menu167 魔獣の網引き漁
☆★☆★ コミカライズ更新日 ☆★☆★
本日、ヤングエースUPでコミカライズが更新されております。
ゴーレム窯で出来上がったパンのお味とは??
我がまま王女も交えて、いざ試食会です。
Webともどもお召し上がり下さい。
「今だ! ヘレネイ!!」
ランクの声が飛ぶ。
待ってました、とばかりに相棒は飛び出し、手を掲げた。
スキル【植物操作】
天井や壁を伝う木の根っこを動かす。
それは1本や2本だけではない。
「今回はちょっと本気でやるわよ!!」
ヘレネイは叫ぶ。
その力はさらに他の根へと伝わり、地底湖を覆うすべての根へと伝わった。
「行きなさい!!」
無数の木の根が、ロケットフィッシュの群体へと襲いかかる。
数と数でいうなら、同格――いや、やはりまだロケットフィッシュの方が上かもしれない。
だが、ランクが考え出したアイディアはヘレネイの【植物操作】を使って、ロケットフィッシュを串刺しにすることではなかった。
根はロケットフィッシュから逸れ、周りを囲うように広がっていく。
縦と横、あるいは斜め。
網の目になるように根は蠢き、ロケットフィッシュの幼体を包み込んだ。
「よし!!」
ギュッとヘレネイは拳を握る。
その動きに呼応し、集まった根もロケットフィッシュの幼体を掴む。
大きく見えようとも、それは幼体の群体だ。
ロケットフィッシュ自体、さほど大きくない。
だが、ヘレネイが作った木の根の網は、まさしく小さな網の目となって、ロケットフィッシュの脱出を拒んでいた。
根から伸びた小さく細い根がもつれ合い、魔獣を絡め取る。
強度も抜群だ。網の中で暴れても、ロケットフィッシュがどんなにもがこうと、逃げ出すことはない。
成体となれば、岩をも穿つロケットフィッシュだが、まだ幼体だ。水の中で加速を付ける筋肉が育っていないため、根を千切ることができないのである。
そのため幼体は集まることによって、大きな生物であることを偽装し、厳しい自然環境を生き抜いているのだ。
その木の根から1本の根が待機していた冒険者の方へと伸びていく。
待ってましたと、冒険者が群がり、根を掴んだ。
「今です!!」
ルヴァンスキーが叫ぶ。
「「「「オーエス! オーエス!!」」」」
かけ声とともに始まったのは、綱引きだ。
冒険者vsロケットフィッシュの幼体(群体)。
網で捕まえた後、陸の方まで引き摺り出そうという作戦だった。
冒険者たちは懸命に引く。
人間たちの考えに気付いたのか。ロケットフィッシュたちは大暴れだ。
網の中で無茶苦茶に暴れ回る。そのおかげで仲間が下敷きになってもお構いなしだった。
それは巨大な水竜がのたうち回っているように見えた。
しかし、勝利の女神は人間たちに微笑む。
冒険者たちが徐々に優勢になってきたのだ。
おそらくだが、最初暴れた時、すでに体力を削られていたのだろう。
アセルスやフレーナ、ルヴィンスキーの戦いも無駄ではなかったのだ。
「「「「おおおおおおおお!!」」」」
徐々に力で圧倒されると、ついにロケットフィッシュの幼体は湖岸に打ち上がった。
さらにアセルスたちは引き、確実な距離まで引き上げることに成功する。
「いいでしょう!」
ルヴァンスキーは合図する。
「やった!」
「終わった……」
「疲れたですぅ」
アセルス、フレーナ、エリザーベトの3人はペタンとお尻を付けて、座る。
他の冒険者たちも似たようなものだ。
自分や仲間たちを労っていた。
そして、この2人は湖岸近くで大の字になって寝ていた。
「やったわね、ランク」
「うん。ありがとう、ヘレネイ」
ランクとヘレネイだ。
グータッチで互いを労う。
顔は苦しそうだったが、額に汗した姿には充実感があふれていた。
そこに現れたのは、ディッシュだ。
「2人ともご苦労様」
『うぉん!!』
ヌッと2人の視界に現れると、ウォンと一緒に労いの言葉をかける。
ディッシュは道具袋に手を突っ込み、いつものスライム飴を取り出した。
「これでも舐めてろ。元気になるぞ」
「ありがとう、ディッシュくん」
「ちょうど甘い物が食べたかったところなのよね」
ディッシュから受け取ると、スライム飴を舐める。
ほろ苦甘い、この飴独特の風味が口の中に広がっていく。
同時に切れかけていた体力が回復していった。
ヘレネイはむくりと起き上がる。
「ホント不思議な飴ね。あんなにしんどくても、体力がちょっと戻るんだから」
「それを言うなら、これがスライムの飴ってこと1番の驚きだよ」
ランクも苦笑いを浮かべながら、驚いた。
スライム飴はその独特の甘さもさることながら、少しだけ体力が回復するという魔草や回復薬に似た効果を持っている。
以前ディッシュが山に放り出され、スライム飴を食べた直後、元気に動き回っていたのも、その効果のおかげだ。
ディッシュはその効果を理解していて、山で遭難した相手にはスライム飴を与えるようにしていた。
「ディッシュ!」
アセルスの声が聞こえた。
見ると、捕まえたロケットフィッシュの幼体の周りに冒険者が集まっている。
総じて殺気立っていて、今にも飛びかかりかねない。
そんな中、アセルスはディッシュを呼んだ。
「どうする、ディッシュ? 君の意見を聞きたい」
ディッシュの意見を求める。
周囲の意見は――――。
「早いところ燃やしまおう。こいつは危険だ」
「で~も~、これは学術的に非常に珍しいものですから~。1度研究機関に見てもらったらぁ」
「ギルドとしては燃やしてしまう方がいいのですが、魔獣の生態調査も重要ですからね。どうするか悩みどころです」
燃やす、あるいは研究機関に持ち込むのどちらかで割れていた。
「ディッシュくん、君の意見は?」
ルヴァンスキーが片眼鏡を光らせる。
「そりゃあまあ、決まってるだろ」
「ん? どっちだ?」
「んなこと決まってる。食うに決まってるじゃねぇか?」
ひゃっっっっほおおおおおおおおおおおお!!
【光速】で飛び上がったのは、アセルスだった。
ウォンと一緒に天井まで跳躍する。
それまでリーダーモードだったが、ついに耐えられなくなったらしい。
というか、アセルスの中ではすでに食べることが前提だったのだろう。
そして、ディッシュならそう言ってくれると信じていたのだ。
「で? で? で? どうするのだ、ディッシュ? 焼くのか? 煮るのか? それとも刺身か?」
リーダーモードという殻をかなぐり捨て、食欲の魔人と化したアセルスを止める者はいない。
ウォンと一緒に涎を拭いながら、ディッシュに迫った。
そこで慌ててルヴィンスキーが間に入る。
「待って下さい、ディッシュ・マックホーン。魔獣を食べるのは構いませんが、これを全部食べるのですか?」
「さすがにこの人数でも食べられないだろ。だから、食べる分と学術調査用の分を残して、後は焼却したらいいんじゃないか?」
「ま~あ、妥当なところですねぇ」
エリーザベトは賛同する。
フレーナも他の冒険者も賛同した。意見は一致したようだ。
「じゃあ、一旦外に出ちまった冒険者たちを呼び戻してくれよ」
「ここで料理をするんですか?」
「ルヴァンスキー殿、魔獣料理は鮮度が命です。今すぐ食べないとおいしくないですよ」
ディッシュのお株を奪うみたいに、アセルスがドヤ顔で解説する。
ルヴァンスキーは困惑するばかりだ。
「それで、ディッシュよ。焼きか? 煮付けか?」
「焼きはダメですよ。ここはダンジョンの奥なので……。無駄に空気を使うのは、余り得策ではないかと。煙も籠もりますし」
ルヴァンスキーはたしなめる。
「おっさんの言う通りだな。まずは――――」
ディッシュは根の網の中ですっかり弱ってしまったロケットフィッシュを捕まえる。
スライムみたいにぬるぬるしたもの中から、1体の幼体を引きずり出すのだった。







