第七十六話 はじめまして
今回だけ三人称視点です!
星断暦844年9月10日。
ケルエタたちがガシリア大陸に来てから10日、
ヴァルド王国の統治下にあるヴァルデ公国にて、
ルサナン大陸の貯金を崩しながら生活していた。
「フリィ……いつまで寝てるのよ」
日々北上しながらも宿に泊まる旅生活。
「まぁ、フリィアちゃんは眠気に弱いですし?」
目的地はオドバ王国、最終的な目的地はデエス帝国。
「リルメスお嬢様、フリィア様を起こしてください。
そろそろ宿を出発しますよ」
「フリィ〜! 起きて〜!」
四人は旅を続けながらも順調だという確信があったが、自身らに迫る脅威に対しては気が付く様子がない。
「ま……まだ、あと30分」
「寝すぎよっ!!」
ケルエタの死のリストに刻まれぬ一つの災難。
それはまだ先の出来事であるが、この日──
「今日でヴァルド王国に入る予定なんですから、
フリィア様、準備をして宿を出ますよ」
四人は幼き女王と出会うこととなる。
* * *
「なーんか、ルサナン大陸に居た時は戦ってばっかだったから、こうして戦うことがないと移動も暇ね」
「……違和感。戦いばっかしてたからなんか……うずうずするよ」
「フリィって意外に戦い好きよね……」
「そんなぁ好きじゃないよぉ」
フリィアとリルメスの会話が行われる中、グラバは周囲に漂う異様な雰囲気を感じ取る。それはグラバのみが気が付いたものであり、ケルエタや少女二人組は気が付くことがなかった。
「ケルエタ様……それとお二方。歩きながら私のお話をお聞きくださいませ」
グラバは一切表情を変えずにそう言うと、三人は言われた通り歩き続ける。
「おそらくですが、かなりの手練れ……人数はわかりませんが私たちよりも人数の多い集団が尾行してきています。殺意は感じませんが……いつでも戦える準備をお願い致します」
ケルエタらを尾行する集団。グラバが手練れと評する時点で英級以上、正面から堂々と戦えば敗北する戦力差だ。
「殺意がないなら、なんで俺たちなんかを尾行してるんだ……?」
「ダグンドの追手……だとは思えませんね」
「じゃ、じゃあなんなのよ?」
「ダグンド以外で追われることしたかな……?」
四人は全く心当たりがなかった。唯一の可能性であるダグンドは、ヴァルド王国やヴァルデ公国内では堂々と行動することはできない。
「誰であろうと……こちらに危害を加えるのであれば、容赦なく私が──」
その時、町中であるはずなのに、周囲から音が消えた。
瞬時に肌が感じ取る命の危機。時に、あまりにも大きい魔力差はそれらを感じ取る者らの意識を飛ばす。
ケルエタは感じた。明らかに、俊級とは比にならないほどの威圧感。全身が強張って砕け散りそうになってしまう感覚。そんな緊張感に呑まれながらも四人は目にする。自分たちの前に現れる天級兇徒の一角、そして一人ずば抜けた魔力量を有する幼き魔王。
「なぜ……王幼のエレボが……」
グラバは少し先の地面に黒い魔法陣が現れ、その中から黒い電撃が天へと昇っていく様を目撃する。そして、瞬きを行えば電撃は消え、小さな身体ではあるが強い存在感を有する王幼のエレボ・ストランメを視界に入れる。
「はじめまして、妾は魔王じゃぞ!!」
ケルエタは困惑していた。この目に映る小さな少女が天級兇徒の一角だとは思えなかったのだ。しかし、それでも肌では理解している。砕けた口調に似合わぬエレボが放つ緊張感。
「耳が……聞こえない」
「な、なんで……私たちに」
少女らが戸惑う中、ケルエタは思考を巡らせる。
(待て待て……なんで王幼なんかが俺たちをマーキングするんだよ。てか……ルサナン大陸の時もそうだったが、天級兇徒はなんで何かとつけて俺たちを狙ってくるんだ? だが……あの時と違うのは親玉が出てきたことと、死のリストが全く反応していないこと)
「驚いてる様子じゃな。まぁ無理もないのう、こんな美少女が現れたらそう驚くのも理解できるのじゃ! なーに殺したりしないから安心するのじゃ。ただ話がしたいだけじゃからな!」
エレボは大量の魔力を体内に封じ込めたのか、辺りに漂う緊張感が消えていく。それに伴い、四人らは息荒くも動けるようになった。
「話とは……なんです」
グラバがエレボにそう聞くと──
「ふっふっふ。お主らぁ! 妾の配下となれ!」
エレボは腰に手を当て、胸を張りながらもそう言った。
「……は?」
ケルエタはふとそんな声を漏らしてしまう。
「いやのう。お主らどうやら厄介なことに巻き込まれることが多いんじゃろ? 妾はのう、魔王であるが武力による支配は望んでおらん。妾以外の天級どもは争いばかり好む……お主らも頭狂いのタルタにちょっかいかけられたんじゃろ?」
エレボは思いついたことをポンポンと口に出すような話し方をしており、子供のようだった。
「妾はな、いずれ奴らを殲滅したいのじゃ。そして、メテオール帝国をぶっ潰すんじゃ!!」
エレボは自分以外の天級兇徒を嫌っているようで、同時にメテオール帝国に対して恨みを抱いているようだった。
「べつに妾がお主らを配下とする意味はないのじゃが……まあ気まぐれじゃ。適当に勧誘しまくっとる」
どうやらエレボは戦力を雑に集めることをしており、ヴァルドやヴァルデを支配しているのもそれが関係しているだろう。
「もし、俺たちがそれを断ったら……?」
ケルエタは興味本位でそんなことを聞いてみた。
「もちろん、今ここで殺すがのう」
そんなことを言うエレボは無表情であり、心底自分が上に立っていることを理解しているようだった。
「も、もちろん配下にならせてください……それで、なんか配下になったらしなきゃいけない事とかあります……?」
ケルエタは相手が相手なので慎重に話し、エレボがこちらに何を求めるのか問う。
「ない! ただ生きておれ、他のやつらに殺されたら許さんからな!」
「そ、それだけ……!?」
リルメスはそんな反応を見せた。
「……ふんふん、じゃあもう用済みじゃから帰る! じゃあの! 魔王帰還! だーっはっはっはっ!」
そうして再び、黒い電撃を纏いながらも姿を消す王幼のエレボ。彼女は突如現れては一方的に話し、すぐさま帰ってしまう自由な幼き魔王であった。
「……ケルエタさん。私たち、配下になっちゃいましたね」
「色々急に出来事が起きすぎです……でもまあ、死ぬようなことにならなくてよかった」
気が付けば尾行していたであろう者らの気配は消え、ケルエタたちは難を逃れた。




