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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第5章
135/209

Special menu5 ダンジョンのアレ焼肉(6)

本日コミカライズ版の更新日になります。

ヤングエースUP、めちゃコミックで更新されておりますので、

どうぞお召し上がり下さい。

 ミミックを開けた瞬間、眩い光が飛び出した。

 その光に覗き込んだディッシュ、アセルス、ウォンが包まれる。

 中に入っているものを確認した時、アセルスの青い瞳はプレゼントを貰ったばかりの玩具のように輝いていた。


 現れたのは、財宝だ。

 所謂、金銀財宝というヤツである。

 色とりどりの宝石、そして大量の金貨が入っていた。


「すごい! このミミックにはまだ宝が残っていたのだな」


 アセルスは嬉しそうに悲鳴を上げる。


「すげぇなあ!!」


「まさかぁミミックの中に財宝があるなんてぇ」


 その声に反応したのはフレーナとエリーザベトだ。

 アセルスの後ろからミミックの中をのぞき見る。

 さらにヘレネイやランク、他の冒険者たちまでミミックに群がってきた。


「そう言えば、中身を覗いたことがなかったわね」


「ヘレネイ、中身を覗いたら命なんてないよ」


「え? じゃあ、中身を見たのって誰かいる?」


 ヘレネイが冒険者たちに尋ねる。

 冒険者たちは腕を組んだ。

 首を傾げるものもいる。


「そう言えばねぇなあ」

「ミミックは怨霊系だしなあ」

「倒したら、消滅しちまうし」

「こうやって死んだまま持ち帰るなんて初めてだからな」


 冒険者たちが言うようにミミックのようなゴースト系の魔獣は、なんらかの方法で魔力を散らされた瞬間、消滅してしまう。

 一方でミミックの蓋を開けて、中身を覗いてしまえば、どんな冒険者とて脱出は難しい。死ぬ覚悟で中身を見れば、確認できるだろうが、それ以外の方法はない。


 それほど、ディッシュがやったことは学術的にも貴重なことなのだ。


「なんだ、お前ら。ミミックの中身を見たことねぇのか?」


 ディッシュはさも当然と言った感じで首を傾げる。

 本人は意識していないが、冒険者からすればちょっと鼻につく言い方である。

 だが、誰も手を上げようとはしなかった。

 魔獣に比較的詳しいフォンや、ギルドの職員ですらディッシュの質問に答えられない。逆に彼がやっていることに、称賛を送るように目を輝かせていた。


「まあまあ、みんな。ともかく今はミミックの中の財宝を取り上げようじゃないか」


「あの~、アセルスさん。1つ質問が――」


 ヘレネイはしおらしい態度で、アセルスに質問する。


「なんだ、ヘレネイ」


「それって私たちが持ってきたので、取り分は私たちってことでいいんでしょうか?」


「当然だろう。ただしギルドにも一部納めるんだぞ」


「わかってます!!」


 ヘレネイは飛び上がった。

 宝箱には金貨や宝石が山のように入っている。

 これだけあれば、たとえギルドに納めたとしても生涯遊んで暮らせるだろう。


「すごい! すごいわ、ランク。どうしよう!!」


「落ち着いて、ヘレネイ。これはディッシュくんの功績でもあるんだよ」


「わかってるわ。きっちり分け前はわけるから。それでも庭付きの一軒家ぐらいなら買えるわよね? 家政婦を1人ぐらい雇っても問題ないかしら。そしたら、悠々自適の上級階級暮らしよ」


「ヘレネイ……。自分が楽することしか考えてないんだね」


「当たり前でしょ!!」


 ヘレネイはふんぞり返る。

 すでに上流階級のお嬢さまを気取っているのか。

 その場で軽やかにターンしてみせた。


 後輩の浮かれる姿を見ながら、アセルスはやれやれと首を振る。


「あとで2人でゆっくり相談するがいい。今は、ともかくこの財宝を――」



 ぎゅにゅっ!!



 アセルスが財宝を掴んだ瞬間だった。

 予想していたとは違う感触……。

 それも財宝らしからぬ感覚に、聖騎士アセルスの顔が引きつる。


 なんと表現すればいいのだろうか。

 金貨や宝石にある硬い感触は皆無。

 むしろスライム、いやオオナメクジを掴んだ時に似ている。


「ひゃっ!!」


「おっと」


 思わず聖騎士らしからぬ声を上げて、アセルスは飛び退る。

 そこにディッシュの胸があった。

 やや押されながら、アセルスを受け止める。

 ディッシュに抱きしめられるような形になった。


「大丈夫か、アセルス?」


「大大大大大大大大(だだだだだだだだ)、大丈夫だ!!」


 アセルスは慌てて離れる。

 白い肌は今やシチリンの中の炭のように赤く光っていた。

 それを見て、周囲がニヤニヤと笑う。


「アセルスぅ、どうしたんですか?」


「顔が赤いぞ、お前」


「はあ……。春ですねぇ」


「フレーナやエリーザベトはともかくフォンまで!! べ、別に! そ、そのだな。驚いたんだ。こ、こここの財宝はただの財宝ではないぞ」


 アセルスは指摘する。


「またまたそんな照れないでくださいよ。みんな、わかってますから」


 アセルスに代わって進み出たのは、ヘレネイだ。

 宝箱にある自分の財宝に舌なめずりした後、手を伸ばす。



 むぎゅっ!!



「ぎゃああああああああ!!」


 ヘレネイは絶叫を上げた。

 さっきのアセルスがそうであったように、ヘレネイもまた反射的に飛び退く。

 受け止めたのは、相方のランクであった。


「ど、どうしたの、ヘレネイ?」


「あ……、あ……、あ……、ざ、財宝が! 私の知ってる財宝じゃない!!」


「どういうこと?」


「にしし……」


 ディッシュが笑う。

 皆の視線がEランクになったばかりの冒険者に向けられた。


「そりゃそうだ。そいつは財宝なんかじゃねぇよ」


「財宝じゃなければ、なんだというのだ?」


 落ち着きを取り戻したアセルスが尋ねる。

 ディッシュは口角を開けた。


「そいつはミミックの内臓だ」


 …………。


 …………。



「「「「「内臓ぉおおおおおおおおおおおお!!」」」」」



 皆が一斉に絶叫する。

 アセルスはおろか聞いていた冒険者や往来で聞いていた人間すら驚いていた。


「考えてみろよ。ミミックは人間を食うんだぜ。こいつらの目当ては人間の中にある魔力だけど、骨や肉だけを残したら次に人間が来た時にバレてしまうだろう」


「た、確かに……」


「だから、こいつらは立派な消化器官を持ってるんだよ。言わば――――」



 ミミックの臓物(ホルモン)だな。



「ミミックの臓物(ホルモン)!!」


 皆の表情が一変する。

 臓物(ホルモン)――その魅惑の言葉を聞けば、誰もが理解できる。

 この後に待ち受ける絶品食材を。

 ミミックのタンを食べたのだ。

 つまり、ディッシュが次に作るのは……いや、利用する部位は。


「まさかディッシュ。そのミミックの臓物(ホルモン)を――」


「にしし……。そりゃあ食べるに決まってるだろ」


「おおおおッ!!」


 アセルスの口内にドロリと唾が溢れ返る。

 彼女だけではない。

 そこかしこから、涎を飲み込み、あるいは喉を鳴らす音が聞こえた。


 その瞳は光っていた。


 ディッシュは突然飢えた狼に囲まれる。


「しかし、ディッシュ君。なんで内臓が財宝の形を?」


「そ、そうよ! びっくりしたんだから」


 ランクが尋ねれば、横でヘレネイが抗議の声を上げる。


「難しいことはわからねぇけどよ、俺にはなんとなくわかるぜ。ミミックの気持ちがよ」


「ミミックの気持ち?」


 アセルスは首を傾げた。


「ミミックは確かに強ぇ魔獣だけど、その性質上動くことはできねぇ。待ち一辺倒の魔獣だ。そのまま誰にも見つからずに、魔力を切らして朽ちていく可能性だってある。だから、獲物がやってきた時、絶対に好機を逃してはいけないんだ」


 これは弱者の戦術に近い。

 山では圧倒的弱者であるディッシュにはわかるのだろう。

 狩りに失敗すれば、こっちもただではすまない。

 だから、好機を逃さず、確実に仕留める形を取ったのだ。


「ミミックの場合、人間の警戒心を緩めさせるために、自分の内臓を財宝に見せかけるように形を変えていったんだろうな。ちなみに俺はこの財宝のことを『偽財』って呼んでる」


「なるほど……。魔獣も大変なのだな」


「ああ。こいつらも生きるのに必死なんだよ。だから、俺はこいつらをおいしく食ってやりてぇ。こいつらの命を奪ったんだ。おいしく食うことが、料理人の俺がしてあげられる唯一のことだからな」


「うむ。ディッシュらしいな」

「だな」

「生きとし生けるものに感謝、感謝なのですよぉ」


 皆が自然と手を合わせる。

 ミミックに向かってだ。

 あれほど凶暴で恨みを買う魔獣を前にして、皆が神妙な顔になる。


 ディッシュもまた先頭に立ち、ミミックの前で手を合わせた。


「いただきます!」


「「「「「いただきます!!」」」」」


 声が揃う。

 ギルドを中心に、凜とその言葉は広がった。


「というわけで食べるか、ミミックの臓物(ホルモン)! みんな、腹の具合はどうだ?」


 ぐおおおおおおおおおおおお!!


 竜の嘶き――いや、それは腹音という名の福音だった。

 ちょっと恥ずかしそうにお腹をさすったのは、アセルスである。


「アセルス、あんなに食べたのにまだ食えるのか」


「さすがは【光速】の聖騎士ですねぇ。お腹の空き方も【光速】ですぅ」


 仲間たちが茶化す。

 その横でヘレネイとランクが笑っていたが、2人とも「ぐぅ」とお腹を鳴らした。


 他の冒険者も準備万端といったところだ。

 皿と箸を持って、すでに待っている者もいる。


「にしし……。じゃあ、待ってろ。今からおいしい臓物(ホルモン)を捌いてやるからよ。あ――――1つ忠告だ」


 ディッシュはミミックに向けていた包丁を、一旦みんなに向けた。


 そしていつもの笑みを浮かべる。



 ほっぺた臓物(ホルモン)の脂みたいに落ちちまうから覚悟しろよ……。


焼肉といえば、こっちも食べたい……。

ちょっと外に出て行きにくくなっておりますが、

少しでも満足いただければ幸いです。


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まだ手に入れていないと言う方は、是非この機会にゲットして下さい。

よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も美味しくいただきました。 ミミック、偽財なんてまるで虫取草の様ですね。 フレーナ、エリザ達なら直ぐに討伐するから中身は見ないのでしょうね。すぐ消えるし。 貴重な大発見をしても、ディッシ…
[一言] >ぐおおおおおおおおおおおお!! >竜の嘶き――いや、それは腹音だった。 腹音というより福音かな?w
[一言] ホルモン! 甘い脂を纏ったクニクニの食感! 噛めば噛む程に溢れ出る旨味!! 魔獣のモノとなれば正にほっぺた蕩け落ちる美味しさでしょうなぁ( ;´Д`)ジュルリ
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