闇夜に狙われた者2
デイジアは、涙がにじんだ目をハンカチで押さえながら、「取り乱してすみません」と言い、話を続けた。
「…こんな夜更けです。よろしければ、本日はこちらに泊まっていただけますか?一人でいるのが不安なのです…。襲撃が予告されたのは明日の夜。それに備えて、今夜はゆっくりお休みください」
俺達はそう提案してくれた彼女に礼を言う。
この近くには他に泊まれそうな所はない。ありがたくを申し出を受けよう。
さらに彼女は「今日は長時間の移動をされたから、お二人ともお疲れでしょう?今日はもう、お部屋でお休みになったらいかがですか」と言ってくれた。
しかし俺は、確認したいことがあるので寝るのは後回しにするつもりだった。
確認したいこと。
まずは、モンスターの痕跡の確認をして、モンスターの種族の特定。
どのモンスターか特定できれば、そのモンスターの苦手なものや弱点が分かる。
次に、モンスターと戦闘になると思われる、家や周辺の把握。
把握しておけば、モンスターの出現場所の予測や俺達の逃げ道確保ができる。
敵が明日の夜襲撃すると分かった以上、今のこの時間も無駄にはしたくなかった。
「いえ、俺達は、今からでも現場を確認したいです。寝る前に、モンスターが現れそうな場所の確認をさせてもらえませんか?」
俺達がそう言うと、彼女は「わかりました」と静かに答えた。
「ではまず、あなたのお父様が襲われた現場を見せてください。」
「はい、わかりました。どうぞこちらへ…」
そう言って彼女は少し微笑んで、俺達についてくるように促した。
音もなく歩く彼女の後ろをついて歩く。
少し暗く長い廊下には、壁の一定区間ごとに燭台が置いてあり、ロウソクの火が灯っていた。
(ちょっと暗いなあ。玄関もそんなに明るくなかったし、やっぱりこの家には電気が通ってないんだろうな。でも玄関ホールの天井にシャンデリアがあるのが見えたから、一応電気が点かないか聞いてみるか…?)
彼女に電気が点かないか聞こうと思って、前を歩いていた彼女の前に出て彼女の横顔を見る。
―――気のせいか?彼女が一瞬、楽しそうに笑っていたように見えたのは…。
もう一度見ると、彼女は普通の表情で歩いていた。
俺の気のせいだったか……?
「どうされましたか、ハンターさん?」
彼女は、少し戸惑ったような俺に声をかけた。
「え?ああ、電気が点かないのか聞こうと思って……」
「ああ、それなら点かないんですよ。発電機が壊れて、もう何週間になるかな。なかなか直してくれる人が来てくれなくって…ここから町までかなり時間がかかるので……。本当に困ってるんです」
「そうなんですか…」
そう言っている彼女の口ぶりは、言葉とは裏腹にあまり困っていないように聞こえた。
意外と慣れるものなんだろうか?
話しているうちに、廊下の突き当りにある彼女の父親の部屋に到着する。
部屋に入ると、部屋の中が散々なことになっていることが分かった。
窓ガラスは割れて、ガラスの破片が散らばっており、本や何かの書類は床に散らばっていて、まるで部屋の中に台風がきたようだった。
案内してくれたデイジアは「部屋は自由に調べてください。…その間、私はお二人が泊まるお部屋の準備をいたしますね」と言い、部屋から出て行った。
部屋には、俺とロイの2人きりになった。
――――さあ、オカルト探偵事務所の初仕事の始まりだ。
俺は気合いを入れて、両手に黒い手袋をはめた。