第五十八話 輝きを求めて
最初だけ何者かの一人称語り口調です。
* *【2月のダウラ砂漠、死族の城にて】* *
「……興味はないが」
天級兇徒、南を冠する四つ巴の一角。
壊刀のタルタ・ロストガル。
彼の正体は屍族の特殊個体、万死の屍である。
「先を越されるのも癪だ」
しかし、屍族には知力が等しく存在せず、故に──
タルタ・ロストガルは万死の屍の名ではない。
タルタ・ロストガルという名は、
身体を支配し寄生する″住精族″の名である。
本来、身体に自我はなく普通であれば腐敗し切るが、
タルタは精霊族特有の超次元の生命力に加え、
住精族としての固有魔法による効果により──
「……アイツの手紙が正しければ、
仕掛けるなら今しかないが……」
無制限の治癒魔法が可能。
超次元の生命力は治癒魔法の魔力消費を上回り、
故に身体は万全を極めし至高の状態となる。
「二人の嬢さんたちを殺すだけに、
何をアイツは必死になってるんだか……」
壊刀のタルタは死族の軍勢を率いる将軍。
「ビゾン、シキョン」
「うおー、お呼びですかー」
「あいー、お呼びでー」
地面からボコっと這い出てくる少女二人、
それはタルタが最も愛でる腐った従僕であり──
「少し暴れる時が来た」
共に俊級に分布される異名持ち兇徒。
蹂隕のビゾン・不骨のシキョン。
屍族と札屍族に分類される″不死″の剣士である。
「ビゾンは日光が苦手でーす」
「シキョンも苦手だぞー」
本来、屍族などに知力は宿らない。
この二人はタルタの圧倒的な生命力が、
長年をかけて生み出した最高傑作の″生命″
知力は低いが自我を持つ存在、
この世の理から外れた二人の腐った少女。
「日光……あぁ、なら傘を差していこう。
かぶれてしまっては良くないことだ」
タルタの魔力がなければ動くことのない、
操り人形とも言える存在。
「いえーい」
「うれしー」
それがこの二人なのだ。
「……今日は快晴だな」
壊刀のタルタはある者から手紙を受け取り、
死の運命に翻弄される少女二人を狙っていた。
タルタが動くことつまりそれは──
「……兵たち、起きよ。久しゅう日の目だぞ」
ダウラ砂漠の均衡が崩れることを意味する。
砂漠の南部では死族が次々と出現。
それがケルエタたちに知らされるのは、
また少し後の話である。
* * *
ダウラ砂漠での異変はすぐに起きた。
ダウラ砂漠の三勢力。
龍族・砂獣族・死族のうち、
砂獣族と死族の交戦が始まった。
3月13日から起こったこの戦いは、
最初から長い間、死族の優勢を継続していた。
武祭のケケラ・マグラッドを筆頭に、
砂獣族は抵抗を続けているが全滅は時間の問題。
しかし、死族の軍勢の一角が──
壊滅。
「さすがに不利だな……一度退こうか亡者たちよ」
砂獣族の加勢に現れたのは本来沈黙を貫く龍族、
その沈黙は今や解かれ、同盟など組んでいなかった二勢力が一つの勢力となって軍を押し返した。
龍族筆頭、俊級魔法使いマルトナ・カカレッリュ。
現在ダウラ砂漠の戦いは停戦中。
いつ再戦してもおかしくない状態だ。
だが──タルタには考えがあった。
「……ビゾン、送ったあいつはどうなった?」
「うおー順調に馴染んでますー」
3月15日。
タルタは縄張りの砂の城の中で、
ビゾンとシキョンを撫でながら椅子に座り、
二人へと指示を出しながらも質疑応答していた。
あくまでタルタの狙いは少女二人の殺害。
その二人とは、フリィア・サタニルド、
リルメス・レクセト・ボルワールである。
「″転移魔法″の準備をしておけシキョン」
「あいー!」
種族間での縄張り争いは真の目的ではない。
転移魔法。それは厳禁魔法に分類され、
発動法が不明であり使用自体が禁忌の魔法。
「タルタ様ーいつ行くのですかー?」
「今ー? 今ー?」
「今じゃない、情報が上がり次第だ。
それまでは少しのんびり過ごそう」
タルタはその気になれば、
ルサナン大陸を完全に落とすことができる。
しかし、彼がそうしないのは、
従僕の腐った少女二人への愛情故にだろう。
タルタ自身が生き残ったとしても、
確実に軍勢は崩壊する。
それには二人の従僕も含まれているのだ。
「シキョン。よく花が見たいと言っていたな。
明日にでも花を摘みに行こうか」
「あいーうーれーしー!」
「ビゾン。明後日は海に泳ぎにでも行こう」
「うおーやったーでーす!」
タルタは一日の大半を二人のために消費する。
それが彼の幸せであり日常だからだ。
* *【シルフ視点】* *
さて……ケルエタたちが依頼に行って数十分。
ウチはこの二人に言わなきゃいけないことがある。
「メアラ、ルダクル。
話があるんだけどいいかい」
ケルエタが二人にあの話をするのは不可能……
ならウチがやらなきゃいけない。
「シルフさん? なんですなの?」
……。
「二人はさ……自分たちが何者か答えられる?」
……。
「……答えられないです」
「メアラもわからないなの……」
……。
「なら……この旅からはウチと一緒に抜けようか」
「な、なんでですなの!?」
「そうですよ! 話がいきなり……!!」
……。
「……二人だってよくわかってるはずだよ。
自分たちがどれほどのお荷物かってさ」
「っ!」
やっぱりか……どっちも図星。
二人はこのままじゃ確実に重い荷物になる。
「わかってます……わかってますよ!
僕たちもそんなことわかってます……」
「メアラ……フリィア様とリルメス様が、
とっても強くて追いつける気がしないですなの……
それに、なにをすればいいかもわからないなの」
溜め続けていた本音。
これが二人の抱える不安。
「二人はさ自分を知らないだけ。
ウチは聞いてるんだからね……
ルダクルが中級魔法を扱えることも、
メアラが体術に優れていることも」
少し驚いたような二人。
自分でも知らなかったのか……
「あんたらは戦えないんじゃない、
戦い方と戦わなきゃいけない機会がないだけ。
戦争の時だって戦ってくれる人がいたもんね」
……妙にテグの顔がチラつく。
「ウチが全部教えてあげる。
この世界で生きていくための方法を」
テグも会ったばかりの頃は弱虫の泣き虫だった。
鉱髭族のくせに魔法使いに憧れるバカな子供、
ウチはそう思ってたし深く関わることもないと、
会ったばかりの頃はそう思ってた。
ただウチをしつこく襲ってきた子供を、
泣きながら追っ払ってくれたからそれの恩返し。
長い関係なんてなると思ってなかった。
「ルダクル、メアラ。
あんたらは戦争で何もかも失った。
いいかい、この世界はどこまでも残酷、
なにをするにも力が必要なの」
ウチはテグを長く見てきてそれを確信した。
金も名誉も……全て力と共についてくる。
強くならなきゃ何者にもなれない。
「今日決めな。今日みんなが帰ってくる前に出るか。
生涯足手纏いとして生きるか……ここで」
ルダクルは拳を強く握りしめて、
必死に身体の震えを抑えようとしてた。
メアラは涙がポロポロこぼれ落ちてる。
それでも……この選択は今の二人に必要。
「お別れの言葉すら……言わせてくれないのですか」
「……そうだ。あんたらに甘さはもういらない」
ルダクルはそう言われて黙り込む。
二人はフリィアとリルメス嬢が心底大好きだ。
ルダクルはリルメスを崇拝するほどで、
メアラはフリィア嬢に激しくベタベタ触る。
それほどの二人の精神的支柱……
離れるということはそれに依存できなくなる。
何時間だろう。
ケルエタたちが依頼から帰ってくるのは夕方、
まだ時間はあるけどそろそろ決めてほしい。
……ただ急かすわけにもいかない、
だってこんなことを急かすなんて絶対に無理。
本当はもっと甘やかしてあげたいけどさ、
誰もこの役をやらないならウチがやる。
テグは言ってた。
『我が死ねばシルフは一人じゃ。
自由に生きとくれ……』
『……はっ、ここまで長付き合いさせてよく言うよ』
『ホォッホォッ、でも……我の本音じゃ』
……だからウチは好きに生きる。
この二人をテグより強くしてやる。
「……メアラは……メアラは役に立ちたいなの。
メアラはあの二人に救われた。ケルエタ様にも。
だから役に立つような存在になりたいなの……」
長い沈黙を破ったのはメアラだった。
「それがあんたのなりたい者?」
「そうなの……!」
……ルダクルはどうするのかな。
「僕は……リルメス様に幸せになってもらいたい。
たとえ僕が幸せにできなくとも……
ただ……幸せになってほしい」
ルダクルは息を呑み込んで一気に話す。
「僕はダグンドが憎くて仕方ありません。
悪に対して相応の罰を下せるような、
強く立派な魔法使いになりたいです……」
……正直、どっちも綺麗事。
だけど、それが正しい。
この二人はテグと同じ目をしてる……
熱とか覚悟が同じ程度だとは言わないけど、
それでも……ウチはテグに感じていた熱を、
この二人から感じてしまった。
……。
テグは弱者にとっての星だったと思う。
才能もほぼない中であそこまで強くなった。
ウチはあの輝きをもう一度見たい。
「よし、覚悟は決まった? 後戻りはできないよ」
二人はウチに対して頷く。
ウチらはケルエタたちが帰ってくる前に、
王都から離れてハンドラ王国に向かう。
旅路で死ねばそこまでだったってこと。
泥臭く生きるしかない。
それが弱者に唯一与えられた最後の抵抗であって──
最も眩しく輝く方法でもあるから。




