闇夜に狙われた者
昔一緒にボール遊びしたロイお兄ちゃんは、今はジョージュのボディーガードです。
彼は無事、黒髪短髪の身長190cmのムキムキマッチョマンに成長しました。
今回、モンスター退治のお仕事に一緒についてきてくれますが、彼はオカルト現象を全く信じていません。
夜の山道は暗く、車のライトだけが正面を照らして揺れている――。
事務所に戻り仕事道具を回収した俺は、今、ロイの運転する車で依頼主の家に移動している途中だ。
メールに記載された住所によると、俺の家から車で8時間、目的地の一番近くの町からでも車で2時間かかるような僻地に、依頼主の家はあった。
山の中、舗装されていない道を通り、暗闇の中で車体はガタガタと揺れる。
ロイは、ハンドルを回しながら、本日3回目になる言葉を呟いた。
「目的地はもうすぐのはずですが…。本当にこんな山ん中に、人が住んでるんですかねえ~、坊ちゃん……」
ロイがそう言うのも無理はない。
夜遅い今の時間帯のせいもあるだろうが、かれこれ1時間くらい前から人を見かけていない。
それに街灯も全く見当たらず、お店も民家も見当たらない。
見渡す限り、木、木…。
全く変化のない景色を眺めるのをやめて、仕事用の携帯を確認していると、運転席のロイが口を開き、一点を指さした。
「あ!あれじゃないですか、坊ちゃん」
指をさされた方に顔を向けると、少しだけ離れた所に、木々に囲まれて、ぽつりと佇む洋館があるのが見えた。
「あれが今回の依頼人の家…」
洋館の近くに車を止めようと、少し速度を落としながら、解放された門から入っていく。
車を進ませると、駐車場らしきところを見つけたので、そこに駐車することにした。
辺りを見渡してみると、やはりこの洋館の近くにも街灯がなく、あたりは闇に包まれていた。
洋館の玄関に見える、小さな灯りだけが、すぐに消えてしまいそうなほど小さい主張をしている。
その灯りが無ければ、この館の存在に気づかなかったかもしれない。
俺は、車のライトを消してしまう前に、持ってきた懐中電灯を点灯して、腰のライトホルダーに固定した。
車のトランクから、1つ黒いスーツケースを出して、俺達は車から降りた。
夜の11時。
仕事の依頼のメールを受け取ってから、すぐに家を出発したが、到着したのはかなり遅い時間だ。
きっと仕事の依頼人も待ちくたびれているだろう。
駐車場から玄関まで小走りで近づく。
ドアの横には呼び鈴があり、それを鳴らした。
……しばらく待つと、扉が開き、館の中から1人の若い女性が現れた。
「どなたでしょうか?」
長いスカートをはいた若い女性が、こちらを見て少し緊張した面持ちで聞いてくる。
歳は17歳くらいだろうか。
頬にあるそばかすがチャームポイントの可愛いらしい女の子だ。
憔悴しているのか、顔色が悪い。
俺は、この女性が今回の依頼者だろうと当たりをつけながら自己紹介する。
「こんにちは。モンスター退治の依頼を受けました、オカルトハンターのジョージュ・タイガーンです。…入ってもよろしいですか?」
俺の自己紹介を聞いた女性は、にっこりと笑って、「こんにちは、ハンターさん。私は依頼人のデイジア・ランディッグと申します。どうぞ、中へ」と言い、俺達に館の中に入るよう促した。
促されて中に入ると、白を基調としたクラシックな雰囲気の玄関ホールが見えた。
壁には、高価そうな肖像画が1枚飾られている。
家具も高級そうだ。けっこうなお金持ちかもしれない。
俺達が中に入ると、女性が玄関の扉をゆっくり閉めた音がした。
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彼女を先頭にして廊下を歩き、応接間に案内される。
この家には電気が通ってないのか、家の中の灯りは、一定区間ごとに置いてあるランプかロウソクの火だけで、どの部屋も少しだけ暗かった。
俺とロイは、歩いている途中で躓かないように、懐中電灯で足元を照らして注意深く歩いたが、彼女は慣れた様子で暗い中を歩いていた。
応接間に着き、全員が椅子に座ると、デイジアが話し出す。
「今日は遠い所から来ていただき、ありがとうございます、ハンター様とお連れ様。私は依頼主のデイジア・ランディッグ。」
デイジアは、落ち着いた様子で、改めて自己紹介してくれた。
俺達も彼女に自己紹介をする。
「俺は、オカルトハンターのジョージュ・タイガーンです。今日は、モンスター退治のご相談を受けに参りました。よろしくお願いします」
「…俺は、ロイ・セイコーです。彼の助手です」
俺と比べて、ロイはかなり簡素な自己紹介をした。
自己紹介をしながら見たデイジアは、やはり顔色がとても悪く、事件について相当思い悩んでいるように見えた。
事件の詳細を尋ねると、すっかり憔悴した様子のデイジアは、ゆっくりと口を開いた。
「ハンターさんに送ったメールの通り、この家で、私の父がモンスターに襲われました。父が襲われたとき私は偶々その場にいました。そして、父を傷つけたモンスターに『次はお前だ』と言われたのです…」
俺が彼女に「そのモンスターはどのような姿をしていましたか?」と聞くと、彼女は頷いて話を続けた。
「身長2mほどの大男でした。口には牙が生え、赤い目をしていて、人とは思えないような恐ろしい形相でした。そのモンスターに噛みつかれ重傷を負った父は、意識不明で入院しています……」
彼女は、続けてこのような内容を話してくれた。
彼女の父親は、昨日モンスターに襲われた。
父親は、1階にある彼の自室で襲われて重傷を負い、現在入院中で意識がないため、彼から話を聞くことはできない。
モンスターは彼女の父親を襲った後、「次はお前だ。二日後の夜に再び来て、お前を殺す」と彼女に言い、部屋の窓から飛び去った。
(…昨日この言葉を聞いたということは、明日の夜にモンスターは来るということだ。時間がない……)
警察にも同じ話をしたが、警察は父親の体の傷から野生動物に襲われたと判断したため、モンスターが犯人であるという話は信じてもらえなかった。
話の途中からデイジアは嗚咽混じりで、言葉はたまに途切れ途切れになった。
自分の家族がモンスターに襲われる瞬間を目撃し、自分自身も殺害予告される…、憔悴して顔色が悪いデイジアは本当に可哀想だった。
俺は、彼女と自分の境遇(死の予言)を重ねて、深く同情した。
「どうか、お願いです、助けて……」
事件の全てを話し切ったデイジアの唇は恐怖で震えていて、目からは大粒の涙が零れた。
──俺はそれを見て、反射的に「任せてください。必ず解決してみせます」と答えた。
とっさに彼女の手を取る。
彼女は少し驚いたような顔をした後、涙を浮かべたままにっこりと笑って、「ありがとうございます」と言った。
こんな不安な時に、笑顔を見せてくれる彼女は、なんて強い人だろう、と俺は思った。




