75話 一体何が…、あったんですか?
タイトルをちょっと修正しました。
主人公像が伝われば良いなって思ってます。
これからもよろしくお願いします!
「ふはは。まいったまいった!」
先生は心底愉快そうに笑った。
「正直、もはや神頼みするしかない状況だった。神でも何でもいい。何とかアーシェを助けて欲しい。そう願っていたがまさか本当に現れてくれるとは。ヒッカ先生はまさに私たちにとってもヒーローだ。いや〜愉快愉快。」
先生はそう言って膝をうった。
「先生だなんてそんな。俺たちは自分たちでできることをしたまでですよ。」
ヒッカはゆっくりとそう返した。確かに今回はみんなで連携した結果、上手く対処することができた。
アーシェの治療中、ヒッカがぶっ倒れた後はちょっとした騒ぎだった。アーシェの傷も全ては癒えていなかったのだが、フィリーたちの回復魔法では効果が薄くヒッカの復帰が急務だったからだ。
一般的に回復魔法は自己治癒能力を強化するものが多い。フィリーやライクが扱うのもその系統だ。(フィリーはそこに魔力も微回復させることができると言う特殊効果が合わさってはいるが、)本質的には被術者の生命力の限界が回復魔法の限界となることが多い。
一方のヒッカが発動した治癒魔法は、被術者の力ではなく外部から魔法的な力で治療すると言うものだ。そのため、一般的な回復魔法ではできないことも対処可能となることが多い。
具体的には、今回のように失われた皮膚や組織の再生、身体機能の回復がそれにあたる。ただ、治療する範囲や難度に比例して魔力消費も大きいものとなる。ヒッカが泉の水を持って来たのは暫定的な対処法となる。ポーションの原材料になるほどのマナの加護に満ちた水。それによって、いわばヒッカの発動魔法をブーストさせたと言うことだ。
なお、ポーションは自己治癒能力を強化して回復するものであるため、広義では回復魔法の使い捨て魔道具とも言える。
結局、ヒッカはジェイクのポーションで復活した。泉の水が無い状態ではヒッカの負担もかなり高く、治療が難航することが想像できた。その一方でアーシェの容体も山を超えたため、アーシェの治療にはラッフェルの到着を待って行われた。
その間、ヒッカはフィリーに魔力回復してもらいつつ、先生からの話を聞いていた。普段から町人の健康相談に乗り、場合によっては治療もしていたこと。博識で町の子どもたちに勉強を教えていることから、いつの間にか皆にそう呼ばれていた。だからあんなに広い広間があったんだなと、ヒッカは勝手に納得した。
今回の襲撃で多数の町人が被害にあった。町人の個々人の魔法では対処が難しい怪我を負うものも多く、藁にもすがる想いで先生のところに尋ねて来たとのことだった。
そうこうしている間に、ラッフェルが樽や桶に大量に泉の水を汲んできた。その後のヒッカは、目の回る勢いで町人の治療にあたった。だが他の怪我人は誰一人、われ先に治療するようにとは言わなかった。それどころかアーシェを最優先にして欲しいと頼み込んできたほどだ。
「お願いします!僕はいいんでお姉ちゃんを治してあげてください!」
そう叫ぶのは、目を真っ赤にした少年だった。彼はアーシェに助けられていたのだった。膝こそ擦りむいてはいるものの、比較的軽症なのはアーシェのお陰だったのだろう。
「大丈夫さ。お姉ちゃんも君も、俺たちが必ず治療するから。」
ヒッカはそう言って、優しく少年の肩に手を置いた。
ヒッカがアーシェの怪我を治療すると、アーシェは目に涙を浮かべて喜んだ。全身の大火傷に骨折、生きていたのが不思議なくらいの大怪我だった。それでもヒッカたちの尽力もあり、アーシェの傷は完全に再生・治癒された。
回復したその姿を見た町長の喜びようも、言葉では表すことができないほどだった。
「改めて、本日の態度をお詫びしたい。申し訳ない。それと町を代表して感謝の言葉も伝えたい。ありがとう。私らだけでは正直どうにもならなかった。本当にありがとう。」
そう言うのは町長だ。昼間に厳しい態度で接して来た老翁だ。先生から事情を聞いた町長が、ヒッカたちを町長の家に招待したのだ。そこには当然先生と助手も同席している。
「どうにか治療できてよかったです。」
「その若さであんな魔法が使えるだなんて…、普段どんなことをしてるんですかな?」
「どんなこと…ですか。」
ヒッカは言葉に詰まった。もちろん勉強や特訓はしている。だが、今日の魔法は無意識的に使っていたものだ。『使えてしまった』と表現するのがより正しいかもしれない。
「普段は勉強と特訓ですね。旅に出る前は両親と色々特訓していました。」
「ほう。それはそれは。君の両親も先生だったりするのかね?」
そこでヒッカは素直に両親のことを話した。
「それはそれは。何とも素晴らしいご両親ですな。私も勉強の日々ですが、これが実を結ぶのは難しいと痛感しきりで。」
先生は愉快そうにグラスを煽った。
そして食事会もお開きとなり、ヒッカたちは用意された宿に向かった。その夜道。
「美味かったっスね。俺、もうこれ以上入んないっスよ!」
ラッフェルはご満悦な表情でお腹をポンと叩く。いくら食べ盛りでも、その体のどこに入るんだ?と言うくらいに食べていた。
「本当に美味しかったね!あのデザートなんて言うんだろ?」
ライクはデザートを思い出している様だ。その横で…。
「ジェイクさん。」
ヒッカはジェイクに話しかけていた。昼間の取り乱した姿は、どう見ても普通ではなかった。
「何だ?」
「昼間のことが聞きたくて…。」
「…。」
「仇ってどう言うことなんですか?それにアーシェさんの容体を見た時もすごく動揺してた気がして…。」
「…。」
「一体何が…、あったんですか?」
「…。」
ジェイクは口を閉ざしたままだ。
「あの…。」
「…。」
「ごめんなさい。変なことを聞いて。忘れてください。」
ヒッカは笑って誤魔化そうとした。
「そうだな。」
「?」
「あんな失態を見せてしまった以上、話さない訳には行かないだろうな…。」
そう語るジェイクの表情は無機質なものだった。
そしてヒッカたちは、ジェイクの旅の目的と過去を知ることになる。
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