70話 おじさんたち強いの?
遠くに見える町の輪郭が徐々に鮮明になっていく。
同時にヒッカの予感はやがて確信となった。
(きっとここがオーズィエルの町だな。それにしても一体何があったんだ?身内での紛争?)
ヒッカは上空からオーズィエルの町を見ていた。破壊された露店や荒れた道、焦げ跡の目立つ家の壁、暗い表情の人々。
(…。)
何故ヒッカが空にいるのかは、数分前に話が戻る。
ー数分前ー
「あとどれくらいで着くんスかね?」
何の気なしにラッフェルはジェイクに尋ねた。
「さあな。地図上ではすぐ近くだからそろそろだろう。」
ぶっきらぼうに答えるジェイク。
「俺が見てきましょうか?近くだったらすぐ戻れると思いますし。」
「そうしてくれると助かる。だが無理はするなよ?俺たちがハントした魔獣の他にもまだいるかもしれない。もし魔獣に出くわしても、くれぐれも一人でハントしよう等とは考えないでくれ。」
「分かりました。」
そう返事するやいなや、ヒッカは立ち上がった。
「俺も…。」
「じゃ、みんな行ってくるね。ラッフェル、魔獣が出たらみんなを頼んだよ。」
ヒッカはラッフェルが「俺もついて行くっス!」と、言おうとしたであろう言葉に被せた。ラッフェルとしては出鼻を挫かれた様相だ。それでもヒッカから頼られていると感じる言葉をかけられたことが嬉しかったようだ。
「了解っス!」
「ん。」
ヒッカは空に舞い上がった。そして町があるとされる方面に向かって飛翔していたところ、意外にも町はすぐに見つかった。
(あれかな?これは思ったより近くまで来てるな。これなら今日中には…。ん?)
ヒッカはジェイクたちの元に戻ろうと減速し始めていた。町の輪郭がゆっくりはっきりと見えてくる。だが町の全貌が見え始めたところ、同時に違和感を覚えたのだ。
「まさか…。あれが…オーズィエルの町?」
ーー
町の上空に漂うヒッカは周囲を警戒した。空に魔獣の姿はない。地表もヒッカが見える範囲では怪しい影は見当たらなかった。
(…。)
ヒッカは静かに町から離れ、ゆっくりと地上に着陸した。
(本当に静かだ…。だけどあの町の様子はただ事ではない。もしかしてライクが言っていたことと何か関係があるのかな?)
いずれにせよ、まだ状況を理解するまでの情報が少ない。ヒッカは静かに魔力を高め、大地の声を聞いた。
(少なくともこの近くに魔獣はいなさそうだ。)
立ち上がったヒッカは腕組みをしながら天を仰いだ。
(町の様子は気にはなるけど一旦戻るか。ジェイクさんに伝えないと。)
再び空に舞い上がるヒッカ。
(それにしても…。)
どこまでも穏やかな天気。平原で昼寝をするにはもってこいの日和だ。だがその一方で、平穏を破られた人たちがいる。
(…。)
ヒッカは鎮痛な面持ちでジェイクたちの元へ急いだ。
「そんなことが…。」
ヒッカの偵察結果を受けて、ジェイクは眉間に深く皺を刻んだ。いや、今日はいつもと少し違う。無意識に奥歯を噛み締めているような…強い怒りの様な感情。うすら寒い恐怖すら感じるほどだ。
「このまま向かうぞ。各自、いつでも戦える様にしておけ!」
「…!」
怒気のこもったようなそのジェイクの発言にフィリーは少し構えてしまった。それは他のメンバーも同じだった。いつもは騒がしいラッフェルもこの時ばかりは黙って臨戦態勢をとった。
ヒッカも魔力を高めている。だが何故かジェイクの言動に心が乱されてしまう。
(落ち着け…。きっとジェイクさんは疲れてるんだ。)
「ふー。」
わざとらしいくらいに大きく深呼吸をする。(大丈夫さ。きっと。)
オーズィエルの町についたヒッカたちは町の状況把握につとめた。
(…やっぱり町の人たちの表情が暗い。それに何だか視線を感じる。)
「ねえ。もしかして私たち見張られてるの?」
不安げな表情のライク。
「俺もそう思う。旅人が珍しいのかな?」
ヒッカはわざと明るく返事をした。
「待たれよ!」
後ろからしわがれた声が響く。
「お主らは何用でこんな辺境の町に来た?まさかあの悪魔の手下か?」
「俺たちは冒険者だ。訳あって人を探している。我々はあなた方に危害を加えるつもりはない。」
ジェイクは老翁に向き直り、そう答えた。
「…それが本当ならば、早々に立ち去るが良い。わしらは静かに暮らしたいだけじゃ。」
老翁はジェイクを睨みつけている。
「承知した。だがその前に話を聞かせてもらえないか?それに先ほどの悪魔とは?」
「何故お主らにその様なことを?」
「先ほども話したが我々は冒険者だ。主に魔獣の討伐を生業としている。」
そう言ってジェイクは冒険者ライセンスを取り出した。
「…これでいくらか信用してもらえないか?」
「くどい。わしらが語ることは何もない。早くここから立ち去ってくれ。」
「…。」
(あのお爺さん、とりつく島もない感じだな…。)
「もう一度頼む。どうか…」
ジェイクが言い終わるのを待たずに老翁は背中を向けた。
(くっ。)
ジェイクは唇を噛んだ。
(ここで力づくで聞き出したところで本当のことが聞けないかもしれん。それにそんなことをすれば…奴と同類になってしまう…!)
「ジェイクさん…。師匠…。」
ラッフェルが弱気な声をかけてきた。
「ラッフェル…。」
ヒッカとてラッフェルにかける言葉は見つからなかった。
ヒッカたちは老翁の背中を黙って見送っていた。
が…。
「おじさんたち強いの?」
一人の少年が声を張り上げた。先ほどの老翁と共に、ことの成り行きを見ていた町人の子どもだろう。
「静かにおし!」
と、母親らしき人物から叱られ口を塞がれそうになっている。それでも言葉を続けた。
「ねえ!本当に強いの!?」
(俺はまだそこまで高齢ではないのだがな。)
と、若干のショックを受けながらもジェイクは高々と答えた。
「ああ!俺たちは強いぞ!」
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