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38話

待ち人来たる。


----------


 もうすぐ8月になろうとする頃、待ち望んだ影が空を埋め尽くした。

先生達の帰還だ。


 先生達がここを立ってから、3週間が経過していた。

 

「おかえりなさい。どうでしたか?」

 聞くまでもなく、ドラゴンの背には子供達が乗せられていた。

ややドラゴンの表情が、苦々しい物に見えた。


「恙無(つつが)く終えてきたわい。」

「この子達は、ボウムルに移すわ。不用意に魔素を吸わないようにしないとね。」

 魔素を散らす魔法を使い、保護するのだと。

ここ、ウィアクティオンと、恐らくまだウィエダに居る子も連れていくと。


 各地で保護した子供は9人。

魔族の手により、異世界から来た子供で保護出来たのは12人。


 これで全てであると願う。

 


 ドラゴンの背にはセイの姿もあった。

若干元気が無さそうに見え、爽やかな笑顔に陰りが見えた。


「やあコーヘー、元気だったかい?僕はもう駄目だよ。」

 勇者の専売特許である魔族討伐。

先生とキヌアさんが居たため、殆どする事がなかったのだと。


「もう勇者廃業だ~。」

「未熟者めが。」

 先生に認められる人は、果たして居るのだろうか。

 


 その後、先生はドラゴンで子供達を移送する。

俺達は糸を辿る事になった。


 キヌアさん曰く、やはり保護した子供全員に糸が見えるらしい。

そしてその糸は同一方向へと、南へと伸びていると。


 糸を辿るのは、俺と苺、セイとキヌアさんの4人。

それと…体高2メートルを超えるドンちゃんだ。


 苺は隠れて大きくしてたのを、エヘヘと可愛く誤魔化していた。

 

 コーンは着いて来ようか迷っていたが、そろそろ赤ん坊が生まれるはずなので、傍にいてやれと置いていく。




「…遂に…やっとだな、相棒!必ず見つけて戻ってこい。」

「…必ず、必ず連れて戻る。」

 少し鼻を鳴らすコーンに再会の約束をして、ウィアクティオンを後にした。


----------




「これは、中々、堪える、ね。」

「そう、だ、な。」

 ウィアクティオンの南の街道。

出発してから3日程、馬車…ドンちゃん車に猛烈な勢いで、揺られている。


 最初は馬車の様に曳いて貰ったが、あまりの速度で突き上げる衝撃に耐えかね、今は荷台を抱えてもらい、猛スピードで走っている。


 ドンちゃんも随分無理をしているようで、足がボロボロと崩れ落ちるが、苺が炎を当てる度に修復されていった。


「多分あの山よ。」

 キヌアさんによれば、ボウムルへ向かった子達の物と思われる糸と、苺の糸が、正面の山の頂で合流していると。

 

 街道は山を迂回している為、頂への道はない。

木が邪魔をして、ドンちゃんは入れそうにない。


「歩いて登るかい?」

「その前に試したい事がある。」

 セイの提案を保留にして、呼びかけを試みる。

なんでもという訳には行かないと思うが、試すだけならいいだろう。




「…木の精霊、聞こえているなら助けて欲しい。」


(どうしたの?)


「おお…。君には本当に驚かされるよ。」

「加護のお陰ね。」

 木の葉の固まりがフワリと漂い、セイは驚く。

 

「頂に杏子が…妻がいるはずなんだ。運んで欲しい。」


(あの辺りは前からおかしいの。様子を見てきてくれるなら喜んで。)

「分かった、俺も力になる。」

(じゃあ、しっかり捕まっててね。)


 森の木々が風も無いのに揺れざわめく。

枝がドンちゃんを持ち上げ、一気に頂近くまで山を登る。


「いやあ、凄い光景だね。」

「バケツリレーって言うんだよ!」

 苺が自慢げにセイに教えてあげる風に口をきく。


 森の木々が途切れ、頂までもう少しの所でドンちゃんは地面に降り立った。

 

「ありがとう。帰りもまた頼む。」

(様子を後で教えてね。)

「ああ。」



「やっぱりあそこみたいね。糸があそこで消えてるわ。」

「消えてる?」

 不安に思いながら頂を目指す。


「この山は火山だったのか。」

 着いてみれば、山頂はカルデラになっていた。

カルデラ内部は緑が茂り、綺麗な湖が中央に見えた。


「本当にここに杏子さんはいるのかい?何も無さそうだよ。」

 セイの言う様に、魔族が関わっているような場所には見えない。

洞窟でもあるのだろうか?


「そこで糸が途切れているのよね。なんででしょうね?」

「そこって、この辺で痛っ。」

 糸の切れている場所を教えて貰おうと手を伸ばすと、何かに触れた感触と共に痛みが走った。

 

「どうしたコーヘー、そこに何かあるのかい?」

「分からない。急に痛みが走ったんだ。」

 セイが恐る恐る刀を手に取り、突く様に様子を見る。

 

「何かあるね。見えない何かが。」

「結界の様な物かしらね?」

「どこ~?」

 苺が好奇心から、身を乗り出す。

 

「危ないか…なんだこれは?」

 苺を止めようとしたその時、薄っすらと赤黒い世界が、見えない壁の先に映し出された。

これは、魔界か?


「これはなんだい?あそこに飛んでいるのは…魔族じゃないか!」

 無数に飛び交う鳥たちの様に見えたのは、魔族だった。

百…いや二百は居るか?


「苺ちゃんが魔素を吸うから、この壁が薄くってるようね。」

「壁を構成する為の魔素が不足するんだろうね。」

 二人が考察を教えてくれた。

 

「キヌアさん糸は見えますか?」

 糸は赤黒い世界に伸びていて、中央に見える砦のような建物に向かっていると。

 


 

「セイ、あそこまで行って、生きて戻れると思うか?」

「僕を誰だと思っているんだい?魔族といえば勇者じゃないか!」

 数日前に再会した時には、廃業だと項垂(うなだ)れていた人物とは思えない程、自信たっぷりに答えてくれた。

 

 俺もここまで来て後戻りはしたくない。

どう考えても、あそこに杏子がいるのは明白だ。


 例えこの身に代えてでも、杏子を必ず救うんだ。

 



「あとはこの壁をどうにかするだけだな。」

「苺ちゃんに吸って貰えば、通れる穴くらいは開きそうだよ。」

 苺が近づけば近づくほど、壁の薄まりは伝播し、徐々にその存在が希薄になっていった。

 

「魔素をだいぶ吸ってるはずだから、魔法を使いながら近づいてくれるか。」

「はーい。」

 苺は炎を出しながら少しづつ、少しづつ近づいていく。

 

「その調子だ、随分薄くなってきた。」

 経過を見守りながら、慎重に、慎重に進める。

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