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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第7章
196/209

menu174 ゼロスキルの食堂、開店!

☆★☆★ コミカライズ 更新 ☆★☆★


ヤングエースUP様にて最終話①「ゼロスキルの料理番よ永遠に①」が更新されました。

寂しいことではありますが、コミカライズにつきまして、

あと2回で終わりとなります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


挿絵(By みてみん)

 ディッシュが作る魔獣料理専門店は、順調すぎるといっていいほど、順調に進んだ。


 アセルスは初め商業ギルドのギルドマスターが何か企んでいるのでは、と疑った。そこで家臣のキャリルや、知り合いのニャリスに頼んでそれとなく探ったのだが、特に怪しいところは見当たらなかったという。


「『時の砂涙(さるい)』の採掘権に関してはどうだ?」


 アセルスが尋ねると、キャリルは手元の資料を1枚捲って答えた。


「事実のようですね。街の北側一帯の採掘権を持っていて、そこの調査中に巨大な『時の砂涙』の鉱床が見つかったようです」


 時の砂涙は便利な魔導具だが、悪用されるのを恐れて、厳格な使用制限がかかっている。用途をはっきり示さなければ、採掘することもできない。


 アセルスはその採掘の許可を取るために、商業ギルドがディッシュの魔獣料理を利用したと考えたが、そうでもなさそうだ。


 ルヴァンスキーの知り合いだけあって、身持ちは堅く、とても悪行を行えるような人物ではなかった。


 アセルスは1つ息を吐く。


「アセルス様?」


「ああ。すまない」


 心配そうに見つめる家臣を見て、アセルスは一言添える。久方ぶりの執務室の椅子に深く腰掛けながら、考えに耽った。


「正直に言うとな。ディッシュの食堂は成功してほしい。でも、少し寂しくもある。あの木の根元でご飯を食べられないのかと思うとな」


「アセルス様……」


 アセルスは椅子を回して振り返ると、青い空に目を細めた。

 空は晴れているが、風が強い。時折、カタカタと窓を叩いている。


 主の後ろ姿を見て、キャリルはギュッと資料を握った。

 寂しそうな主を見て、キャリルもまた切なそうに目を細める。

 何か声を掛けようとしたが、先に口を開いたのはアセルスだった。


「いかんな。ディッシュにとってはいいことだ。今まで人里に近づこうとして来なかったディッシュが、冒険者を経て、少しずつだが人の社会の中で生きる居場所を見つけてきた。そして、今大きな1歩を踏み出そうとしている。……ディッシュ、ずっと見てきた私だからこそ最後まで見届ける必要がある」


「ディッシュさんが成功したら、アセルス様はどうされるのですか?」


「ん? そりゃ喜ぶさ。あと――――」


 アセルスは一瞬首を傾げる。

 自分でも何をしたらいいかわからないらしい。


 でも、稀代の聖騎士にも1つだけ譲れない想いがあることはわかっている。


「そうだな。もし、ディッシュの食堂が成功したら――――――」


 不意に突風が屋敷の窓を叩く。

 簡易の施錠を勢いよく跳ね上げると、窓が一気に開き、カーテンを揺らした。


 かすかに聞こえた言葉に、キャリルは驚き、目を見開く。

 丸くパッチリとした目に映っていた主の顔は、やはり寂しそうだった。





 3ヶ月後……。

 あれよあれよと時が過ぎていく。

 灼熱が夏が過ぎて、もうすぐ秋にさしかかろうという時、1軒の食堂が開店しようとしていた。


「これでよし!」


 テーブルを拭き終えたディッシュは、「ふっ」と息を吐く。

 磨かなくとも新品のテーブルはピカピカなのだが、少しの埃も気になるらしい。初めて持つ店なのだ。なるべく清潔にして、お客さんを迎えたかった。


 ディッシュの恰好も、いつもと少し違う。

 見た目は山で住んでいた時と同じなのだが、生地はどれも新品だった。アリエステルが届けてくれたものだ。


 その手紙にはこう書かれていた。


『お主のことだ。ちゃんとしたものより、普段着ているものの方が落ち着くだろう』


 ディッシュの心理を的確について、素敵なプレゼントだった。


『うぉん!』


 吠えたのは、ウォンだ。

 ウォンも今日はおめかししている。

 普段首輪はついていないのだが、今日だけは蝶ネクタイをつけていた。

 本人は割と気に入ってるらしく、嬉しそうに尻尾を振っている。


 ちなみにうるさい骸骨は、絶賛鍋の中で出汁を取られていた。

 現在、調理室からはおいしそうな匂いが漂ってきている。


「いよいよだな」


 声をかけたのは、アセルスだ。

 昨日まで皿や調理器具の運び込みを、フレーナたちと一緒に手伝ってくれた。


「随分手慣れているのだな、ディッシュ」


「まあな。昔似たようなことをやっていたし」


「昔店で働いていたとは聞いていたが、料理店に何が必要かとか、経営の知識も教えてもらったのか?」


「いや。その辺は全部見て学んだ。昔、住んでいたところでは、色々とたらい回しにされたからな。ちょっとずつだけど、何が必要で必要じゃないかは、見て学んだんだ」


 ディッシュは昔いた街で、スキルがないことを理由に迫害されていた。両親はなくなり、お金を稼ぐために、色んな店をたらい回しにあった挙げ句、山へと追放されたという。


「ディッシュにとっては忌まわしい記憶だが、悪いことばかりではなかったということか」


「ああ。そもそもそれがなかったら、魔獣が食べられるってことも知らなかっただろうし、アセルスとも会わなかっただろうからな」


「――――ッ!」


「どうした、アセルス? 顔が真っ赤だぞ」


「いいいいいいいや、なななななんでもない」


「そうか。あんまり無理すんなよ」


『うぉん!』


「ウォンも『無理すんな』って」


「う、うむ。ありがとう、ディッシュ、ウォン」


「よーし。店を開けるか!」


 ディッシュは腕を捲る。


 アセルスは胸の前で指を組んだ。

 ディッシュ自身は満々のようだが、やはり一抹の不安はぬぐえない。

 新しい料理店とはいえ、ここの料理はすべて魔獣食材なのだ。すでに噂も立っている。


 魔獣は不味い。


 これは定説だ。世界の常識。

 だが、それを打ち破ってきたのがディッシュ・マックホーンという男である。


 アセルス自身の常識を壊し、美食家王女アリエステル王女の舌を唸らせ、その料理で以て、ついには王妃様の病気すら治してしまった。

 その英雄的な行為は数知れず。冒険者ギルドも、他国も、王家も認めるところとなった。

 そして、商業ギルドもまたディッシュの料理に注目し、大枚を出してバックアップしてくれている。


 もうそれだけですごいのだが、それでも世間の常識という圧力は、想像を絶するものである。

 果たして、どれだけ多くの人間がオープン初日に来てくれるか。

 これは常識との勝負だった。


「待たせたな、ゼロスキルの食堂の開店だ」


 ディッシュはわかっているのだろうか。

 店を大きく開け放つ。

 アセルスはこみ上げてきた正体不明の恐怖に、反射的に目を瞑ったが、聞こえてきた声に自分の耳を疑った。


 たくさんの人の歓声が聞こえる。

 アセルスは誘われるように店の入口に立つと、そこには多くの人が開店を待ってくれていた。


「待ちかねたにゃ!」

「開店おめでとうございます」

「早く入れとくれ。あたい、お腹ペコペコなんだ」

「あら~。アセルス、そんなところにいたんですね~」

「ディッシュ、酒はあるんだろうな」

「心配してきてやったが、その必要はなさそうだのぉ」

「ディッシュくーん、来たよー」

「おめでとう、ディッシュくん」

「やれやれ。騒がしい人たちだ」


 ニャリスが、フォンが、フレーナが、エリーザベトが、ロドンが、アリエステルが、ヘレネイ&ランクが、ルヴァンスキーが……。


 その他大勢。

 ディッシュのゼロスキルの料理に魅了された人々が、そこに立っていた。


 誰もディッシュを「ゼロスキル」と迫害するものはいない。

 むしろの「ゼロスキル」の料理を知る者たちが誇らしげに顔を上げて、立っていた。


「にししし……! まったくこれじゃあ、木の根元にいた時と一緒じゃねぇか」


 ディッシュはいつも通り笑う。


 そして、いつも通り包丁を握るのだった。


すでにAmazonなどに出ておりますが、1月10日には最終巻が出る予定です。

シリーズコンテンツがまた1つなくなることになりますが、

最後までお付き合いいただければ幸いです。

またWeb版の方も、今の章を書き終えた時点でクローズさせていただこうと思っております。

4年以上、お付き合いいただき誠にありがとうございます。

感想、後書きなどはまた最終話を書いた時点で述べさせていただきます。

引き続きよろしくお願いします。

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