第七十五話 何事もデカく、人生はそれに比例する
9月20日。
俺たちはルサナン大陸を離れた。
ルサナン大陸とガシリア大陸は距離的にはかなり近くて、船で移動した時間は1時間もかかってない。
ガシリア大陸の南の入り口、ヴァッテ港。
気温はそう高くなくて、ルサナン大陸にいた俺たちからすれば涼しく感じる。港に着いた俺たちだがまず、ここに来るまでダグンドの奴と出会わなかったのは運が良い。ガシリア大陸はメテオール配下の国もないし、そうダグンドが派手に行動を起こしてくることはないだろう。
「意外というか……賑わってますね」
港町は基本的に活気あふれるような場所じゃない。
仕事をしに来た大人たちが黙々と作業するような、
常にどんよりとした雰囲気を纏う町なんだ。
「ケルエタ、あたしお腹空いたわ!」
そんな意外な町になれる間もなく、
リルメスが腹が減ったと言ってくる。
「時間もいいですし、何か食べますか」
食事は大事だ。我慢させることはない。
「あたしデカいお肉が食べたいわ!」
デカい肉って……そんな抽象的な……
そもそもデカい肉なんてそうあるわけ──
「あのお店はどうです?」
グラバさんが指を向ける方向には、
人知族の言葉でデカデカと書かれた文字、
『デカデカお肉をお食べ』なんて名の店があった。
「……じゃあ、あそこで」
ネーミングセンスがすごいな……
俺が店を出すとしたらそうはしないぞ。
「デカデカお肉をお食べ……すごい……名前」
フリィアちゃんは若干困惑してたが、
リルメスは食うことしか考えてないので、
店の名前とか心底どうでもいいようだ。
ガシリア大陸ってまさか……
こういうふざけた感じの雰囲気があるのか?
「いらっしゃ~い」
店の中に入ると恐らく獣族、
猫族の女性の店員がいた。
この世界の獣族はどうやら人知族とのハーフ以外、
猫耳人間だとかそういうのじゃないっぽい。
この女性の店員はがっつり猫の見た目だが、
二足歩行で服も着てるし頭も良さそうだ。
それに、身長も人サイズ、
こういう獣族の人たちを立可能獣類と呼ぶ。
「三名……いやぁ四名様かぁ~どうぞ~」
ガヤガヤとする店内の中を俺たちは進み、
猫の店員さんによってテーブル席に到着する。
「ご注文お決まりなったら呼んでくださぁい」
なんだか接客態度が悪い……というより、
ゆっるいな~。俺が店長だったら叱るね。
……この雰囲気、居酒屋時代に味わったな。
でも……誰がこんな雰囲気だったんだ?
ダメだ……もうあまり思い出せないな。
……いや、いやいや、良いんだ忘れて。
あんなクソみたいな記憶は捨てるべきだ!
「フリィは何食べるの?」
「私は……デカお肉セットでいいかな」
「甘いわね、あたしはデカデカお肉セットよ」
「食べきれるの……?」
「余裕よ!!」
デカデカ肉セットがどれくらいのデカ肉なのか、
俺はそれが気になるがこの身体じゃ食えんな。
「私はチビデカお肉セットで」
「なによグラバは全然食べないわね」
「あの、歳ですから……胃が死んでしまいます」
「……なんか悪かったわね」
「いえいえ」
確かにグラバさんの歳じゃ胃が死ぬ。
賢明な判断だと俺は思うぞ!
それより、チビデカ肉ってなんだよ。
「じゃあ店員さんを呼びますか」
「はーいはいはい!! 注文決まったわよ!!」
リルメスが大声でさっきの猫の人を呼んで、
猫の店員さんは小走りでこっちにやってきた。
「はいはい、ご注文は?」
「あたしが言うわ!
デカデカお肉セットに、
デカお肉セットとチビデカお肉セット、
デカデカお水ボトルもお願いね!」
「はいはい、復唱しますね。
デカデカお肉セットがおひとつ。
デカお肉セットがおひとつに、
チビデカお肉セットがおひとつ。
デカデカお水ボトルがおひとつ。
以上で間違いないですか~?」
「完璧よ! お肉はデッカくね!」
「はぁいデカデカと用意しますよぉ」
あーっ!! 『デカ』が多いなぁ!!
んまぁ、そんなわけで注文は済んだが、
デカデカが若干まだ頭に残ってるぞ……
「デカデカお肉ってどれくらい大きいのかしら」
「大きいんじゃないかな」
「当たり前なこと言うのね……」
「えへへ」
「褒めてないわよ!」
デカデカお肉がどれくらいデカいかは、
来てからのお楽しみってわけか……
「チビデカお肉……矛盾した商品」
「まぁ……小さい中のデカなんですよ」
「……? ……。? ……そうですね」
だいぶ困惑したな……
あんまこういうのは深く考えない方が良い。
しばらくして料理が運ばれてきた。
「うおっデッカ」
そんな声が俺から漏れるほどにはデカい。
確実にこんなの食ったら胃もたれする。
「デカデカお肉セットと〜デカお肉セット、
チビデカお肉セットにデカデカお水ボトルでーす」
机に置かれるデカデカたち。
一つずつステータスを解析していこう。
ーーーーデカデカお肉セットーーーー
HP600g ATK20
『デカデカお肉をお食べ』における中ボス、
この上には超デカすぎお肉セットがいるが、
デカデカお肉セットも強敵である。
ーーーーーデカお肉セットーーーーー
HP400g ATK10
『デカデカお肉をお食べ』における通常敵、
高難易度飲食店なので通常個体でさえ、
他店のラスボスに匹敵する怪物。
ーーーーチビデカお肉セットーーーー
HP200g ATK5
『デカデカお肉をお食べ』における弱体化個体、
難易度をイージーにした場合にのみ登場。
これは店側からの配慮である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
さて、敵のことは知れた。
次はこっちの解析だ。
デカデカお肉セットと戦うリルメス、
うちのリルメスのHPは800、ATKは10。
どう考えても敗戦確定なのだが、
リルメスのMP500もある。
この戦いにおいてMPはお腹の空く速度だ。
つまり今のリルメスは腹ペコであり、
そのステータスは変化する。
H P 1 3 0 0
リルメスの敗戦確定は、勝ち戦確定に変化した。
続けて、フリィアちゃん。
デカお肉セットと戦うのだが、
フリィアちゃんはHPが2000もあるので勝ち確。
深く語らずとも勝ってるので……まあ……これで。
最後にグラバさん。
チビデカお肉セットに挑むグラバさんだが、
HPが200とめちゃ雑魚だ。ATKも3しかない。
MPも100程度とどうしようもない人だが、
グラバさんは食事においてお残しをしないタイプ、
外食となればそれは意地となってしまう。
そう、グラバさんはめちゃ雑魚なりに、
意地という特殊ステータスで相手を完封。
つまり勝つことなど確定しているのだ。
「いただきまーす!」
冗談はさておき……お肉セットらは圧巻のデカさ、
店名やメニュー名に恥じないデカさで良い店だ。
蒸気が香りと共に全員の顔を覆っており、
デカいナイフで切りつければ大量の肉汁が溢れ、
照明の光を肉汁がテラテラと反射する。
分厚すぎて切るのも一苦労だが、
フリィアちゃんは一瞬で肉を切っており、
さすが剣士様と言ったところ。
見た目は完璧で、辺りに飾り付けられるポテトらしきものに野菜の束、視界に入る情報はこの料理を美味いと確信するには十分だった。
さてさて、お味はいかがなものか。
デカい肉を切り終わってフォークでブッ刺し、
口を大きく開けて噛み付くリルメス。
本当に王族だったのかと思う食べ方だが、
俺は礼儀作法の先生ではないので叱らない。
それより、リルメスは肉を噛みちぎって咀嚼する中、
その表情はこれを美味しいと伝えるかのもので、
口内では噛むたびに秘められた肉汁が溢れ出し、
肉にかかるソースと混ざって味が変化しているのだろう。加えて柔らかいのか噛み切るのは容易そうだ。
ゴクンと飲み込めばリルメスは言う。
「美味しいわね!!」
GOOD、GREAT、PERFECT!!
リルメスのご満足パラメーターは虹に達する。
「うん……うん……美味しい。
こんな大きいの食べたことないよ」
フリィアちゃんも美味しそうに食べている。
「……美味しいですが……私は明日が怖い」
グラバさんは……美味しくは思ってるのだろうが、
かなり明日のことを考えて不安になってる。
「こーんな美味しいお肉食べられて幸せだわ!」
……幸せか。ならずっとこれを食べさせ……いや、
さすがにそれは飽きるな。
でも、リルメスの幸せの基準が一つ知れた。
こうしてみんなと食事するのが幸せなのだろうか。
それとも好きな物を食べているのが幸せなのか。
まだまだ時間はあるが二人の幸せについては、
今からでも考えておく方がいい。
老衰エンドに加えて幸せが条件。
「幸せなら良かったです」
「ケルエタはかわいそうね! 食べられないなんて!」
「……よ、余計なお世話ですよ!」
……二人が幸せになればいいとは思ってるが、
なんだ……こうも目の前でステーキを食われると、
この俺でも少しだけ……少しだけ羨ましくなる。
いいなぁ……デカお肉。




