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52話 その方は勇者だ!

宿の自室に戻ったヒッカとラッフェル。寝る準備をし、それぞれにベッドに入った。お日様の匂いのする毛布に包まれていると、一日の疲れがどっと出てきた気がする。



「師匠。」

「ん?」

「早めに帰ってきて欲しいっス。お気をつけて。」

「ありがとう。だけど急に改まってどうしたんだ?」

「何となくっスけど、そう言いたくなったっス。」

恥ずかしそうにラッフェルが言う。

「大丈夫さ。無茶はしない。そうだ。これを預けておくから。合間を見てコレで練習するのもいいぜ。」

そう言ってヒッカはバスターソードをラッフェルに手渡した。

「え!?重っ!って、武器を置いていくんスか?何かあったらどうするんスか?」

「今回は急ぎで行くからさ。なるべく身軽で行こうと思って。それに基本的にはずっと飛んでることになるから、馬車や徒歩よりかは魔獣に出くわす確率もマシだと思う。」

「それにしても…。」

「いざとなれば、得意の魔法で切り抜けるさ。それにこないだの戦いで出してた土属性が使えるようになったから、戦い方の幅も増えてるんだ。」

「地面からバゴーン!ってヤツですね。もうマスターするなんてさすが師匠っス!」



純粋にヒッカに尊敬の眼差しを向けるラッフェルに対して、ヒッカは少し困惑した。

「マスターした、って言えるかな?使えるようにはなったんだけど、やっぱりどうして使えるようになったのかが分からなくてさ。」

「きっと師匠のご家族から教わったんスよ!師匠の父上や弟さんも土属性を使ってるんスよね?」

「確かに父さんもローグも土属性だけど、二人がアレを使ってることは見たことないな。そもそもローグはまだ魔法習得中だし。」

ヒッカはグランとローグが使っている魔法を思い出していた。

父のローグが得意とするのは面攻撃の魔法だ。土壁を精製し、そのまま相手に土壁を倒すと言うシンプルなものだ。シンプルが故に発動も早く、ある程度離れた距離でも土壁を精製できる射程距離もある。思えば、父も土壁精製の魔法を発動させる際、地面に手を置いていた…気がする。

弟のローグは自己強化魔法がメインだ。グランに教わり、土壁を精製する魔法の練習をしているのは見たことがある。

「やっぱり俺の家族でもあの魔法を使ってる人はいないよ。強いて言うなら父さんの魔法が似ていると言えば似ているかも。」

そう言ってはみたものの、ラッフェルからの返事はなかった。

「すーすー。」

(ラッフェルも疲れてるのか。そりゃあそうだよな。)

ヒッカは部屋の灯りを消した。部屋が暗くなり、光は窓の外からの月明かりだけになった。星が見える。明日も晴れそうだなとヒッカは思った。

「お休み。」

ヒッカは誰となく呟いて眠りに落ちた。



東の空が白む頃、ヒッカは当然のように起きだした。

(うん。今日もいい天気だ。)

ヒッカはラッフェルを起こさないように静かに身支度を済ませる。今回は必要最低限の装備で行くつもりだ。バスターソードは置いていく。

(さすがにナイフくらいは持っていくべきか?いや、戦うくらいなら逃げた方がいいかな。体力や魔力を温存するためにも。)

一人で自問自答するヒッカは天井を仰いだ。

(素手でも何とかなるだろ。行くか!)



宿の外に出た。朝の澄んだ空気が鼻をくすぐる。ヒッカは大きく背伸びをし、軽く準備運動をする。母との特訓前のルーチンだ。

「よし!」

取り出した地図で改めて行き先を確認する。

(大丈夫。俺ならできる。)

ヒッカは全身の魔力を高めながら走り出した。

「【エアライド】!」

そのままの勢いで空に舞い上がった。




「師匠、早く戻ってきてくれないかなぁ。」

馬車でそう愚痴るのはラッフェルだ。

「どうした?俺が師範代になるのは不服か?」

「まさか!そんなことないっス!ただ、いくら師匠でも一人で行くのは心配っス。ジェイクさんは心配じゃないんスか?」

「心配な面は確かにある。だがそれ以上に、あいつなら大丈夫だろうと言う確信がある。」

「そうよ、お兄ちゃん。ヒッカさんは物凄く強いから心配しなくても大丈夫よ。お兄ちゃんならよく知ってるでしょ?」

「そうだけど。」

ラッフェルは朝からずっとソワソワしている。

「余計なことを考えるのは暇だからだ。よし、お前は今から身体強化魔法をなるべく長く維持しろ。魔獣の始末は俺だけでも十分だ。」

「何スかソレ?」

「あらいいんじゃない?すごい冒険者になるんでしょ?だったらできることをしないと!」

ライクがからかい気味に言う。そう言うライクも魔導書を片手に何やら魔力を練っている様子だ。

「っスね!了解っス!」

言うが早く、ラッフェルは魔力を纏った。

「おいおい、そのペースで持つのか?」

「大丈夫っス!」

「ただ闇雲に魔力を纏うだけでなく、安定して自己強化魔法を発動できなくてはならない。それもちゃんと意識するんだな。」

「っとと、そうっスね。」

ラッフェルは思い出したように我に返った。




「うひゃー。生き返るー。」

小川のせせらぎで喉を潤すヒッカ。冷たい水が全身に駆け巡る感じがした。バシャバシャと顔を洗う。

(ふう。いい場所に川があってよかった。このまま少し休むか。)

ヒッカは携帯食を片手に地図を広げてみた。

(今は大体この辺かな?朝早く出た甲斐あったな。このペースなら何とか今日中には着けそうだ。)

ヒッカは一休みした後、再び空に舞い上がった。




ヒッカは少し迷っていた。いや焦っていると表現した方がいいかもしれない。

(まずいな。日が落ちかけている。野宿するなら今のうちにどうにかしないと。)

地図を取り出す。予想ではもうそろそろ着くはずの場所まで来ている。

(できれば今日中に到着して夜の内に情報収集したいんだけどな…。無茶かな?)

ヒッカの出した結論としては、日がさらに落ちるまでに町の影が見えなければ野宿すると言うものだった。



(仕方ない。今のうちに野宿の場所を探すか…。)

ヒッカは高度を上げ、周囲の地形を確認しようとした時だった。

(?あれは…?)

森林の中に見える人工物。明かりがついていることも見える。

「あとちょっとだー!」

ヒッカは元気よく一直線に町に向かった。




(とりあえず宿は確保したから調査がてら、町を見学するか。)

ヒッカが辿り着いたのは、ディムシース地方にあるディムサリーの町だった。大きな建物もあり、人通りも多い賑やかな町だ。

(これは何だろ?)

ヒッカはフレアランドでは中々お目にかかれない木工製品に関心を寄せていた。

(いや、こんな事してる場合じゃない。探さないと!)

食べ歩き用のパンを買い食いしつつ、露天商の品を眺め歩いた。やはりこう言った町を歩くのは楽しい。そして町をあちこち回った結果、どうやら目的のディムデルの木材を置いていそうな店は見つかった。

(もう閉まっちゃってるのか。残念だけど、明日出直すか。)

ヒッカは宿に戻る道すがら、ギルドにも立ち寄ってみた。

(ここは魔獣討伐はそんなに多くないのかな?)

「どうしたボウズ?何か面白いもんでも書いてあったか?」

不意に声をかけられ、振り返ると大男が立っていた。

「魔獣の手配書を見てたんです。俺の住んでるところだと、魔獣が大量に発生してて。それで、この地方だとどうかなって思ったんです。」

「何だ?お前さん若ぇのに冒険者だったりするのかい?」

「はい。駆け出しではありますが。」

ヒッカは冒険者ライセンスを見せた。



「なるほどな。だけど残念だったな。ここには小物しかいねえさ。」

「へえ。平和だといいですね。」

「元から平和だったわけじゃねえ。平和にしてくださった方がいたんだよ。」

「平和にしてくださった方、ですか?」

「おうよ!」

大男は何故か自慢げだ。

「その方は勇者だ!」


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