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47話 そんな簡単にできたら苦労はしないよな

ヒッカは宿のドアを開け、高くジャンプした。

「【エアライド】!」

その体は宙に舞う。みるみる眼下の屋根が小さくなる。

(いつくらい前のことだっけ?)

何せ本を読んだのは、しばらく前のことだ。どんなタイトルの本かは思い出せない。仮にタイトルを思い出せても、どこのページか探さないといけない。

(これは骨が折れるぞ…。急がないと!)

ヒッカはさらに加速してフレアランドに向かった。



「はい。お兄ちゃんはそこに立って。」

「はいよ。頼むぜ!」

「いくね。」

フィリーは静かに目を閉じ、魔力を集中させる。まるで魔力のボールを形作っているようだ。

「えい!【ヒーリングミスト】!」

フィリーの回復魔法を受けたラッフェルは、傷が癒やされていくのを感じた。

「だいぶ良くなったぜ!よーし!!ついでにもう一回頼む!」

「え〜。私だって昨日の今日でまだ疲れてるんだよ。」

「そこを何とか!今日中には完璧にしときたいんだ!」

「何で?」

「実はさ、昨日から身体中が痛くて大変だったんだ。でも師匠の前でそんなとこ見せるのカッコ悪くて我慢してたんだ。ラッキーなことに師匠はいないし、俺も何かしたくて!」

悪戯っぽく笑うラッフェル。

「…呆れた。」

そんなラッフェルとは対照的に、フィリーは能面の様な表情だ。

「フィリーちゃんのことを頼りにしてるからいいんじゃないの?」

「そうかもしれませんが人使いが荒いです。」

「ふふ。そうかもね。」

「はい。」

「そうだ。フィリーちゃん。私がラッフェルくんの回復をしてみよっか?昨日教えてもらったし、さっきも見せてもらったから私もできそうなんだ。」

「え?いいですけど。本当に大丈夫ですか?」

「うん。任せて。ラッフェルくーん。私が回復してあげるよ。」

「え?ライクさんかしてくれるんスか!?あざます!お願いしやっス!」

ラッフェルは肩と足の傷と手のあざを出している。いずれも初期対応はなされているが、まだしばらく回復にはかかりそうだ。

「まだそんなにあったのね…。」

フィリーがため息混じりにつぶやく。フィリーの回復魔法は効果範囲が広く複数人をまとめて回復できる力がある。回復だけでなく、発動した魔法は魔法障壁の効果もあり、魔法的な攻撃の中でも安全に回復することが見込める。ただ、回復範囲が広範囲に及ぶ関係上、魔力のロスも大きくなり結果的に一人当たりの回復量は下がってしまう。フィリーは発動する魔法の効果範囲の調整方法について、まだ練習中だった。

「無事だったからいいじゃん!」

「それだけボロボロなら無事とは言えない気もするけど。ライクさん、お願いしてもいいですか?」

「ええ。じゃあラッフェルくん、まずは肩からいこうか。」

「っス!」

ライクは静かに深呼吸をし、魔力を集中させ始めた。薄水色の魔力が両手の間に輝くのが見える。

「…。」

ライクはラッフェルの肩の傷を、優しく魔力で包み込んだ。

「優しい魔力…。」

フィリーがそう呟く。実際にラッフェルの傷も目に見えて塞がっていく。

「何て言うんスかね?こう…、傷が箒で払われて無くなっていく感じっスかね?」

「…もう少しかな?」

ライクはさらに魔力をラッフェルの肩に当て続ける。その甲斐あって、ラッフェルの肩の傷は回復した。

「肩はこれでいいかな?」

「お!」

肩をぐるぐる回しながらラッフェルが言う。

「全然痛くないっス!痕も綺麗さっぱり塞がってるっス!ライクさんさすがっス!」

「すごいですね。習って二日で習得するなんて驚きました。」

「良かった。じゃ、次も回復しておこうか。」

「っス!次は足の傷を診てほしいっス!」

「いいわよ。」

このペースだとラッフェルの怪我は完治できるだろう。



ジェイクは部屋で沈んだ表情をしていた。

(まさか直したばかりなのに、もうこんな傷だらけになってしまうとは…。)

ジェイクの鎧には真新しい傷がついている。盾も木製素材の部分が焦げている。剣の方はさしたるダメージは無かったが、ライノス種に対する攻め手にも欠けていた。そう言う意味では、ジェイクは剣にも何らかの対応が必要だと考えていた。

(くそっ…。)

ジェイクは剣を机に置き、椅子に腰掛けた。

(ヒッカは本当に解決策を持ってきてくれるのか…?この状況を打破できるものがあれば良いが。)

ジェイクは無意識に深呼吸をしていた。

(…。)

窓の方を目を向ける。カーテンが優しく風に揺れている。

(だが、あの目は嘘をついているようには見えなかった。単なる思いつきではない何かがあるのか?)

窓の外日差しは柔らかい。今日もいい天気になりそうだ。

(賭けさせてもらうぞ。お前に。)

ジェイクは右拳を強く握りしめた。



ヒッカは爆速でフレアランドに到着した。

「ふー。さすがにまあまあ疲れたかな。」

だが、王立図書館は閉まっていた。

(時間が早かったかな。いや、まだ非常時の体制が解除されていないのか。)

ヒッカは自宅に戻ってみることにした。

「ただいま。」

バンとドアを開ける。ローグが少し驚いた顔でヒッカを見るも、直ぐに歓迎の眼差しに変わる。

「お帰り!」

「なあローグ。母さんはいる?」

「母さんなら王宮だよ。まだしばらく忙しいみたい。」

「そうか。父さんは?」

ローグは首を横に振る。

「同じだよ。」

「そうか…。マズイな。」

「どうしたの?」

「調べ物をしたいんだけど、王立図書館には入れないんだ。何か知ってる?」

「王立図書館なら昼間の間は空いてると思うよ。魔獣を警戒してるから朝晩はどこも同じかな。」

「そうか。」

ヒッカは落ち着かなかった。こんなところで足止めを食って、時間をロスする訳にはいかない。が、施設が開いていなければどうしようもない。

「早く開いてくれないかな。」

ヒッカは居ても立っても居られない様子だ。

「もう図書館の前で待ってたら?」

ヒッカが急ぐ様子を知ってか知らずか、そう提案するローグ。

「仕方ない。そうするか。じゃ、行ってくるよ。」

「いってらっしゃい。」

ヒッカは慌ただしく家を出た。



(やっぱり開いてないよなぁ。)

固く閉ざされたドアはびくともしなかった。

(やれやれ。ここで待つか。)

ヒッカは図書館前の階段に腰を下ろした。

(この間から色々と変わったことが多いな。ゴーレムの出現にドラゴンだろ。周りの土なんかを吸収して巨大化する小動物。それにあの新種?たち…。Aランク冒険者のジェイクさんでも手を焼く相手って、何気にやばいやつだよな…。そう考えと今回討伐できたのは運が良かったからかもしれない。)

「あ…。」

不意にヒッカは思い出した。

(そもそも俺ってなんで【大地の賢人】が使えるんだっけ?父さんの魔法ではない、よな…。ローグの使う魔法も身体強化と主に物質生成だから、似てるといえば似てるが。)

ヒッカは地面を撫でる。

(こうして土を掴んで…、投げる!)

「…。だよなぁ。」

放り投げた土は風に舞っていた。

「そんな簡単にできたら苦労はしないよな。」

ヒッカは腕組みをし、晴れ渡る空を仰いだ。

(っと、あの時はどうやったっけ?無我夢中で魔力を集中させて、地面を叩いて、砂を投げつけて…。で、地面が勝手に拳の形になって。)

ヒッカは立ち上がり、今度は真剣に魔力を集中させる。

(…よし。行くぞ!)

魔力を集中させた右掌で地面を叩き、そのまま掴んだ土を前に投げ放った。

「【大地の賢人】!」

たちまち投げた土は拳を象り、やがて砂へと帰った。

(…できた?)

ヒッカはもう一度同じことを試した。今度も土でできた拳が浮かび上がった。

(何だか分からないけど、できた!)

ヒッカは小躍りしながら、感覚を忘れないように夢中で【大地の賢人】を発動させ続けていた。


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