第七十四話 妾は魔王じゃぞ!!!!
ガガルパーティーにはお世話になった。
9月10日。俺たちはルサナン大陸を9月20日に去る。
そうなればガガルパーティーともお別れだ。
そんなわけで俺は一人で別れを告げに来た。
移動するなら動向を辺りに知らせるわけにもいかない、だから俺だけがこうやってお別れを告げに来た。
「そうか、寂しくなるな」
「いきなりですみません」
「いや良いんだ。あんたらが何かしらの事情を持ってることは知ってるし、俺たちはそれを詮索しない」
ガガルさんは結局最後まで良い人だった。
パーティーメンバーの人たちは俺たちに対して、
積極的に関わってくれたし仲良くもなれた。
「俺は小さい頃に一人の冒険者に助けられてな、
あれ以来、ずっと俺の心はあの人になりたがってる。
俺たちがあんたらにとって、そこまでとはいかずとも、少しだけ救いの存在になってたら嬉しいぜ」
ガガルさんはニコニコとそう言ってくれた。
「救いの存在……当たり前になってますよ」
「そうか! はははっ良かったぜ。
みんなにも伝えておく……なぁやっぱり、
お別れのパーティーとかはやらないのか?」
「はい……目立つわけにもいきませんので」
ガガルさんはがっかりしたように肩を落とすが、
すぐに姿勢を正して拳をゆっくり前に突き出した。
「そうか、なぁケルエタさんよ。また会おうぜ。
俺の勘が言ってんだ、あんたらはいつか、
この世界中が噂するような存在になるってな」
俺はその拳にゆっくり体当たりする。
「その時は、周りに自慢しても良いですよ」
「ははははっ! そりゃあ良いな!」
こうして半年ほどお世話になったガガルパーティーを、トラブルなく脱退、町を発つ準備は整った。
* * *
ソラニテに来るまでは歩きで来たが、
今は金もあるから馬車を使える。
ハルグーラ港までは10日程度。
ダグンドの手先だとかもいておかしくはない……
ただ、船に乗ってしまえばこっちのもんだ。
移動自体はスムーズに行くだろうが、
ルサナン大陸の北にあるガシリア大陸。
大陸の最南部、そして入り口の一つは、
二つの帝国につかず独立した国家、ヴァルド王国の配下、ヴァルデ公国が完全に支配してる。
ギルドだとかの稼ぎ口もない安全な場所、
だが、稼ぐ手段がないのならとっとと国を抜ける必要がある。覇蛇山脈を正面に左に抜けて、俺たちが目指すのは閃古の森林の先にあるオドバ王国。
今から一年半後には黒文字が確定してる。
その一年半……俺の予想はデエス帝国で、
おそらく何かしらの襲撃があると思ってる。
黒文字、今までの黒文字は全部避けてきた。
戦争に俊級兇徒のシキョン、加えて謎の暴野。
全部に言えるのは相手が軒並み超強敵。
次の文字化けした黒文字だって絶対ヤバい奴が来る。
デエス帝国の女帝、アンジュ・デエス・レーヌは、
人格者で俺たちのことも知ってるはず……
少しくらいは匿ってくれるはずだから、
俺の次の目標はアンジュさんと仲良くなること。
ガシリア大陸……あまり長居はしたくないな。
なんせ……あそこには天級兇徒がいる。
* *【小さき王の視点】* *
「だかーらー、妾は食べてないもん」
「そうでしたら口元の物は何ですか」
妾はエレボ・ストランメ。
天級兇徒に属する″魔王″じゃ。
「これは……幻覚じゃ」
「摩訶不思議な固有魔法をお持ちではないでしょう」
こやつは妾の誇る魔王軍の筆頭、
レマラ・コンカチリット。
「妾は王じゃぞ!! 一つくらい良いじゃろ!」
今、妾はこやつに詰められておる。
こやつが好物の食物を食べたのが間違いじゃった。
「はぁ……今日はもう一緒に寝てあげません」
「やーだー!!!」
そんなの嫌じゃぁあ!!
妾はこやつの抱擁がなければ寝れぬのに!!
「そう言う時は何と言うんですか?」
「うぅ……ごめんなさいじゃ」
レマラは妾の可愛い可愛い部下、
こやつ単体でも魔王軍を名乗れる逸材じゃ。
妾のことを常に一番に考えてくれるから、
妾としても大好きなんじゃ!
「よろしい。えらいですよ魔王様」
「えっへん」
妾はこの世に生を受けて7年。
このガシリア大陸にあるヴァルド王国の離島、
嵐貪島に魔王城を築き上げ住んでおる。
妾の他に天級兇徒は三名。
どいつもこいつも妾より強い怪物揃い。
でも、レマラが言うには妾が後100年もすれば、
一人を除いて一気に格上になるらしいんじゃ。
そう思うと楽しみでしょうがない。
生まれた頃から妾は王として生きてきた。
何事も妾が頂点に立つべきであるし、
それを阻む者は引き摺り下ろして極刑にする。
「魔王様ー、ヴァルド王国からの使節者です」
妾がレマラに頭を撫でられておる時に、
魔王軍の雑兵がそう伝えてきた。
「下がって良いぞ!!」
面倒くさいのう……使節なんか送っても、
妾がその程度で機嫌を保ち続けると思っているのか。全く……不敬すぎるんじゃが。
「レマラゆくぞ! ヴァルドに罰を下ぁす!」
「……そう言っていつも先延ばしにしてますよね」
「うるさーい!」
むぅ……レマラは妾のことを知りすぎじゃ。
んまあ、今日は中々に風が強いのう。
妾のスカートが捲れてパンツが見えたらどうするんじゃ。こんなハレンチな風は収めるに限るのう。
「レマラ、妾のスカートが捲れんようにするのじゃ」
「承知いたしました」
外に出て少し先に見えるヴァルドの使節者共、
等級はいつも英級程度なのじゃ。
「……王威」
レマラを除いた辺りの者らが跪いた。
風は弱まり雲の流れはゆっくりに、
これが妾の固有魔法、王威。
「ヴァルドの者らよ。今回は何を持ってきた!!」
今日も今日とて、ヴァルドの贈り物を見る。
ヴァルドの者らは無言で箱を妾の前に出し、
それはそれは綺麗で見惚れる宝石を出した。
「おぉーっ!! 綺麗じゃなレマラ!」
「指輪にしてお付けになられてみては?」
「そうする!! 今日中に作らせるのじゃ!」
「伝えておきましょう」
妾大満足!! ……と言いたいのじゃが。
「……んんっ、ヴァルドの者らよ。
宝石のことじゃが妾は気に入った。
それよりも……まだ訪れぬのか?
例の二人の少女は──」
「申し訳ございません……未だ訪れず」
「むぅ……まぁ見つけ次第ここに呼べ。
妾はそやつらと話がしたくてしょうがないのじゃ」
青き少女と赤き少女……
手紙に書かれていた二人。
早く会ってみたいのう……
* * *
王幼のエレボ・ストランメ。
有する固有魔法は王威。
自身の魔力量と対象の魔力量を天秤にかけ、
魔力量が少ない方に重圧をかける魔法。
非常に使用者の魔力量に左右される弱小魔法だが、
王幼のエレボは天級兇徒一の魔力量を誇り、天級戦士たちと互角かそれ以上の魔力量でもある。
故に魔王。
幼き生まれたての魔王は軍勢を持ち、
このガシリア大陸の一角を完全に支配している。
王幼の性格は非常に温厚。
滅多に武力行使は行わない。
「だーっはっはっ! 妾は魔王じゃぞー!!」
この言葉は、エレボがヴァルド王国に初めて訪れ、
正式に国を支配すると決めた際の一言目である。




