menu169 ロケットフィッシュのお刺身
「あ。ディッシュくん、それって――――」
ディッシュが取り出したものに、ヘレネイが反応する。
どうやらランクも知っているらしい。2人とも木の根にしか見えない食材を見て、ニヤニヤしていた。
「アセルスさん、ご心配なく。これはただの木の根じゃありません」
「食材がすっごく美味しくなる。魔法の調味料よ」
「食材が美味しくなる魔法の調味料だとぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
アセルスは雷に打たれたかのように硬直する。
にしし、とディッシュは笑った。
「そうだぜ。これはドリアージュの根だ」
「ドリアージュの根!!」
「またもや魔獣の名前が……」
「Cランクの結構手強い魔獣ならぬ、魔樹ですねぇ」
アセルスの仲間たちが、ドリアージュのことを教えてくれる。
大きな木の魔樹で。意志があり、枝や根などを自在に動かして、山や森に入ってきた魔獣たちを蹴散らす。
「そう。そのドリアージュだ。あいつが秋に落とす実を砂糖漬けにしたりすると、うまいんだけど、この根もなかなかいけるんだぜ」
「ぶっはっはっはっはっ! そこまで言うなら、我が輩がその試食をしてしんぜよう!!」
スポンとディッシュの背嚢から飛び出したのは、マジック・スケルトンだ。
先ほど、ディッシュにグルグル巻きにされたにもかかわらず、また脱出してきたらしい。
出てくれば、おそらくウォンの玩具にされるのは目に見えているのだが、めげるという感情を、この魔族は持ち合わせていないらしい。
早速、頭しかないマジック・スケルトンはディッシュに襲いかかる。
その手に持ったドリアージュの根を狙うと、あっさりと奪う。
「くくくく! いただいたぞ! 貴様らの秘密! まずは我が輩が暴いてやろう」
バキリッと盛大な音を立てて、ドリアージュの根を噛み砕いた。
最初こそ勢いよく咀嚼していたマジック・スケルトンだが、途端その白い骨は青くなっていった。
「しぶぅぅうううううううううううう!」
地底空間にこだますほど大きな音を立てて、騒ぎ立てる。
「渋い! しぶっ! なんだ、これは。もはや食べ物ではないぞ。なんて食材を食わせるのだが、お前は!!」
「お前が勝手に食べたんだろ」
「なんだと、むしろ我が輩に食べられたことに――――」
感謝しろ、とでもいうつもりだったのだろう。
しかし、その前にマジックス・スケルトンの目の前に立ちはだかる者が現れた。
「マジ~ック・スケルトンさんよ~。きさ~ま、ディッシュになんて口の利き方をしてるのかな~」
『うぉ~んんんん』
目を光らせて、マジック・スケルトンを睨む。
1人と1匹は本気だ。……特にアセルスは。
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
マジック・スケルトンの悲しい悲鳴が上がる。
話を戻そう――――。
「それで一体、そのドリアージュの根がどうなのだ? 随分の渋味が強そうだが」
散々マジック・スケルトンを痛めつけた後、アセルスが戻ってくる。
マジック・スケルトンはというと、暇を持て余している冒険者と排球をして戯れていた。もちろん、マジック・スケルトンは球役である。
「ああ。そのまま食べるとな。前に魔獣には属性があって、その属性によって味が変わるってことを教えたろ。ドリアージュは木属性だ。苦みや渋味が出やすい」
「では、どうするんですか?」
ルヴァンスキーも興味津々のようだ。
黙ってゼロスキルの講義を聴いていた。
「焼くんだよ」
「焼く? それだけで美味しくなるのか?」
「それは食べてからお楽しみだ。なあ、ランク、ヘレネイ」
「ええ」
「とってもビックリしますよ」
2人ともニヤニヤと笑う。何かを隠していることは見て取れた。
「ズルいぞ、お前たち。ディッシュと一緒のパーティーだからって」
アセルスは頬を膨らませるのだった。
随分と小休止してしまったが、ディッシュは早速フレーナにドリアージュの根を焼いて欲しいと頼む。
フレーナは言われた通り、表面の焦げる程度に、ドリアージュの根を炙った。
やがて表面が焼け焦げたドリアージュの根が出来上がる。
何かおいしそうな匂いが漂ってくるというわけではない。
むしろ焦げた炭の臭いが極まった感じだ。
「ありがとな」
ディッシュはドリアージュの根を受け取ると、なんと擂り器で擦り始めた。
細かく切り刻まれた抹茶色のペーストが出来上がる。
それを先ほどのロケットフィッシュの刺身の横にちょんと乗せると、皆の前に差し出した。
「お待たせ――――」
ロケットフィッシュの創作風お刺身のできあがりだ!
「おお! 綺麗だ……」
「美しいなあ」
「こんな~、地の底でお魚のお刺身を食べられるなんて~。夢のようですぅ」
アセルス、フレーナ、エリーザベトが感嘆の息を漏らす。
それを聞いて、ルヴァンスキーが眼鏡のズレを直した。
「エリーザベトさん。お魚ではなく、魔獣ですよ。お忘れなく」
「あはっ! そうでした~。ディッシュくんが捌くと~。魔獣だって思ってもぉ、普通の料理に見えてしまいますぅ」
エリーザベトが勘違いするのも当然だろう。
激戦を終えた冒険者たちの前に現れたのは、どう見ても薄切りにされた刺身だった。
薄切りされた刺身は氷のように半透明で薄い。
そこに魚醤と、太陽樹の実がかけられ、さらに赤玉葱のスライスが乗せられている。
そしてロケットフィッシュの味以上に謎なのは、ドリアージュの根を炙った謎の調味料だった。
「まずは何も付けないで食べてみてくれ」
ディッシュの言われた通り、それぞれできあった刺身を摘まむ。
「ぬほほほほほほほほほほほほ!!」
「うううううんんんんんんんん!!」
「はわぁぁあああんんんんんん!!」
アセルス、フレーナ、エリーザベトの叫声が、地の底で響き渡るのだった。
先週より『Fランクスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した賢者は、二度目の異世界も無双する~現代知識を知る賢者の化学と魔法のチート無双~』という新作を投稿しております。
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