6話
借家を探していたはずが、ブラックな隊に入隊してしまいそうです。
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「どうぞ、中でお話を聞くだけでも!」
建物から出てきた可愛らしい子にそんな事を言われてしまうと、つい着いていってしまうのが男の悲しい性というもの。
案の定コーンは鼻の下を伸ばしながら、ウンウンと入っていってしまった。
仕方がない、俺も行くとするか。
仕方がない。仕方がない。仕方ないよね?
「コーン・アンキドですっ!お名前教えてくださいっ!」
コーンのテンションが半端ない。
久しぶりに帰った実家の犬にも負けないハイテンションだ。
彼女はアイシス・コンドビア。
アイシスさんは一般隊員だが人手が足りない為、時々呼び込みを買って出ているのだとか。
それから、入隊に関しての注意事項や、契約内容。任務地と期間。
更に死亡時の手当など、一通りの説明を受けさせ、キラキラと眩しい笑顔で俺達を落とそうとする。
自分の売りを最大限に発揮するこの手管、この若さで末恐ろしい。
「すまない、俺達は入隊志願で来たわけじゃない…と思う。」
手紙の中身を見てないので、自信が持てない。
ここの主が誰なのか分からないので、一旦アイシスさんに手紙を渡して確認してもらおう。
「これはお…隊長宛てですね。ちょっと待っててください。すぐ呼んできますので」
そう言い残すと、建物の奥へ入っていき、コーンのテンションの詰まった風船は穴が空いて萎んでいった。
5分程待つと、奥から如何にも無骨軍人な雰囲気の隊長さんが現れ、事情を説明する。
「なるほど、シクオ殿の紹介である以上無下には出来ないな。隊舎で良ければ部屋を充てがおう。それと相談だが---」
筋肉さんの手紙には、俺達の事が色々と書かれていた様で、暇な時で構わないからと、新人隊員の指導を頼まれた。
修行を逃げ出した身で人に教えるのはどうかと思うが、家賃代わりにそれくらいならと、引き受ける事にした。
「それと、くれぐれも娘にちょっかいは出すなよ。」
そう鋭い眼光で、コーンを睨みつける。
娘が誰なのか一瞬分からなかったが、後ろでアイシスさんが「ちょっとお父さん!」と小声で抗議してたので判明した。
コーンよ、ご愁傷様。
隊員が人手不足なのは、コンドビア父娘の飴と鞭の鞭が圧倒的すぎるからだと思う。
荷物を宿屋から隊の宿舎へ移す。
当然というか残念というか、女性隊員とは別の建物だ。
一通り挨拶を済ませ、夕食は共同の食堂で取らせて貰えた。
男性隊員でアイシスさんのファン(彼女に乗せられて入隊した者)はやはり多かった。
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その後、義手の完成を待つ間、新人の訓練を見させてもらったり、訓練に混じってみたりと、すっかり隊に馴染んで居た。
コンドビア隊長は貫禄も去ることながら、実力も相当な物で、俺とコーンの二人がかりでもあしらわれてしまった。
若造にはまだまだ負けんと豪語するだけはある。
俺はもうとっくにアラサーだけど。
定期的に鍛冶屋のガンスの店には顔を出していて、遂に完成したと見せてもらった。
「これが俺の義手か。厨二じゃないけどこういうのもカッコイイな。」
「チュウニってなんだ?」
コーンには適当に説明して、義手の装着と調整をしてもらった。
義手の掌に出し入れ出来る金具が備わっていて、剣を振る際の補助として使えるのだと。
慣れるまでは大変だけど、無いよりいいはずだとガンスは言う。
「あとだなぁ、これは…俺からだ。」
コーンが照れくさそうに剣を俺に渡してきた。
元々は片手で扱える剣を探しに工房通りに来たけれど、義手に予算を取られた為、剣は見送った。
それをコーンが自分でやりくりして剣の代金を捻出したのだと。
コーンは底抜けにいい奴だ。この世界でこいつに会わなかったら、俺は今頃どうなっていたか分からない。
そう感謝の思いを巡らせながら受け取る。
「コーン、これからも頼む。」
「あたりめぇだ、相棒。」
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「構えーっ」
「撃てっ!」
騒音と真っ黒な煙を吐きながら、鉄の筒が火を吹く。
この世界、銃があったのか…
「凄い迫力ですね!火薬を使った新兵器だそうですよ。」
そう紹介してくれたのは、アイシスさん。
今日は珍しい物が見れるからと、俺とコーンを誘って試射の見学にきた。
この世界の文明水準は前の世界に比べて500年以上は遅れている。
魔物や魔法といった概念もあるから、一概に比べられる物でもないけれど。
21世紀の俺の知識を使えば、文明が一気に加速…しないな。
俺の知識なんてたかが知れてる。ネットが有ればこの世界で億万長者にもなれたろうに。もっと勉強しておくべきだったか。
それに出来たとしても下手に兵器開発に協力して、戦争にでもなったら困る。
この異世界は平穏で好ましい。このままの純粋な世界であって欲しい。
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冬になり雪の時期がやってきた。
近頃コーンは真面目に訓練に参加している。
冒険者をやめて防衛隊に入るつもりじゃないかと思える位に真剣だ。
「コーン、魔物の討伐依頼だ。どうする?」
「受けるにきまってんだろ?俺は今、戦いに飢えているのさ。」
「もっともっとだ、グハハハ。」
と妙なテンションで扱いに困る。
「コーヘー、俺を主軸で頼む。」
「分かった、サポートする。」
以前は行き当たりばったり、特にポジショニングは事前に決めない事の方が多かったが、最近はコーンが前に出たがる。
何か思う所があるんだろう。
依頼内容は魔物の討伐。魔物に名前は無い。
野生の魔物は種として生きている訳ではなく、近くに生息している動物に似せて生まれるらしい。
仕組みは知らないし、この世界の人も魔物は魔物でそれ以上でもそれ以下でもないのだと。
価値観の違いか。
この辺りはドエル村程は積もらないが、雪が積もる地域らしい。
雪に慣れているコーンが前を受け持ってくれたので少し楽だ。
「いた。」
「回り込んで挟むか?」
「慎重に頼む。」
その後、ズオリャァと掛け声と共にコーンが狼っぽい魔物を一撃で仕留めた。
最近のコーンは、鬼気迫ると言っていい程に血走っている。
「なあコーン、お前最近おかしくないか?」
「そ、そうかぁ?」
「隠し事は無しだ、相棒。」
「ぅぐっ」
観念して口を割るコーン。聞いてみれば、かわいい奴め。
アイシスさんを落とす為に、強くなってコンドビア隊長に勝つのだと。
お父さんに勝つなんて素敵抱いて。作戦だった。
しかし残念だが、あの隊長に勝つのは相当難しいと思う。
そして雪解けの春。転機と事件が訪れる。




