第五十話 巨悪四つ巴の四天王
* *【ケルエタ視点】* *
緑峰大陸南部。
ダグンド王国が支配する地域で温暖な気候だ。
山脈を洞窟経由で抜けた俺たちは、
麓を伝いながら最南部に位置する港に向かう。
ダグンド王国最南部の地域でありながら、
唯一の港、ユグレタ港。
「グラバさん。賊船ってユグレタ港に堂々と泊まるってわけじゃないですよね。どっか賊船が止まる場所とかあるんですか?」
兇徒などが使用する賊船。
全知脳で情報を得ても良いが、
ここは少しコミュニケーションを取ろう。
「賊船は基本港から離れた場所に泊まります。
ダグンドでしたら……おそらく東の地域、
領土外にある海辺に船が泊まってるでしょうね」
賊船ってのは兇徒が使う船だが、
こうも情報がバレてるなら一掃されないのか?
「賊船って言わば兇徒の移動手段ですよね?
位置の予想ができるなら一掃できるはずでは?」
俺は疑問をそのままグラバさんに投げた。
「そうです。ので兇徒も工夫してますよ。
毎回泊まる場所は変わり、水魔法と風魔法を合わせ、
霧を大量に散布してから上陸するのです」
はーなるほど……だから成り立ってんのね。
「意外にあいつらも賢いんですね……」
「一部の方がやり始めた方法というだけですよ」
異世界に転生して5年も経つが、
まだ俺の頭がファンタジー脳になれてない。
戦いの日々に身を置いてたら脳もこの世界に染まって、考え方も今より大きく変わってたのだろうか。
「……しかしケルエタ様なら知っている情報では?」
なんてことをグラバさんに言われた。
……そう言えば俺はグラバさんに、
全知脳のことをすでに伝えていたんだ。
全知脳がある奴から聞かれたら、
そりゃそう言いたくなるよな。
「いやぁ、そのぉちょっと話したかっただけですよ」
「……はぁ、しっかりしてくださいケルエタ様」
注意されてしまった。
少し悪いことをグラバさんにしちゃったな……
* * *
あれからも日が昇ってる頃は歩き、
夜は野宿して港へと歩み続けた。
俺たちは悪いことなんてしてないのに兇徒扱い、
コソコソしながら歩くってのも癪に障るが、
今は我慢我慢……
それにしてもダグンドは暖かいな。
南部は気温が高めなのは知ってたが、
いざこうして歩いてみると印象が変わる。
「……ね、グラバあれなに?」
平原の細い道を歩く中で、
リルメスが一つの掲示板のようなものを指差した。
「……兇悪徒についての情報板ですよ」
【全知脳発動】
兇悪徒についての情報……?
【兇悪徒。
等級が俊級を超える兇徒を表す総称】
重要指名手配犯みたいな感じか、
触れる機会がなかったから初めて知れたな。
【全知脳発動】
……天級の兇徒について気になった。
相変わらず、気になると発動する全知脳は便利だな。
【天級兇徒四名について。
現存する天級兇徒は四名。
全員が元魔王軍の幹部であるが今は独立し、
各々の軍勢を作り上げている】
「天級兇徒なども載ってますが、
少し見ていきましょうか?」
「見ましょ、あたし気になるわ」
グラバさんがそう言えばリルメスは掲示板に向かって走り、書いてある内容をじっくりと読み始めた。
【以下四名、天級兇徒。
創造のエロラス・ラグンドッド
孤独のニュクス・マユレミア
壊刀のタルタ・ロストガル
王幼のエレボ・ストランメ】
「デッカい文字が一番強いですなの?」
メアラが指差して言うと、
シルフさんが後ろから話し始める。
「デカい文字で書かれた四個の名前は、
東西南北に分かれて″四つ巴″の関係にある勢力の、
トップ……まあ主ってわけ、ちょー強いよ」
シルフさんが言う通り、こいつらに同盟はない。
「天級戦士もいますけど、
あの人たちでも負けるんですか?」
ルダクルがこちら側の──
三名の天級と兇徒の四名の天級。
戦ったらどっちが勝つのかと聞いてきた。
「一対一の戦いであれば、
天級戦士のアンジュ様やデモン様が勝ちます。
ですが、もし天級兇徒が同盟を組み、
一人に対して全勢力をぶつければ──
その時敗北するのは天級戦士でしょう」
天級兇徒四人で天級戦士一人以上の力……
まあ、そもそも天級兇徒とついてるが、
それはあくまで奴らが暴れた時の被害規模の指標。
完全に実力で見られている戦士とは等級が別意味だ。
だとしても……かなり強いな。
「グラバさん。天級兇徒は討伐されないんですか?」
「討伐作戦自体何度も行われてます……
過去には天級であるアンジュ様も参加しましたが、
それでも奴らを仕留めるに至らなかった」
それはちょっと驚きだ。
デエス帝国建国者のアンジュ、
魔法の生みの親であって世界最強の魔法使い。
そんな人が討伐に赴いても成せなかったのか……
四名の天級兇徒、異名の付き方からして魔族。
確実に固有魔法を有してるはずだ。
異名が固有魔法を示してるならば、
創造だとか強すぎる……どんな種族だよ。
「グラバ、その四人はどこにいるの?」
リルメスが振り向いてグラバさんに聞いた。
「分かりません。姿を現すのは非常に稀なのです……
それ故に戦士が豊富に揃っている時代であっても、
攻めようにも攻めれないことが多いのです」
この感じからして討伐作戦は世界を騒がす一大事。
巨悪が滅ぶかもしれない状況になれば、
そりゃみんな心が踊り始めるよな。
軍勢を持つ四名の天級兇徒。
各地にその軍所属の兇徒は多いんだろう。
ただまあ……生涯関わらないことを望むよ。
そいつらを倒すなんて目標はない……
俺たちは正義のヒーローじゃないんだからな。
* * *
さて、めちゃくちゃに歩きまくって1ヶ月。
もちろんトラブルはなかった。
そもそも限界まで最善を考え尽くして行動すれば、
こうやってなんもトラブルが起きないのは必然か。
少し刺激が足りない気もするが……
いやいや、危ないことなんてない方がいい。
「ケルエタ様、霧が出てきましたね」
すでに俺たちはユグレタ港を通り過ぎてる。
そして賊船がいることを表す霧のお出ましだ。
「みんな、慎重に進みましょう」
「え、ケルエ──」
霧が出れば賊船が現れる。
それは結構周知の知識でもある。
そのせいか、パトロールみたいなことをする戦士、
言わばダグンドの兵士が彷徨いてるはずだ。
できるだけ見つかりたくはない……
俺たちの目的は賊船の奪取。
隠密行動でこっそり盗むんだ。
「おい、貴様らそこでなにをしている!!」
「なぁ……!?」
俺は思わず声を上げてしまった。
霧に隠れながらも見える声をかけてきた者の姿、
それは間違いなくダグンド兵だった。
「な、なんでバレたんでしょう?」
俺がそう聞けば全員の視線が集まる。
「……いや、ケルエタが光ってるからよ!!」
「そうですよケルエタさん……言ったのに……」
あ。
「い、いやシルフさんだって!」
「あたしは光消すことだって出来るよ」
はぁ?
「ごちゃごちゃと……大人しくこっちへ来い!」
なんだよ光って消せんの?
……えー。じゃあ俺が戦犯か。
「仕方ないですね……」
グラバさんそんな苦笑いしないで……
えー。うわ。この身体イヤ〜……
「そこのダグンド兵の方」
「なんだ貴様……まさか抵抗するつも──」
「先を急いでますので」
その瞬間、グラバさんが一瞬で姿を消して、
ダグンド兵の首元に手刀を入れると、
たった一発で気絶させた。
「……やはりバレましたね」
グラバさんがそう言った瞬間、
霧の中から大量の魔法がこっちに飛んでくる。
「な、なんですなの!?」
「空結」
メアラがそう驚いてる間に、
グラバさんが一瞬でまたこっちに戻ってきて、
その大量の魔法を全て空間魔法で防いでくれた。
「……兇徒に見つかりました。
フリィア様、お嬢様はお任せいたします」
「わ、わたし? は、はい!」
グラバさんはそう言って霧の奥の方へと姿を消し、
その場には俺たちだけが残ることとなった。
「……これここで待機ですかね?」
「多分……そうじゃないかな?」
ルダクルの言葉にそう返すフリィアちゃん。
グラバさんがここに放置する時点で安全ではある。
というよりフリィアちゃんを信頼してるのか?
「とりあえず……ここで辺りに警戒しながら待機、
グラバさんが帰ってくるのを待っておきましょう」
俺のその言葉に皆は頷いてくれた。
グラバさん自体は大丈夫だろう。
だってグラバさんだ。負けるわけない。
そんなことを考えながら待つ中、
たまにだが、遠くから叫び声が聞こえた気がする。
これは俺の空耳だろうか……
まあ、空耳を聞きながらも待っていれば、
グラバさんが帰ってきた。
「船が確保できました。行きましょう」
その言葉が表すことつまり、
兇徒たちは全員ボコされたということ。
常々感じることなんだが……
この人がいなきゃ俺は何回詰んでるんだ?
……ま、感謝は常にしておこう。
それよりもついにか。
俺たちはついに大陸脱出の王手を打つことに成功。
あとは船に乗って逃げるだけだ。
……ちょっと待て。
船を操縦できる人はここにいるのか?




