97話 これ、師匠からジェイクさん宛に預かってる手紙っス
バタバタと足音が響く。
(騒がしいな。もう少し…静かにして欲しいものだ)
部屋のドアが開かれる。
「ジェイクさん!」
懐かしい声を聞いたジェイクはゆっくりと目を開けた。しばらくぶりの顔だ。
「ラッフェルか。どうしたんだ?」
ラッフェルの顔は泣き笑いの様な表情だった。
「俺、俺……ごめんなさいっス。」
「ん? どう言う事だ?」
「俺、ジェイクさんの事、ちゃんと理解してなかったっス」
「……話が、見えないな」
「その……ジェイクさんに『復讐はいけない』って言ったのに……いざ同じ立場になるとそんな事思えなかったっス。俺、ジェイクさんの事考えられてなかったっス。なので、ごめんなさいっス」
「ああ、フィリーの事か。俺の方こそ、すまなかったな」
ひょっこりフィリーが顔を出した。少し息が上がっている。
「フィリー。あの時はすまなかったな。怖い思いをさせて」
「大丈夫ですよ。あの時はちょっとびっくりしましたけど」
笑ってジェイクを許すフィリー。肝が据わっていると言うか、懐が深いと言うべきか。
「起きてくれて良かったっス。このまま起きないとどうしようって思ってたっス」
「そう、だな。七日間だったか? 俺が眠っていたのは」
「っスね。ジェイクさんが倒れた後、大変だったんスよ。ジェイクさんは大怪我で気絶してるし、みんなボロボロだし、変な魔獣にも襲われるし」
「変な魔獣?」
「っス! 見た目は小さいスライムみたいな奴っスね。いきなりライクさんに襲いかかってきて大変だったっス」
「そうか。それでライクは無事だったのか? それにヒッカは?」
「ライクさんは襲われたところが痣になってるっスね。それから頭痛がしてて大変そうっス。ヒッカさんの魔法でも回復しなくて……」
「何だと?」
ジェイクは嫌な予感がした。あの場所で思い当たるスライム状の魔獣と言えば、ギースに寄生していた召喚獣だ。倒し損なったと言う事だろうか。
「それで? その魔獣はどうなった?」
「すぐにヒッカさんが倒してくれたっス。」
「死骸はまだあの場所にあるのか?」
「燃やしましたんで消し炭っスね。」
ラッフェルが剣を振り下ろす仕草をする。フレイムソードで倒したと言う事が言いたいのだろう。消し炭になっていれば、もう復活はしないはずだ。ひとまずジェイクの考えている懸念は解決した。
「そうか。よかっ……ゴフッ! ゴフッ!」
不意に咳き込むジェイク。しばらくぶりに起き上がったので体が驚いているのだろう。無理もない。
「お水、持ってきますね」
フィリーがそう言うと扉から消えていった。
「頼むぜ。で、師匠なんスけど、ライクさんを連れて今はアーデシア大陸に渡ってるっス。
「アーデシアに?」
「っス。あの後、ライクさんの様子がおかしくて……そのスライムから呪術を受けたかもしれないって町長さんが言ってたっス。で、アーデシアなら診てくれる人もいるだろうって」
「そうか」
「それに、別の理由もあるみたいっス」
「別の理由?」
「何かよく分からないんスけど、師匠が言ってたっス」
「さっぱり分からんな」
ジェイクは額に右手を当てた。
「ん?」
右手は……何の異常もない。
(あの時……)
ギースとの戦い、ジェイクは限界を超えていた。確かその時にジェイクの炎は業火となり、右手は炭化している部分もあったほどだった。
右手を握り、開く。ぐーパーぐーぱーと繰り返すも、問題なく動く。
(あれは気のせいだったのか?)
ジェイクは改めて自分の状態を確認した。全身の傷はかなり癒えていた。火傷の部分も残っているが、回復に向かっている。
ただ、左腕に巻かれた包帯は上腕部までに留まっていた。前腕部はとうに失っていたためだ。また、包帯が清潔な状態に保たれているところを見ると、小まめに取り替えてくれているのだろう。
「ふう」
色んな思いが込み上げる。無意識に胸元に手を当てるが、胸元のペンダントは……ない。
何かを探す様子のジェイクにラッフェルが声をかける。
「ジェイクさん、どうしたんスか?」
「俺のペンダントを知らないか? これくらいのサイズの物だ」
ジェイクが指で輪っかを作る。
「ああ、魔道具の事っスね? それならフィリーが持ってるっスよ」
「ジェイクさん。お水を持ってきました」
ちょうどフィリーが水を持ってきた。
「ああ、すまない。フィリー、俺のペンダントはどこだ?」
「これですね。お借りしてたのでお返しします。後で使うのでまた貸してもらえますか?」
「後で使う?」
「はい。ジェイクさんの治療に使います」
「治療? どう言う事だ?」
ジェイクは混乱している。自分の意識がなかったこの数日間、一体どれだけのことが起こっていたのだろうか。
「ここには今、ヒッカさんの魔法が込められてます」
「そんなばかな! ペンダントを!」
半ば強引にペンダントを受け取り、自らの首にかける。ジェイクは魔力を高めた。
大きく深呼吸する。ペンダントにはすでに十分に魔力が込められていた。
「……」
左手に魔力を集中させるが、何も起こらない。呆然と立ち尽くすジェイク。
「どう、しました?」
恐る恐る尋ねるフィリー。
「シルフィードはどうした!?」
怖い顔でフィリーの肩に手を置くジェイク。
「いっ、痛いです。ジェイクさん」
「ジェイクさん、落ち着いてくださいっス!」
ラッフェルが止めに入り、ジェイクは我に帰った。
「…すまない。少し混乱していた」
素直に手を離すジェイク。そんなジェイクにラッフェルは手紙を差し出した。
「これ、師匠からジェイクさん宛に預かってる手紙っス」
「手紙?」
「俺たちも師匠から説明は受けたんスけど、手紙でも説明するって書いてました」
ジェイクはその手紙を受け取った。
(この数日間、何があったんだ?)
少し震える手で手紙を読み始めた。
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