはうとくて……」

「バッカランドの子弟がそんなことでどうする!」

「重ねてお詫びします。どういうことかご説明をお願いします」

「まったく……。問題は常につきまとうが、いまいちばんの問題は王太子様の件だ。ベルーノ公爵が王太子殿下の廃嫡はいちゃくを訴えてきたのだよ」

「えぇっ!?」


 王太子殿下は小さいころから病弱だったが、それを理由にベルーノ公爵が王太子の差し替えを提案してきたのだ。

 国王陛下には王太子殿下以外に子どもはいないので他の王太子を立てることもできない。

 殿下が病弱なことは事実で、寝たり起きたりを繰り返しているんだよね。

 だから、国民が不安なのも本当だ。

 ただ、僕はレヴィン殿下が好きなんだよなあ。

 年齢は僕より二つ上の18歳。

 しばらくお会いしていないけど優しい方なのだ。

 僕がダンスで転んだ日、レヴィン殿下だけは僕を笑わなかった。

 それどころか、落ち込む僕を温かく励ましてくれたほどだ。

 忠誠心なんてあんまりない僕だけど、王太子殿下には幸せになってもらいたい。


「公爵は自分の息子を王太子にしたがっているが、それだけは絶対に阻止しなくてはならない。陛下は返事を保留されているが、年末までが勝負だな」

「どうなるのでしょう?」

「陛下のお気持ちもあるが、重要なのはどちらの派閥がより多くの支持者を集められるかだ。我々は仲間とかねを集めなければならないのだ」


 ほ~ん……。

 やっぱり、なにをするにもおかねなんだなあ。


「というわけで、しばらくはお前の手を借りるからな」

「承知いたしました。ところで、お頼みした装備ですが、そろそろ届くでしょうか?」


 護衛ということで兄さんには新装備をおねだりしておいたのだ。

 すでに採寸も終わっている。

 公爵家の依頼とあって特急で作ってくれるらしい。


「安心しろ。本日あたり屋敷に届いているだろう。20万もしたのだ。しっかりと護衛をするんだぞ」

「はーい」


 ケチだけあって、うるさく値段を強調するなあ。

 ま、そんなメドナ兄さんだからこそバッカランド家の財政を立て直せたのだ。

 それはわかっているので、おとなしく護衛に励むとしよう。

 今夜は新装備を身につけてデイリーミッションだな。



 部屋に戻るノエルがいてリューネが屋敷に来たことを教えてくれた。


「夕方までセドリック様をお待ちしていたのですが、日が暮れてお帰りになりました。お会いできなくて残念そうでしたよ」

「そっか、僕も話をしたかったな」

「セドリック様なら明日はずっと家にいらっしゃる、とリューネ様に伝えておきましたからね」

「ええ……。明日はゆっくり【黎明の神器】をしようと思ったんだけどなあ……」


 明日は兄さんの出仕がない。

 久しぶりにずっと家でゴロゴロできるから、今夜は夜更かしをして、明日もずっと仮想空間にいようと思っていたのだ。

 だけど、ノエルはそんな僕を睨みつけた。


「セドリック様、恋人を差別してはいけませんよ」

「は?」

「セドリック様はきょう、クォール様にお会いしましたよね?」

「そ、それは……」


 会って四回も戦い抜いたとは口が裂けても言えない。


「クォール様にはお時間をつくるのに、リューネ様を避けるのですか?」

「避けてなんていないよ。リューネとだって会うつもりだったし……」

「だったらしっかりリューネ様に向き合ってください」

「わかったよ。ちょうど確かめたいこともあったんだ」

「確かめたいこと?」


 仮想空間で行った【ウラル廃鉱山】だ。

 これまでのことを考えれば、現実世界にも廃鉱山は存在しているはずである。

 内部を探ればレイマール金貨などのお宝が見つかるかもしれない。

 冒険ならリューネも喜ぶだろう。


「ノエル、ウラル鉱山跡って知ってる?」

「いえ、聞いたことがありません」

「名前は違うかもしれないけど、アバンドールの南にある鉱山跡だよ」

「う~ん、やっぱり聞いたことがありませんね。あ、護衛騎士のリンガールさんなら知っているかもしれませんよ。あの人は監査庁の調査部所属ですから」


 調査部は情報機関であり、とうぜん国内外の地理にも詳しい。


「それならリンガールに聞いてみるかな。ま、急いでないから明日でいいか。とりあえず僕はエビダスに行ってくるから」

「もう、またですかぁ?」

「これもノエルと一緒に遊ぶためだよ。僕は君にもエビスタの世界を見せてあげたいんだ」

「また調子のいいことを言って……。私は騙されませんからね!」


 ふくれっ面をしたノエルだったけど、自分のためだと言われて悪い気はしていないようだった。


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