menu174 ゼロスキルの食堂、開店!
☆★☆★ コミカライズ 更新 ☆★☆★
ヤングエースUP様にて最終話①「ゼロスキルの料理番よ永遠に①」が更新されました。
寂しいことではありますが、コミカライズにつきまして、
あと2回で終わりとなります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
ディッシュが作る魔獣料理専門店は、順調すぎるといっていいほど、順調に進んだ。
アセルスは初め商業ギルドのギルドマスターが何か企んでいるのでは、と疑った。そこで家臣のキャリルや、知り合いのニャリスに頼んでそれとなく探ったのだが、特に怪しいところは見当たらなかったという。
「『時の砂涙』の採掘権に関してはどうだ?」
アセルスが尋ねると、キャリルは手元の資料を1枚捲って答えた。
「事実のようですね。街の北側一帯の採掘権を持っていて、そこの調査中に巨大な『時の砂涙』の鉱床が見つかったようです」
時の砂涙は便利な魔導具だが、悪用されるのを恐れて、厳格な使用制限がかかっている。用途をはっきり示さなければ、採掘することもできない。
アセルスはその採掘の許可を取るために、商業ギルドがディッシュの魔獣料理を利用したと考えたが、そうでもなさそうだ。
ルヴァンスキーの知り合いだけあって、身持ちは堅く、とても悪行を行えるような人物ではなかった。
アセルスは1つ息を吐く。
「アセルス様?」
「ああ。すまない」
心配そうに見つめる家臣を見て、アセルスは一言添える。久方ぶりの執務室の椅子に深く腰掛けながら、考えに耽った。
「正直に言うとな。ディッシュの食堂は成功してほしい。でも、少し寂しくもある。あの木の根元でご飯を食べられないのかと思うとな」
「アセルス様……」
アセルスは椅子を回して振り返ると、青い空に目を細めた。
空は晴れているが、風が強い。時折、カタカタと窓を叩いている。
主の後ろ姿を見て、キャリルはギュッと資料を握った。
寂しそうな主を見て、キャリルもまた切なそうに目を細める。
何か声を掛けようとしたが、先に口を開いたのはアセルスだった。
「いかんな。ディッシュにとってはいいことだ。今まで人里に近づこうとして来なかったディッシュが、冒険者を経て、少しずつだが人の社会の中で生きる居場所を見つけてきた。そして、今大きな1歩を踏み出そうとしている。……ディッシュ、ずっと見てきた私だからこそ最後まで見届ける必要がある」
「ディッシュさんが成功したら、アセルス様はどうされるのですか?」
「ん? そりゃ喜ぶさ。あと――――」
アセルスは一瞬首を傾げる。
自分でも何をしたらいいかわからないらしい。
でも、稀代の聖騎士にも1つだけ譲れない想いがあることはわかっている。
「そうだな。もし、ディッシュの食堂が成功したら――――――」
不意に突風が屋敷の窓を叩く。
簡易の施錠を勢いよく跳ね上げると、窓が一気に開き、カーテンを揺らした。
かすかに聞こえた言葉に、キャリルは驚き、目を見開く。
丸くパッチリとした目に映っていた主の顔は、やはり寂しそうだった。
3ヶ月後……。
あれよあれよと時が過ぎていく。
灼熱が夏が過ぎて、もうすぐ秋にさしかかろうという時、1軒の食堂が開店しようとしていた。
「これでよし!」
テーブルを拭き終えたディッシュは、「ふっ」と息を吐く。
磨かなくとも新品のテーブルはピカピカなのだが、少しの埃も気になるらしい。初めて持つ店なのだ。なるべく清潔にして、お客さんを迎えたかった。
ディッシュの恰好も、いつもと少し違う。
見た目は山で住んでいた時と同じなのだが、生地はどれも新品だった。アリエステルが届けてくれたものだ。
その手紙にはこう書かれていた。
『お主のことだ。ちゃんとしたものより、普段着ているものの方が落ち着くだろう』
ディッシュの心理を的確について、素敵なプレゼントだった。
『うぉん!』
吠えたのは、ウォンだ。
ウォンも今日はおめかししている。
普段首輪はついていないのだが、今日だけは蝶ネクタイをつけていた。
本人は割と気に入ってるらしく、嬉しそうに尻尾を振っている。
ちなみにうるさい骸骨は、絶賛鍋の中で出汁を取られていた。
現在、調理室からはおいしそうな匂いが漂ってきている。
「いよいよだな」
声をかけたのは、アセルスだ。
昨日まで皿や調理器具の運び込みを、フレーナたちと一緒に手伝ってくれた。
「随分手慣れているのだな、ディッシュ」
「まあな。昔似たようなことをやっていたし」
「昔店で働いていたとは聞いていたが、料理店に何が必要かとか、経営の知識も教えてもらったのか?」
「いや。その辺は全部見て学んだ。昔、住んでいたところでは、色々とたらい回しにされたからな。ちょっとずつだけど、何が必要で必要じゃないかは、見て学んだんだ」
ディッシュは昔いた街で、スキルがないことを理由に迫害されていた。両親はなくなり、お金を稼ぐために、色んな店をたらい回しにあった挙げ句、山へと追放されたという。
「ディッシュにとっては忌まわしい記憶だが、悪いことばかりではなかったということか」
「ああ。そもそもそれがなかったら、魔獣が食べられるってことも知らなかっただろうし、アセルスとも会わなかっただろうからな」
「――――ッ!」
「どうした、アセルス? 顔が真っ赤だぞ」
「いいいいいいいや、なななななんでもない」
「そうか。あんまり無理すんなよ」
『うぉん!』
「ウォンも『無理すんな』って」
「う、うむ。ありがとう、ディッシュ、ウォン」
「よーし。店を開けるか!」
ディッシュは腕を捲る。
アセルスは胸の前で指を組んだ。
ディッシュ自身は満々のようだが、やはり一抹の不安はぬぐえない。
新しい料理店とはいえ、ここの料理はすべて魔獣食材なのだ。すでに噂も立っている。
魔獣は不味い。
これは定説だ。世界の常識。
だが、それを打ち破ってきたのがディッシュ・マックホーンという男である。
アセルス自身の常識を壊し、美食家王女アリエステル王女の舌を唸らせ、その料理で以て、ついには王妃様の病気すら治してしまった。
その英雄的な行為は数知れず。冒険者ギルドも、他国も、王家も認めるところとなった。
そして、商業ギルドもまたディッシュの料理に注目し、大枚を出してバックアップしてくれている。
もうそれだけですごいのだが、それでも世間の常識という圧力は、想像を絶するものである。
果たして、どれだけ多くの人間がオープン初日に来てくれるか。
これは常識との勝負だった。
「待たせたな、ゼロスキルの食堂の開店だ」
ディッシュはわかっているのだろうか。
店を大きく開け放つ。
アセルスはこみ上げてきた正体不明の恐怖に、反射的に目を瞑ったが、聞こえてきた声に自分の耳を疑った。
たくさんの人の歓声が聞こえる。
アセルスは誘われるように店の入口に立つと、そこには多くの人が開店を待ってくれていた。
「待ちかねたにゃ!」
「開店おめでとうございます」
「早く入れとくれ。あたい、お腹ペコペコなんだ」
「あら~。アセルス、そんなところにいたんですね~」
「ディッシュ、酒はあるんだろうな」
「心配してきてやったが、その必要はなさそうだのぉ」
「ディッシュくーん、来たよー」
「おめでとう、ディッシュくん」
「やれやれ。騒がしい人たちだ」
ニャリスが、フォンが、フレーナが、エリーザベトが、ロドンが、アリエステルが、ヘレネイ&ランクが、ルヴァンスキーが……。
その他大勢。
ディッシュのゼロスキルの料理に魅了された人々が、そこに立っていた。
誰もディッシュを「ゼロスキル」と迫害するものはいない。
むしろの「ゼロスキル」の料理を知る者たちが誇らしげに顔を上げて、立っていた。
「にししし……! まったくこれじゃあ、木の根元にいた時と一緒じゃねぇか」
ディッシュはいつも通り笑う。
そして、いつも通り包丁を握るのだった。
すでにAmazonなどに出ておりますが、1月10日には最終巻が出る予定です。
シリーズコンテンツがまた1つなくなることになりますが、
最後までお付き合いいただければ幸いです。
またWeb版の方も、今の章を書き終えた時点でクローズさせていただこうと思っております。
4年以上、お付き合いいただき誠にありがとうございます。
感想、後書きなどはまた最終話を書いた時点で述べさせていただきます。
引き続きよろしくお願いします。







