menu168 神様がゼロスキルに与えたもの
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ヤングエースUPにて最新話更新されました。
ついにゴーレム窯編が完結です。
どうぞゴードンの雄姿をお召し上がり下さい。
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「お! もう鱗みたいなのが付いてるんだな」
ついにゼロスキルの料理が始まる。
携帯用のまな板を取り出し、ちょっと乱暴に岩の上に置くと、先ほど地底湖から捕れたばかりのロケットフィッシュを乗せた。
さすがに今上がったばかりで、ロケットフィッシュは大暴れするが、山で鍛えたディッシュの筋肉には負けてしまうらしい。
成体ともなれば、岩をも穿つロケットフィッシュではあるが、幼体のままではスキルのない青年の力にすら抗えないようだ。
しかし、この時ディッシュは〝技〟を見せる。
まるでわかっていたかのように、ロケットフィッシュのエラ部分に包丁を差し込むと、一気にその神経を断ち切ってしまった。
ぐったりと項垂れたロケットフィッシュは一瞬にして活け締めされる。
「見事……」
その手際に、ルヴァンスキーは目を見張る。
こうしてディッシュの料理に立ち合うのは、3度目だが前回見た時よりも技が洗練されているように見えた。
特に魚料理は鮮度が命。魚をどう扱うかは、料理人の腕次第だ。
だが、ディッシュの腕前はすでに極まっているらしい。
ルヴァンスキーは思う。
(神はディッシュ君に、スキルを与えなかった。逆に考えれば、彼に『スキルを与える必要がなかった』と解釈することもできる。神は最初から彼が少々風変わりな料理人として大成することを見抜いていたかもしれないですね)
さて、ディッシュは作業を続けていた。
衆人環視の中、見られているとわかっていても、その動きはよどみない。
締めたばかりのロケットフィッシュは、冷たい地底湖の水を使って洗う。表面にぬめりがあるから、たわしを使ってゴリゴリ洗い始めた。
先ほどディッシュが確認したように、ロケットフィッシュにはすでに薄い鱗のようなものが付いている。こうやってたわしが使えるのも、鱗が中の身を傷付けないからだ。
「よし。そこまでぐらいなら手伝えそうだな」
アセルスは腕を捲ると、網の中からロケットフィッシュの幼体を取り出す。
ほっ、と幼体を高く投げつけると、光速の速さで斬りつけた。
見事、ロケットフィッシュの活き締めに成功する。
その手さばきに感心しながら、仲間たちは微笑ましい表情を浮かべていた。
「アセルス、いつの間に……」
「そりゃあ~。ほぼ毎日ディッシュ君の家に行ってるんですものぉ」
「確かに……。技の1つや2つ覚えていてもおかしくないですね」
「アセルスさんって、ただ食べるだけじゃなかったんですね」
「おい! お前たち! 特にランク! 普通に失礼だからな!!」
アセルスはシャーと猫のように威嚇すると、抗議の声を上げる。
すると、今度はディッシュと同じくごしごしと洗い始めた。
その一連の動作を見ていて、ルヴァンスキーは感心する。
(まさかディッシュくんの動きを見ただけで真似てしまうとは……。さすが辺境の最強騎士――【光速】のアセルス。SSランクは伊達ではありませんね。やろうと思ってできることじゃないんですが……)
アセルスが周りを沸かせる中、ディッシュは次の工程に入る。
すでに何度かやったことあるみたいに、包丁で鱗を取っていく。その動きも実に鮮やかだ。
鱗を取ると、すっかり魔獣感がなくなってしまった。
いつか食べた悪魔の魚を思い出すように、ひょろっとした体躯が現れる。
ディッシュは悪魔の魚の時のように目打ちすると、背の方から開き始めた。
まるですでにその内臓や骨の位置がわかっているような動きだ。ディッシュは包丁で鱗を取っていた。その時にあらかじめ身体の中の柔らかいところと、そうでないところを敏感に感じながら、ロケットフィッシュの体内をイメージしていたのだ。
そこで悪魔の魚と遜色ないと感じたディッシュは、背から捌き始める。
悪魔の魚の場合、腹から切ったが、イメージした結果背から切る方が安全だと感じた。
包丁を慎重に動かし、中骨に沿って動かしていく。
息が詰まる瞬間ではあったが、無事背が開かれると、魔獣とは思えない綺麗な白身が現れた。
「「「綺麗……」」」
女性陣がうっとりと眺める。
1人女性代表アセルスだけが、ウォンと一緒に唾を飲み込んでいた。
ディッシュは血合いをこそぎ落とし、中骨と身の間に包丁を入れてて、骨と分離する。魔獣だけあって、なかなか太い骨だ。これぐらい大きくないと、滝を登ることは不可能だろう。同時にその締まった筋肉には期待がかかる。
「フレーナ悪いけど、お湯を沸かしてくれねぇ」
「ん? ああ。そうか。ここじゃ普通の火は使えねぇからな」
ディッシュは水の張った鍋を、フレーナに差し出す。
スキル【炎帝】を持つフレーナの炎は、煙を出さないクリーンな炎だ。
こういう洞窟で、温かいものを作るには打って付けだった。
「あと、これも軽く炙っておいてくれ」
「なんだ、これ? ああ。ロケットフィッシュの骨か。了解」
フレーナは受け取ると、軽く手を握り、表面に熱を入れていく。
アセルスやフレーナがお手伝いするのを見て、1人仲間外れになったエリーザベトは、ディッシュに近づいていった。
「ディッシュくん、わたくしにも何かお手伝いすることないですか~」
「あるぞ」
「まあ! なんですか?」
「あんたの【聖癒】のスキルを使って、ロケットフィッシュの中にある毒を取り除いてくれ。魚介系の魔獣は割と毒を持っていることが多いんだ」
「なるほど~。お安い御用ですよ~」
ふんと鼻息荒くして、エリーザベトもお手伝いを始めた。
【聖癒】を使って、魔獣の身の中の毒素を浄化していく。
エリーザベトの得意技だ。
すると、今度はディッシュの頬を舐めるものが現れる。
ボクは? と言う風に、ついにはウォンまで現れた。
「そうだな。じゃあ、エリザが浄化した身の試食だな。……一応言っておくけど、全部食べたらダメだからな」
『うぉん!!』
任された、とばかりにウォンは胸を張る。
早速、エリーザベトが浄化した身を頬張った。
慎重に咀嚼したウォンは目を輝かせる。当然、食レポはできないが、手を使って「〇」とディッシュに示した。
どうやら、問題ないようだ。
Sランク以上の冒険者を手足のように動かし、さらに神獣まで操る。
事情を知らない冒険者には、ディッシュのその的確な指示の出し方は、猛獣使いのように見えたかもしれない。
「よし。それじゃまあ、1発目――作ってみるか」
ウォンの反応を見て、ディッシュの動きが変わる。
身を薄く切って皿に並べると、同じくスライスした赤玉葱に、魚醤、そして何やら果実を取り出す。
ディッシュはそれを絞ると、油が出てきた。
サラサラとしているが、間違いない。かすかに果実の匂いを残し、ロケットフィッシュの身の上にかかる。
「ディッシュくん、その実は? わたくし、どこかで?」
「ああ。これか? こいつは太陽樹っていう木の実だ」
「「た、太陽樹!!」」
素っ頓狂な声を上げたのは、質問したエリーザベトだけではなかった。
横で聞き耳を立てていたルヴァンスキーですら驚いている。
「発見難度Aランクの重要魔草種の1種ではありませんか」
「創世記にも出てくる油ですよ~。その油は貴重でぇ、とぉっても偉い神官の方しか使えないと……。大聖堂の一角にしか生えていないって噂なのに~」
「はあ? 俺が住んでる周りにわんさか生えてるぞ」
ガーン!!
エリーザベトは珍しくショックを受けたらしい。
「珍しくて、聖油として儀式でも扱われる太陽樹の実がわんさかなってるなんてぇ。さ、さすがディッシュくんですぅ」
「うんうん。わかるぞ、エリーザベト。…………でも、ディッシュの料理番の座は渡さないぞ」
「うーん。大丈夫ですよぉ。わたくしぃ、アセルスがディッシュくんのことで~、おろおろしてる方が好きですからぁ」
「な、なんだと!」
「でも~、わたくしが入ってぇ。三角関係の展開というのもぉ、面白いかもしれませんねぇ。あ、でも、姫様を入れるとぉ、四角――――」
「エリザ! も、もう言うな! 恥ずかしいではないか!!」
すでに大体のことが冒険者に知られてしまったアセルスに向かって、ドッと笑いが起こる。
奥手の騎士は、顔を赤くするだけだった。
ディッシュに助けを求めるが、その彼はまたもや見たこともない食材を取り出す。
「ディッシュ、それはなんだ?」
「ああ。これか? これはな――――」
木の根だ。
…………。
「はああああああああああああ!!」
アセルスは絶叫するのだった。







