1話
クリスマスが過ぎ、年末に向けて世間が慌ただしく動く頃、安倍康平(23)は病室のベッドの脇に座り妻の杏子(21)を見守っていた。
「コーちゃんごめんね。こんな事になっちゃって…」
首を振り否定する。杏子のせいじゃない。
検査で分かった事は衰弱の原因が不明であること。
命を授かっていたこと。
現在、生命維持がままならないこと。
つまるところ、赤ちゃんが出来てたけど原因不明の母体衰弱によりどちらも助からない。という理不尽な答えが返ってきた。
「誕生日は一緒に祝おうな」
それが精一杯かけられる声だった。
そのまま、杏子は疲労からか寝入ってしまい。俺もまた連日の看護に疲れ座ったままベッドにもたれ掛かる様に寝てしまっていた。
朝、機械の警報で目を覚ます。
心拍や酸素のアラートだった。
思わず取り乱し、慌てて廊下に飛び出て看護師を叫ぶように呼ぶ。看護師達も把握していた様で、器具の用意を慌ただしくしていた。
医師の懸命な処置も虚しく、妻は間もなく逝去した。
年末という事もあり、葬儀は年明けの1月4日となり、どうしてもと頼み杏子をアパートに運んで貰った。
遺品を整理し、病室を片付けていると杏子の日記を見つけた。
デートで行った場所や、美味しかったお店。二人で買い揃えた安物の家具の話しとか。入院してからは、体の変調と不安の事。俺への謝罪の言葉がいっぱい書いてあった。
一番最後のページに、女の子と男の子と題打って名前がいっぱい書き記してあるページを見つけた。
候補の中から気に入ったのがあったのか、女の子は「苺」男の子は「康太郎」に丸が付けてあった。
「気が早いよバッカだなぁ…」
そう呟いて、涙で何も見えなくなった。
大晦日の夜、ケーキを買って帰る。
1月1日は杏子と俺の誕生日。
二人共同じ誕生日、それも元旦だなんておかしいねって杏子が笑ってた。数時間後には、二人で祝える最後の誕生日になる。
薄暗い住宅街の路地を曲がり、もうすぐ杏子の待つアパートにという所で体が宙を舞う。
飲酒運転の自動車にはねられ、俺は死亡した。
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ここは…?俺は何を…そうだ帰らないと。
声が出ない。
体も動かない。
目も見えているのか分からない。
感覚と言うものが何もかも感じられない。
帰らないとという気持ちがあるけど、何故帰るのか何処に帰るのか分からない。
(希薄な存在の状態で問うのは難しいかもしれないが、杏子を救いたいか?)
何?希薄?分からない。
杏子?そうだ、杏子だ。
杏子を救いたい。
助けたい。
逢いたい。
杏子は大切な人なんだ。
杏子と祝うんだ。
(救えるかは君次第だ。手伝いはしよう。2つの可能性を与える。)
(一つ目は杏子の居る世界へ送ろう。)
(二つ目は君の気持ちを伝える言葉をプレゼントしよう)
朧だった意識が更に薄くなり、沈んだ。
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目が覚めた時、そこは草原で、俺は素っ裸。
二日酔いで目覚めた時の如く、記憶を慎重に辿る。
杏子は死んだ。でも、この世界に居るという何かが俺をここに運んだ。裸一貫で。
神と言うよりは悪魔の所業だ。
実はどこかの組織の犯行で、地球の何処かに運び実験か何かという可能性も捨てきれない。
ここは本当に杏子の居る世界なのか…?杏子が生きてるのか…?
ひとまず着るものが欲しい。
どう探しても葉っぱしかないが、丸見えよりはいいだろう…
葉っぱ3枚で隠れてしまう大事な物が尊厳を失ったかのように悲しげだ。
隠すものは隠したので状況と何をするかを考えよう。
ぐぅ~
ダメだ、何か食べ物か人居る所へ行かないと。
山を背に歩き始め、30分ほどした先の森の切れ間から村が見えた。
何処と無く、日本とは違う雰囲気の違う建物だな。
助かった、人の住んでる気配がある。何か分けてもらおう。
「あの…、すいません」
「ん?なんだい?見ない顔だね」
(ハァ~…よかった、言葉は通じる。)
恰幅の良いオバサンが奥から顔を出して応対してくれた。
素っ裸なので戸口の正面に立てず、顔だけ出す形で非常に不自然だ。
30件ほどの小さな村のようで、村人全員顔なじみという所だろうか?
裸一貫無一文で困っていると事情を説明すると、ボロのズボンを一着とパンを一個分け与えてくれて、着いてこいと。
「どうせ借金取りに身ぐるみ剥がされたんだろ?うちのバカ息子と一緒に仕事しな」
「バカとはなんだバカとは、愛息子に向かって!」
紹介された息子は歳は同年代で、黙っていれば映画俳優かというくらい整った顔立ち。
…但し頭が少し残念らしい。
仕事というのは種まきだった。ここの季節が分からないけど地球なら春なのか?
俺の最後の記憶では大晦日の夜だった。
…元旦には杏子との最後の誕生日を祝うはずだった。
時間が進んだのか戻ったのか、違う惑星なのか、違う次元なのか分からないけど、記憶の最後の時間とのズレはある。
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「コーン・アンキド、コーンでいいぞ。お袋はカミラってんだ。それで何をやらかしたんだ?」
「俺は康平。何もしてない…。けど、人を探してる。あんずっていうんだけど知らないか?」
それはお前の想い人か?と茶化されるだけで、あんずの行方は分からなかった。
名前や、村の様子からして、少なくとも俺の知っている地球とは違うと思う。
ただその後コーンから改めて、手掛かりや大体の居所が分かるのかと聞かれ、好意的に色々聞いてくれた。
そして迷った末にあんずとの関係や、信じて貰えるかは分からなかったけど前の世界での話しをした。
結果コーンは良い奴だ。
鼻水と涙まみれの残念イケメンだけど。
寝床はアンキド家でお世話になる事になった。
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確かにコーンに言われた様に、手掛かりは名前と性別と年齢だけ。
大体の位置も分からない。
この世界の広さも分からないけど、地球規模で考えたらひと1人を探すのは不可能だ。
何かいい手は無い物かと、今日も種を蒔きながら考える。
コリャという叱りの声と共に尻に痛みが走る。
振り返るとお爺さんの杖に尻を引っ叩かれた様だ。
どういう事かと、周りを見れば道に種を蒔いていた。
考え事は後回しだ。ごめんなさい。
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その日の就寝前にコーンから提案を持ちかけられた。
「見つけられないなら、有名になって見つけてもらえばいい」
「有名になりたきゃ、冒険者が今オススメだぜ。なんたってゲイン爺さんが居るからな」
「ゲイン爺さんはああ見えて、元冒険者で強かったらしいぜ」
「冒険者ってのは、魔物退治とかダンジョンのお宝を探してきたりするんだよ」
「なっ、こんなつまらねぇ村に居るより楽しそうだろ?」
俺の協力より、村を抜け出したいからという本音が溢れたコーン。
ゲイン爺さんというのは、昼間のお爺さんだった。
3年程まえにこの村に引っ越してきたのだと。
次の日、コーンに指定された場所に行くと、鼻の下を伸ばしたゲイン爺さんとコーンが居た。
コーン曰く共同浴場の穴場スポットを取引したとの事。
ゲイン爺さんお盛んですね。
「修行は厳しいからの。覚悟しちょけよ」
その日から、冒険者になるための修行が始まった。
「二人共目を瞑って手を揃えて真っ直ぐ伸ばせぇ」
「目を開いて見てみよ。それが己の体と意識のズレじゃ」
「ズレが無くなるまで今の基礎しかやらんでの、励め励め」
ズレの修正は互いに向き合って、同じように体を動かし相手のズレを指摘修正する。
これだけで大凡半年。作物の収穫が始まる頃になっていた。
農作業と修行は平行して行い、自分の食い扶持はきちんと稼いだ。
コーンは時々農作業をサボって村の若い娘と遊びに行くが、大半はカミラおばさんに拳骨を食らうお約束が待っている。
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収穫時期が終わり、農作業も殆どなくなった頃、ようやく剣を持った修行が始まった。
「やっと、修行って、感じに、なってきたな」
「そうだなっと」
いきなりの実戦だった。だたし剣は剣でも木剣だけど。
剣の撃ち合いはコーンも面白い様で、朝から晩まで続く事になった。
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月日は流れ季節は一巡した。




