第五十六話 砂漠での依頼 前編
3月22日。
今日、俺たちはギルドでの初依頼を迎える。
「お、ちゃんと時間通りに来てるな?
前いた奴だと寝坊とかもいたからな〜」
朝とだけ言われていたが、
ギルドは基本10時から受付開始なので、
俺たちは9時50分にはギルド前で待っていた。
そしたらガガルさんたち来た時間は10時10分、
礼儀正しい印象は与えられたようだ。
ちなみにシルフさんとメアラにルダクルは、
宿で今は待機してもらってる。
なんせ戦えないからな。
依頼についてくるようには言えない。
「妖精族のあんたは戦わないよな?」
「ただの付き添いです」
俺は戦わないが付き添いだ。
確絶魔法は回復してないけど、
死のリストで危険を予知することはできる。
っていうか、死のリストを見ても最近は、
赤文字……死ぬ運命がほとんどない。
緑文字が長く続いてる。
つまり、ダグンドの追っ手だとか、
想定外の強敵なんかは現れないんだ。
「……ま、それじゃあ早速行くか。
今日の依頼は三件、パッパと行くぞ」
* * *
人生初の依頼はこれだ。
ーーーーーーーー三流依頼ーーーーーーーー
推奨等級 準上級
報酬金 金貨25枚 提供ソラニテ王国
依頼者 ソラニテ王国・防衛軍
場所 ダウラ砂漠北部 緑砂の丘
内容
ソラニテ王国防衛軍より依頼。
ダウラ砂漠北部の領土付近にて、
砂暴知族の群れを視認、討伐を要請する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
三流の依頼でこの量の金が手に入るのか……
と言ってもこのパーティーは24人メンバーがいる。
この多く見える金貨も全員で分ければ少ないな。
二流や一流になった時、
この報酬がどれくらいになるか気になる。
「あんたらは別大陸からここに来たんだろ?
ってなるとダウラ砂漠は初めてか」
「ダウラ砂漠って暑いんですか?」
馬車で目的地に向かう中、
俺たちはリーダーのガガルさんと共に、
少しばかり雑談を交わすことになった。
「そりゃ暑いぜフリィア。砂漠だからな」
ガガルさんはすでに俺たちの名前を覚えてる。
「あたし知ってるわよ。砂漠は夜が寒いんでしょ!」
「大正解だルメス。砂漠は夜がクソ寒い。
基本的に俺たちは日が暮れる前に依頼を全てこなす」
砂漠の夜が寒いのは俺が元いた世界と同じだ。
「過去にあった話で今も語られるやつなんだが、
夜まで砂漠で依頼を受けていたパーティーが、
謎の暴野に襲われて全滅した話が有名でな。
それにはなりたくね〜ってことだ」
砂漠の寒さは別に問題じゃないらしい……
なんだその都市伝説みたいな話は。
「謎の暴野……?」
フリィアちゃんも不思議そうに復唱する。
「ダウラ砂漠に出現する謎の暴野、
なんせ砂漠にも勢力図があってな」
ガガルさんはそう言って語り始めた。
「ダウラ砂漠は苛烈を極める世界有数の超危険地帯。
龍族の縄張りに砂獣族の縄張り……
そして死族の縄張りと三勢力ある。
龍族は言わずもがな最強の種族、
砂獣族は準天級のケケラがいる。
そして死族は天級兇徒四つ巴の一角。
南を支配する壊刀のタルタが頂点に君臨……
てまあ、これだけでも脅威的だわな」
そこに一般の暴野だとか兇徒も混ざれば、
そりゃそう呼ばれるのは分かる……
「一流パーティーでさえ砂漠の南部には近づかない。
それに加えてそいつらの縄張り以外じゃ謎の暴野、
日が出てる時以外の砂漠なんてのは地獄だぜ?」
謎の暴野については深く話してくれなかった。
情報がないのか、それとも話せない理由があるのか。
まあ、俺の方で少し探ってみよう。
【全知脳発動】
【砂漠に出現する謎の暴野について
30年ほど前から目撃される謎の暴野、
種族などは不明であるが推測では竜族とされている。
ダウラ砂漠の夜間にのみ出現し、
主に砂漠北部などで目撃されている】
……全知脳でも深く知れない。
ということはただ単純に情報がないのか。
とまあ、話してる間に俺たちは依頼の目的地。
ダウラ砂漠北部、緑砂の丘へと到着した。
「暑いわね……」
「……暑いね」
「さてさて、砂暴知族の群れはどこら辺だ?」
緑砂の丘。
ソラニテ王国が砂漠との境目に持つ天然の要塞。
この丘があるから緑地に砂漠の暴野たちが、
入ってきて暴れることはないんだ。
「ガガル、魔力探知的に俺たちから見て北側、
砂漠に入ってすぐに大量の魔力が集まってる」
「メグバが言うならそこだな」
ガガルさんの右腕的存在のメグバさん。
天使族で天使の輪っかが頭の上にあって、
種族特有の金の瞳に白い肌と白い髪の毛。
まさに天使って感じのクールな男性魔法使いだ。
「それとガガル。砂暴知族相手、群れとなると、
砂暴大族もいるはずだ。 作戦とかあるのか?」
ガガルさんとメグバさんは名前で呼び合う関係、
長い付き合いなんだろう。
「んー。新人の力もみたいしな……
ただもし砂知暴族がいたらどうするか」
一つ整理しよう。
さっきから出てきてる──
砂暴知族・砂暴大族・砂知暴族ってのは、
ゴブリン・オーガ・トロールの砂漠バージョン。
つまり通常個体ってよりはこいつらは亜種個体。
砂暴知族は狡猾でよく群れ、
群れの長として砂暴大族だとか砂知暴族を据える。
加えて砂暴大族の最低等級は準上級。
もし砂知暴族がいた場合はこの依頼は二流案件だ。
砂知暴族の最低等級は上級。
このパーティーの戦力的に敗北はないだろうが、
場合によってはこっちも本気で戦う必要がある。
「リーダーぁ。もうどうでもよくな〜い?
作戦とかやらずに適当ですよ! ネ!」
ぬるっと出てきたのは小柄な髪の長い女の子。
「ホクホト……それアリだなぁ!」
「ですよネ〜! おいらもそう思いますぅ〜」
一人称がおいらの女の子……
ホクホトさんは鬼族だ。
黒い肌に黒い角を二本持つホルホトさんは、
真っ黒な髪の毛が所々跳ねてる。
「……新人さんたち、うちはこんなんだから、
嫌だったらすまないね」
メグバさんがこっちに振り返ってそう言ってくれた。
クールだが優しい人だ。ただ俺的にはこの雰囲気のままで全然良い。明るい方が何事も楽しいからな。
「よぉし! 作戦はなし!
群れ壊滅させて次の依頼とっとと行くぞ!!」
ガガルさんのその言葉にパーティーメンバーらは、
声をあげて了承の意を示した。
リルメスやフリィアちゃんは楽しそうだ。
新鮮なこの感じにワクワクしてるんだろう。
* * *
さて事前知識として整理するが、
砂暴知族は基本的に地上に巣を作る。
と言っても巨大な岩などを中心に集落を形成し、
長が常に中心から命令を下す存在となる。
「ん。見えたぞガガル」
「……デカくね?」
「デッカいですネ〜」
見えた集落は大規模だった。
「グラバ、顔が怖いわよ?」
そう言ってリルメスがグラバの顔を見上げて言うと、
グラバさんは確かに真剣な顔で集落を見つめていた。
「……あの集落、英級クラスがいます」
「えっ……じゃ、今すぐ伝えなきゃ……」
「いえ、フリィア様その必要はございません。
こちらの実力を隠す必要もないでしょう」
え? グラバさんそれでいいのか?
だって俺たちが実力を隠す理由は、
何者か悟られないようにするためだろ?
「グラバさん。なぜそう思ったんです?」
「おそらくですが……ダグンド以外の刺客がいます。
砂漠に入ってから常にこちらを見ている存在がいる」
!? マジかよ……でも死のリストは……
「攻撃して来ないということはただの監視。
こちらの正体自体はバレてますし……
今すぐにでもこの大陸を離れたい」
……でも離れようにも金が全く足りないしな。
デエス帝国に行くにはガシリア大陸のオドバ港から、
船一つで星焉大陸に渡って歩いていくしかない。
ハンドラ王国のハルグーラ港からガシリア大陸に行くのは、金額としてはそう高くはないが──
ガシリア大陸で真っ先に滞在することになる、
ヴァルデ公国とヴァルド王国にはギルドがない。
そんでその国々を抜けるには2ヶ月程度はかかる。
つまり、2ヶ月分の生活費を貯めてからじゃないと、
大陸を離れたところで無一文……詰みなんだ。
「二流の依頼であればこちらに入る報酬も増える。
早々にガガルパーティーを二流にし、
最速でこの大陸を去りましょう」
なるほどそういうことか……
グラバさんはそれを踏まえてそう言ったのか。
「敵の強さも依頼とは大きく異なる内容、
特別報酬くらいは貰えるでしょうね」
……不安はあるが死のリストに赤文字はない。
それにリルメスやフリィアちゃんが強くなる良い機会でもある……ここは一つ戦ってもらうか。
「メグバ。魔法使いたちで見張りをぶち抜け」
「了解」
メグバさん率いるパーティーの魔法使いたちは、
一斉に杖を手に持ち先端に魔法陣を展開。
遠距離からの攻撃なので完全詠唱。
三流依頼もとい、二流依頼。
ついに依頼開始だ。




