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花道闊歩 -異世界ガイドとして死ぬ運命の少女たちを幸せな老衰エンドへ導きます-  作者: ガリガリワン
第二部 第九章 思春期編

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第七十二話 置いていかないで


 * *【ケルエタ視点】* *



 フリィアちゃんが目を覚ました。

 大体依頼から2日後、意識が戻ったフリィアちゃんはいつも通りの様子で特に精神もやられてない。


「なんとかなってよかったですよ……」

「私も死ぬかと思いました〜」


 俺の心配とは裏腹にフリィアちゃんはかなりへっちゃらな様子。死にかけたってのによくもまあ、そんなのほほんとしてられるよ。


「……それで、砂漠ではなにと戦ったんです?」


 俺の質問にフリィアちゃんは答える。


「見たことないくらい大きい竜に……砂の球体みたいなのがいっぱいついてて、確か水の魔法攻撃とか……された気がします」


 なんだその竜……


全知脳(ぜんちのう)発動】

【謎の暴野(ぼうや)について】


 ……謎の暴野(ぼうや)


【無名の特殊個体、海巨竜(アシリュンド)

 海染の森林に生息する希少な竜族。

 原因は不明ながらも砂漠に出現し、

 長い間砂触食族に寄生されており、

 かなり弱っている状態である】


 最近、全知脳(ぜんちのう)のレベルが上がったのか、

 確実に紙に記されてない情報まで教えてくれる。


「とっても強かったです……死にかけました」

「死にかけましたって……そんな軽く言えませんよ」


【等級は通常時”俊級(しゅんきゅう)“】


 そんな奴と戦って……弱っていても英級(えいきゅう)並はあったはず、確実に今のフリィアちゃんじゃ死んでたはずだ。


 相手がフリィアちゃんを殺せてないのは、

 竜が戦闘から逃げ出したか、殺すことを諦めたか。


 かなり接戦を繰り広げたんだろうが、

 一方的に殺されてもおかしくなかった。


 どう……生き延びたんだ?


「とりあえず……他は特に覚えがないですか?」

「……リルメスちゃんは大丈夫でした?」

「えぇ、もう元気いっぱいです」

「よかった……」


 ほっとした表情を見せるフリィアちゃん。

 ……自分の心配とかないのかこの子は?


「でも……リルメスお嬢様に会うのは勧めませんよ。

 フリィアちゃんがこうなった原因は自分にあると、

 かなり……手に負えない自責を抱えてますから」

「そんな……リルメスちゃんは悪くないのに!」


 リルメスの心はもうぐちゃぐちゃだろう。

 故郷の滅亡、親しい間柄の者たちとの別れ、

 国を背負うプレッシャー、将来への不安そして、

 フリィアちゃんと開き続ける実力差……


 リルメスは間違いなく魔法の天才だ。

 誰が言おうと天才の部類、ただ、魔法使いに早熟するタイプは少ない。何年も魔法を使い続けて強くなるんだ。対して剣士は早熟しやすい。


 剣士はある時を境に一気にコツを掴んで、

 どんどんと実力を伸ばし続けるタイプが多い。


 そんな通例をリルメスは知らないし、

 俺は教えたこともない。


 今のリルメスは不安やプレッシャーに劣等感、

 それに今回の件で無力感まで加わった。


 十二歳の女の子がここまで背負って、

 未だに精神が壊れてない方が異常とも言える。


「リルメスお嬢様は悪くないですが、

 これはもう、本人の受け取り方次第なんです」

「……リルメスちゃん」


 フリィアちゃんは強い。

 はっきり言ってバケモノだ。


 大剣使いで英級(えいきゅう)以上の女性剣士は存在しない、

 そんな歴史を塗り替えてしまう可能性が多くある。


 十二歳で大剣を振り回して異常なほど精神が強く、

 魔剣化(まけんか)も出来るようになってる。


 そんな存在と力を比べたら誰だって嫌になるさ。


「今のリルメスお嬢様とは話さない方がいいです。

 おそらく……少しの発言で気持ちが爆発──」

「でもケルエタさん……話さないとわからないよ」

「……」


 確かに……な。そっとしておくのも大事だが、

 それじゃあ一時的に収まってもいつか再発する。


「私、リルメスちゃんと話し合うよ。

 リルメスちゃんが私のせいで苦しんでるなら、

 その苦しみを取り払うのも私がする」


 そんなことを言うフリィアちゃんに不安はなかった。

 自信だとかそう言うものじゃない。


 多分、リルメスの気持ちを楽にしたいんだろう。


「……フリィアちゃんがそう言うなら、

 もう俺はなにも口は出しません。

 それにフリィアちゃんなら大丈夫ですよ」

「……うん。私なら大丈夫だよね」


 そう言ってフリィアちゃんはベッドから起き上がり、

 宿にある浴室へと向かって出かける準備をする。


 ……今まで二人は死ぬか生きるかの運命に翻弄されてきたが、今回ばかりはこれからの関係性に関わる危機。ここを上手く乗り越えなきゃこれからは地獄だ。


 なんなら最悪の場合、

 二人一緒に行動出来なくなる可能性だってある。


 フリィアちゃんは底抜けに優しい、

 ただ、優しさは時に他者を傷つける。


 どうなるんだろうか……

 フリィアちゃんの優しさがリルメスを傷つけないか、

 そんなことが気になってしょうがない。



 * *【リルメス視点】* *



「グラバ、ここからの眺めはいいわね」

「お気に召しましたか?」


 ソラニテ王国の王都バグラ、

 展望台ってところがあるから来たけど、

 良い景色を見れて少し肩が軽くなったわ。


「……それにしても全然人がいないわね」

「夕暮れ時ではありますし、そもそも展望台自体、

 あまり皆興味がないのでしょう」


 ……そう言われると納得しちゃうわ。


「リルメスお嬢様、おそらく今日にはフリィア様が目を覚まされますが……」

「ねぇグラバ、あたしって強い?」


 ……。


「……お強いです」

「そう……フリィとあたし、どっちが強い?」


 ……。


「……」


 ……言ってよグラバ。


「……お嬢様、それは──」


 ……言ってくれた方があたしは──



「私の方が強いよ。リルメスちゃん」


「え?」

「フリィア様……?」


 あたしが振り返ったら階段のところにフリィがいた。


「……グラバ、どっか行って」

「えぇ……わかりました」


 あたしの言葉でグラバは展望台の端の方へと行き、

 あたしたちの会話を邪魔しないようにしてくれる。


「フリィ……」

「私の方が強いよリルメスちゃん。

 この世界は……剣士の方が強いって」

「なによ……なによいきなり!

 いきなり目を覚ましたと思ったら、

 あたしに対して自分の方が強いとか!」


 フリィ……っ! なんであなたはそんな優しいの!

 あたしが言ってほしいこともわかって……

 そのくせあたしよりも全然強い!


 なんでっ……なんでそんなに完璧なの!


「リルメスちゃんだってわかってるんでしょ。

 私の方が強くて自分は負けてるって」

「うるさい! あたしは……あたしは強いの!

 フリィに負けないくらい強いんだから!!」


 知ってる。負けてることくらい知ってる。

 だってそれで一番苦しんでるのはあたしなんだから。


「……嘘だよ。私の方が強いって認めてる。

 戦ってる時、いつも私が中心で動いてるし、

 今回の奴だって私がリルメスちゃんを守った」


「なっ……ん、なんなのよ……」

「……私はあの時、一人で敵に立ち向かった」

「だから……? 一人でも大丈夫だった?

 あたしなんかいなくても大丈夫ってことなの?」


 ……言い返せない。変な返し方しか出来ない!


「でもね……私はあの時足も貫かれて、

 腕にも穴をあけられて全身殴られて……

 骨も何本か砕けてたと思う」


 っ……フリィがそんな、そんな目に遭うのが嫌なの!

 あたしがもっと強ければそんな目には……!!


「でも……どうして勝てたと思う?」

「……そんなの、フリィが強いからでしょ」

 それ以外ない……だって、事実なんだから。


「違うよ」


「……じゃあなによ」


 フリィがあたしに近寄ってくる。

 なに……なにをしてくるの?


「私があの時勝てたのは……勝てたのはっ──」


 あたしの身体にこの世界で一番信頼できて、

 誰に対しても自慢出来る……剣士が……


「リルメスちゃんがいたから……」


 抱きついてきた。


「……なんで」

「リルメスちゃんを死なせたくなかった……

 私は一人で戦えても! ″ひとり″じゃ勝てない!!」


 ……違う……フリィはあたしなんか。


「私はリルメスちゃんがいないと強くなれない!

 だって……守りたいもん。大好きだから一緒に、

 いつまでも一緒に笑い合える親友でいたいもん……」


 フリィは……あたしのことなんか。


「言ってくれたもん。リルメスちゃんは……

 私はひとりじゃないっていってくれたもん……!」


 まだ今より幼い頃、迷宮に迷い込んだ時、

 あたしはフリィにそう言った。


 ずっと……ずっとそれからあたしは、

 フリィを一人で戦わせたくなくて……

 必死に追いつこうと魔法を鍛え続けた。


 負けるとかじゃない……置いていかれたくない。


 それでも……フリィの歩みは速かった。


「でも……フリィはあたしのことを置いていくじゃない……! あたしはもうこんなに差が開いちゃったの! もうフリィにあたしは置いてかれたのよ!」

「置いていったりなんかしないよ!」


 抱きついた状態からフリィが離れて、

 あたしの両肩を掴んで目を見てきた。


 気がついたら、あたしとフリィは泣いていて、

 もう冷静に考えることなんてできない。


「嘘よ……嘘つきよ……私がひとりにしないって、

 そうやって言ったとしてもフリィは……フリィは!

 あたしを置いていって強くなる……!」

「違う……違う! 私は……置いていったりなんか!」


 ……もう、フリィの問題じゃないの。

 あたしの……あたしの心の問題なの。


 これ以上否定しないで。

 フリィは何も悪くなんてないんだから、

 そんな顔になって必死にあたしを庇わないで。


「あたしはっ!! フリィのそういうところが……」


 ダメ……言ったら……そんなこと言ったら。


「そういうところが……っ!」


 あたしはもう……フリィと──


「大っ嫌いなのよっ!!」


 一緒に居られなくなる。

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