menu179 墓参り
☆★☆★ 1月10日 単行本5巻発売 ☆★☆★
おまけページに加えて、最終巻以降の世界を描いた書き下ろしSSを掲載。
ここでしか読めないので、是非ご賞味ください。
5巻発売に合わせて、Kindle Unlimitedで原作書籍1、2巻が読み放題になっています。
こっちも是非読んでくださいね。
「ここがディッシュの……」
ディッシュに案内されるまま、その生家へとやってきたアセルスは息を呑んだ。
そこにあったのは、原っぱだった。
手入れもされておらず、雑草が乱雑に生えて風に揺れている。
かろうじて石の土台部分が残っていて、そこに小さな家があったことだけは窺い知れた。
当然、人はおらず、出入りした形跡もない。
子どもの足跡すらなく、遊び場になっていないらしい。
村の中にあるのに小さく自然な風景が広がっている。
まるでディッシュが住んでいた山の中のようだ。
「家まですっかりなくなってるなあ。まあ、仕方ないか」
「本当にここがディッシュの家だったのか?」
「ああ。俺が出ていく前には、両親と一緒に住んでいた家があったんだけどなあ」
「それはつまり……。街の者が解体した、と」
魔獣の騒動で壊れたという雰囲気でもない。
空き地は何十年の野ざらしになったような状態だった。
皮肉にも魔獣の被害はなく、まるでそこだけ避けて通られたかのようだった。
「ここの連中は、アセルスたちとは違って、スキルもなく生まれてきた俺を怖がってたからな」
「怖がってた? だからって、家を解体するなんて……」
ルーンルッドに生きとし生けるものには、スキルが与えられる。だが、ディッシュにはスキルがなかった。スキルはなかったが、彼は立派に独り立ちし、そして店まで持つようになった。
スキルがないことは確かにイレギュラーだ。それでも過度に恐れることは間違っている。増して、懸命に生きようとする5歳の子どもを山に追放するなど……。
ディッシュの中ではなんらかの折り合いがついているのだろう。
それでも、アセルスは義憤を感じずにはいられなかった。
「アセルス、もういいか?」
「あ、ああ……。すまない、ディッシュ」
「?? 何を謝ってるんだよ。どっちみちここには寄ろうと思っていたし。それに家はないけど、俺の頭には朧気だけど、ちゃんととーちゃんとかーちゃんの思い出が残ってる。十分だよ」
「そうか」
「あと、もう1つ寄っていいか?」
ディッシュがアセルスを連れて案内したのは、墓地だった。
街の奥の方だが、こっちにも魔獣が来たらしい。魔獣の足跡や、墓石が壊れている。
ディッシュはその一角にある小さな墓に手を合わせた。
墓石というにはあまりに粗末だ。
拳大ぐらいの大きな墓石は、うっかりすると見逃してしまいそうなぐらい小さかった。
周りに雑草が生えていたら、わからなかったかもしれない。
「これがディッシュの両親の?」
「ああ。街の大人たちが埋葬だけはしてくれたけど、墓石は自分でなんとかしなければならなかった。だから、5歳の子どもでも持てるぐらいの墓石しか用意できなかったんだよ。まあ、墓石っていっても、その辺に落ちてた石だけどな」
「そうか」
『うぉん!』
「ん? ウォン、どうした?」
突然、ウォンが2人から離れる。
付いていくと、再び例のディッシュの生家に戻ってきた。
ウォンは中へと入り、何かを掻き出す。
もしかして財宝でも隠されているのかと思ったが、ウォンが掻き出していたのは家の土台部分になっていた石だった。
アセルスはピンと来て、ウォンを手伝う。
掘り出してみると、土台の石だけあって結構頑丈そうで大きな石だった。
ウォンの提案で石を背中に載せると、再び墓地に戻ってくる。
そこに先ほどの石をドンと置いた。
「墓石にしてはちょっと武骨すぎるな。失礼するぞ、ディッシュ、そしてご両親殿」
アセルスは剣を抜く。
【光速】のスキルを使った瞬間、まさしく剣閃が輝いた。
ゴツゴツとした表面を切り取られ、真っ平らな石の表面が現れる。砂と土にまみれていた墓石は一瞬にして形も見栄えもよくなった。
「墓碑銘も入れるか」
アセルスはさらに剣を振るう。
一瞬にして「マックホーン家」という言葉が刻み込まれた。
墓石こそ他家と比べれば小さいものの、誰かの墓であることがわかる程度には立派になる。
最後に、アセルスはその墓の横にディッシュが子どもの頃においた石を置いた。
「墓石が2つってなんか変じゃないか?」
「そうだろうか? 親子が寄り添っているようでかわいいと思うがな?」
「おいおい。まだ俺は死んでないぞ」
ディッシュは苦笑いを浮かべる。
しかし、その表情はすぐに真剣になった。
「アセルス」
「うむ」
「ウォン」
『うぉん!』
「ありがとうな。立派な墓石を作ってくれて」
ディッシュは礼を口にする。
その素直な言葉に、アセルスは照れていた。
「いつもおいしい料理を食べさせてくれていたからな。そのお礼だ。……いや、これでも足りないぐらいだ」
『うぉん!』
「ありがとよ。とーちゃんもかーちゃんも喜んでいるだろう」
「ディッシュよ」
「ん?」
「1番喜んでいるのは、お前がこうして生きて、立派な姿を両親に見せていることだと思うぞ」
たぶん、この世で最初で1番のディッシュの味方は両親だったのだと思う。
ディッシュは4歳で両親を亡くし、5歳で人里から追放された。
それでも腐らず、諦めず、恨み言を言うわけでもなく、山の中で懸命に生きてきた。
その穏やかな精神や魔獣に対する基礎的な知識。それは両親がディッシュを心から愛していた良い証拠だと思う。
そんな息子が戻ってきた。
大きく、ゼロスキルの料理という力と店を持って。
きっと草葉の陰で喜んでくれていることは、間違いないだろう。
ディッシュは腰を下ろす。
たった今できた墓に向かって手を合わせた。
「ずっと待たせて悪かったな、とーちゃん、かーちゃん。俺は元気だぞ。この通りな」
そう。呟いた後、ディッシュはこれまでのことをコンコンとしゃべり始める。
街の中や、山での生活は悲しく、苦労もしたが、それでもウォンと出会い、アセルスたちと出会うと笑い話にも変わった。
楽しい、聞いているだけでお腹が空くような料理のような話。
それを聞いて、アセルスもウォンもお腹を鳴らす。
気が付けば、昼を過ぎていた。
「そろそろ飯にするか。アセルスのお腹の竜が暴れ出しそうだしな」
「べべべ、別に私は竜など……」
ぐおおおおおおおおおお~~。
盛大な音が鳴る。
だが、それはアセルスのお腹の音ではなかった。
突如、墓地の近くの民家が蠢く。
民家といっても、もはや廃墟も同然だ。
屋根から潰れ、ぺしゃんこになっていた。
その瓦礫の山が動く。
パンと爆発したみたいに瓦礫が吹き飛ぶと、再び喉を鳴らすような音がする。
次いで見えたのは、鋭い野獣の目だった。
「まさか……」
『うぉん!!』
「あれって……」
魔獣……?







