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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第4章
115/209

menu107 魔獣の焼き卵かけご飯

おかげさまで、コミカライズ版『ゼロスキルの料理番』が、

ヤングエースUPの応援ランキングにて、

日間1位を達成しました!!

応援いただいた方ありがとうございます。

読者の皆様に感謝の意を示したく、WEB版を更新させていただきました。

今夜もどうぞ召し上がれ!

 アセルスが卵かけご飯に腹鼓を打つ一方、ディッシュはある相談を持ちかけられていた。


 村人がお椀を持ったままディッシュの元に集まる。

 熱々のご飯の中には、バジリスクの卵の黄身が手つかずのまま残されていた。

 食べないのか、と聞くと村人は頭を振る。


「おいしそうなんだけどね。卵を生で食べるのはちょっと抵抗があるんだよ。どうにかならないかね、料理人さん」


 1つ注文を付ける。


 なるほど。

 確かに卵の黄身の生食は怖い。

 魔獣の卵というなら尚更だろう。


 ちょっとした相談に対して、ディッシュは村人が持っていた椀を取り上げた。


「あ。ちょっと料理人さん」

「食べないとは言ってないんだよ」


 村人達は慌てふためく。

 その様子を見ながら、ディッシュはいつも通り「にしし……」と不敵に笑った。


「まあ、ちょっと見てろって」


 ディッシュは椀の中に醤油を多めに加える。

 箸を勢いよく突っ込むと、ぐるぐるとかき混ぜ始めた。


「一体、何をするんだ?」

「卵かけご飯を混ぜてるだけじゃないのか?」

「これが料理なのか」


 村人たちは興味津々で見守る。

 よくかき混ぜると、今度は家の窯を借りた。

 こういう田舎の村では、今でも普通に火焚きをして、火を付けているところが多い。街では当たり前のように種火石を使うが、あれはあれで高価なのだ。


 だが、ディッシュにとってはお馴染みだ。

 いつも通り、サッと火を付ける。

 その様子を見て、窯を貸した家の女将が驚いていた。


 先ほど混ぜた卵かけご飯を、三角むすびにして成形する。

 それをトレーに置いて、窯の中で焼き始めた。


「おお!」

「これは!!」

「もしや――」


 村人たちの目の色が変わる。

 ディッシュがやろうとしていることに気付いたのだ。


 時々、裏返しながら、じっくり焼き目が付くのを待ち続ける。


 しばらくしてディッシュは言った。


「頃合いだな」


 ミトンをはめ、年季が入った鉄のトレーを取り出す。



 お待たせ! 焼き卵かけおむすびのできあがりだ!!



 現れたのは、焼き目の付いた卵かけおむすびだった。


 その見たことのない料理に、皆が「おお!」と叫ぶ。

 バジリスクの卵が材料だというのも驚くのに、それをおむすびにして、しかも焼くなんて発想は全くなかったのだ。


 見た目は、小麦で作った菓子のように見える。

 だが、漂ってくる匂いが違う。

 焼きたての卵焼きの香りと、香ばしい醤油の香りが鼻腔を衝いた。


 すでに村人たちの唇には、ぬらぬらとした涎が付いている。


 椀を預かった村人に、ディッシュは焼き卵かけおむすびを渡した。

 早速、みんなは頬張る。


「うっまぁああ!!」


 吠えずにはいられなかった。

 当然のことではあるが、そこには卵かけご飯の味があった。

 濃厚なバジリスクの黄身が、焼いた白飯によく絡んでいる。

 その濃厚さも、火を通したことによって、より濃くなっているような気がした。

 余計な水分が飛んだことによって、黄身の味がさらに濃く出たのだろう。


 そこに香ばしい風味が鼻から突き抜けていく。


 食感も最高だ。

 うまく火を入れた証拠である。

 外はサックリとしているのに、中はもっちりとして柔らかい。

 一部半熟になっているところもあって、とろりとした黄身の味わいを残していた。


「お、おい!」

「俺にも食わせてくれよ」

「俺も!」

「私も!」

「ぼくも!!」


 殺到する。

 皆がまだ食べていない卵かけご飯を差し出した。

 噂を聞き、食べかけを持ってくるものもいる。


「落ち着けよ。料理は逃げやしねぇって。食べれなかったヤツも、明日食べればいい。バジリスクは多産だからな。いっぱい卵を産んでくれるぞ」


「おお!」

「じゃあ、残っているバジリスクも農場に放ったらどうだ」

「そうだな。そうしよう」

「でも、危険じゃないのか?」


 皆はもう1度、ディッシュの方を見て、確認する。


「大丈夫だ。バジリスクの魔眼はつぶしてある。それ以外じゃ、無害だよ」


 おおっ、村人から歓声が上がった。


 それはディッシュの説明に感心したのか。

 それとも明日も卵かけご飯が食べられるという期待なのか。

 そのどっちもなのか。

 判然とはしなかったが、ディッシュを見る目が変わったことは確かだ。


 いや、それはディッシュに対する関心度だけではない。


 食事を取るというのは、人として当たり前の行動だ。

 故に、それがなくなるだけで、人はパニックになる。

 思考を奪われてしまう。


 食事がするというのは、どんな偉大な君主の演説よりも、人間を奮い立たせることができる。


 そこに感動が加われば、尚更のことだ。


 ゼロスキルの料理人――ディッシュは、死にかけた村に食事と感動を与えた。


 今、この中において、彼ほど村人の尊敬を集める人間はいないだろう。


「ありがとうございます、ディッシュ殿」


 頭を下げたのは、村長だった。

 ご飯を食べたからだろうか。

 初めて会った時よりも血色が良い。

 心なしか背筋が伸びているように見えた。


「別にまだ俺は礼を言われるようなことをしてないぞ」


「ご謙遜を。村に食事を与えてくださりました。こんなにおいしいものを」


 村長は空になった椀を見せる。

 ちょっと名残惜しいのか。

 客人の前でも、唇に付いた黄身をぺろりと舐め取る。


「俺がエリザに頼まれたのは、この畑を再生してくれってことだ。まだそれを達成してないからな。礼はまた後にしてくれ」


「そうですか。ところで、畑はいつになったら直りますか?」


「ポイズンドラゴンの死骸カスを取るなら、明日ぐらいには完了するんじゃないか?」



「「「「あ、明日……!!」」」」



 村人達は素っ頓狂な声を上げる。

 口をあんぐりと開けたまま固まった。


「悪い。遅かったか。バジリスクをもっと投入できれば、もっと早く――」


「いいいい、いいえ!! とんでもありません。むしろ早すぎるくらいですよ」


「そうなのか?」


「しかし、今から畑をやっても、作物が育つのは秋から冬の前になってしまいますなあ」


 村長は遠い目をする。


 すると、ディッシュは首を振った。


「ん? そんなに待たなくてもいいだろう」


「いや……。馬鈴薯でも、90日はかかります」


「ん? 馬鈴薯が食べたいのか? だったら、30日あれば十分だな」



「「「「30日!!」」」」



 また村人たちは目を剥いた。

 そこにお腹を膨らませたアセルスたちがやってくる。


「ディッシュ、聞いたぞ」

「さすがにぃ~、30日は無茶なのですよぉ」

「だよな。無理がある」


 アセルス、エリーザベト、フレーナは頭を抱える。

 しかし、ディッシュは退かない。

 むしろ、「なんでそう思うんだ?」とばかりに、目を瞬かせた。


「なんだ。お前たち、飯の材料を作るのに、そんなに時間をかけていたのか?」


「え? しかし……」


「考えてみろよ。誰かさん(アセルス)の飯の材料……。いつもどこから調達してると思ってるんだ?」


「山からではないのか?」


「もちろん、それもあるけどよ。俺の畑の中で育てているのもあるんだぞ」


 ディッシュは腕をまくった。


「よし! じゃあ、わかった。俺流の農業を教えてやるよ」


 にしし、とディッシュはいつも通り微笑むのだった。


本当にありがとうございます。

引き続き、コミカライズ、WEB、書籍を応援いただければ幸いです。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんだろうか。バジリスクの卵で色んな卵料理が出てほしいかも。バジリスクの固茹で玉子、オムレツ、オムライス、玉子焼き、玉子丼とか。 バジリスクって鶏肉料理にもなるかな? そうなると、バジリスク…
[気になる点] もしかして畑に、 コミカライズ最新版のアレ(申し訳程度の宣伝)を混ぜて、 作物を早く育てるではと推理してしまう。
[気になる点] ディッシュ流畑耕しの始まりかな? 馬鈴薯だけじゃなく他の作物や野菜も耕すのか?
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