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45話 俺にはどうしても倒さないといけない奴がいる

「ジェイクさん。お待たせしました。」

「まだそう幾らも経ってないだろう。気にするな。」

「それで手合わせってどんなことをするんですか?」

「剣技での勝負だ。何、難しいことはない。単純に剣と剣で打ち合うんだ。相手の剣を弾き飛ばすか、相手を打ち負かせば決着だ。ただし、攻撃魔法は禁止だ。あくまでも剣技による決着をつけるものとする。」

「それって攻撃魔法がだめなら、他の魔法は使っても良いんですか?」

「そうだな。お前は移動魔法も使えたしな。使っても良い魔法は自己強化魔法だけとしよう。」

「分かりました!」

「他には何かあるか?」

「一つだけ…。まだ朝も早いし、場所を変えませんか?俺が連れて行きますから。」

「やれやれ、と言いたいところだがそれも一理あるな。頼む。」

「では!」

言うが早いか、ヒッカはジェイクと共に【エアライド】で瞬く間に駆け抜けた。



町から少し離れた場所に降り立つ二人。

「ここなら大丈夫だろう。」

「ですね。」

「さあ、存分に力を見せてみろ。」

「怪我しても知らないですよ?」

ヒッカが一段と強力な魔力を纏う。

「構わんさ。いざとなれば、フィリーが治療してくれるさ。」

軽く笑うジェイクの纏う魔力も膨れ上がる。

「では…!」

ヒッカの纏う魔力が激しさを増す。

「来い!」

それに呼応するように熱を帯びるジェイクの魔力。

「はぁああああ!」

大地を蹴り、渾身の一太刀を繰り出すヒッカ。ジェイクは待ち構えていたとばかりに、真っ正面からその一撃を受け止める。

ギィイイン!と鈍い金属音が響く。



(すごいやジェイクさん!さすがにこれ一撃では終わらせてはくれないか…!)

ヒッカも剣術の心得はある。元々魔導士を目指しているヒッカは、母のシェリーによる日々の特訓の成果も相まって、魔法の扱いはかなりのものだ。比例して自己強化魔法もそれなりの強度を持つ。そのヒッカの渾身の一撃を止められたのは父のグランくらいだった。場合によっては、大人でも受けきれないほどのスピードと力を持って襲いかかるその剣は正に雷の如き一撃だった。



(ヒッカ。お前と言うやつはつくづくとんでもない奴だな。)

とんでもない一撃が来る。そう構えていたジェイクは咄嗟に後ろに下がり、ヒッカの剣戟をいなしつつ受け止めた。

(だが、これならどうだ!?)

ジェイクは右腕をまるで、鞭のように棒切れを振るうが如く、ヒッカに襲いくる。時に剣同士で受け止め、時にかわし、二人の剣戟はますます白熱したものになっていく。だが…。



(ぐっ!これだけ攻め込んでも剣を打ち払えないか?)

(まずい…。何とか対処できてるけどこのままじゃいつか押し切られる。防御も強いし、生半可な攻撃では全然相手にならない。どうすれば…。)

二人は馬鹿正直にひたすら真正面から打ち合っていた。誰も見ていない試合ではあるが、死力を尽くす二人。さすがに双方に疲れが見える。その最中、ヒッカはある違和感を覚えた。

(ジェイクさんの剣のスピードが落ちてきた?)

一体どれくらい打ち合っていたのだろう。これだけの攻防である。消耗して当然だ。それにジェイクはヒッカのバスターソードに比肩する大剣を片手で振り回している。左手に備えている盾はまるで飾りと言わんばかりだ。最も、その盾でヒッカの一撃を真正面から受けるのは、容易でないことは想像に難くない。

(よし!これで行くぞ!)

ヒッカは一撃の重さ重視から、手数重視の戦いに切り替えた。

(さっきから一撃が軽い気がするな…。)

ヒッカの目は真っ直ぐジェイクに向けられている。

(そうはさせない。その前に何としても…!)

ジェイクはヒッカの一撃が軽くなったことを悟り、左手の盾でいなした。

(なっ!?)

(甘いな。その程度の小細工、俺には通用しない。)

「どうした?こんな物ではないだろう?」

「へへっ。とっておきのを見せてあげますよ!」

(っても、ここからさらに魔力をブーストさせるのはキツイけどね!)

そう思いながらも続け様に剣戟を繰り出すヒッカ。だが、それらはジェイクの盾に阻まれた。

(このままじゃダメだ!まだだ!もっと魔力を…!)

さらに魔力を増大させるヒッカ。魔力の嵐が目に見える様だ。

(お前って奴は…!ヒッカー!)

「やあぁぁぁああ!」

大きく飛び上がり、その勢いのまま剣を叩きつけようとするヒッカ。

「受けて立つさ!」

言葉どおりジェイクは再び真っ向勝負に挑む。圧縮された魔力が一気に解き放たれるように剣を押し出す。

が、ヒッカはそのまま魔力を暴発させ、急降下した。それはまるで、空に壁があるかの様だった。

「何っ!?」

ヒッカの動きを目では追っていたものの、振り抜いたジェイクの剣は軌道修正できずに空を切る。地面に着地したヒッカは眼前のジェイクに突進し剣を振り抜く。

「っ!」

ヒッカの一撃を前に咄嗟に盾を構えたジェイク。バッキィィィン!と盾が弾け飛ぶ。もう左手では受けることはできない。

「まだまだぁー!」

なおも猛追を仕掛けるヒッカ。

「させるかあー!」

ジェイクは器用に体を翻し、カウンターを仕掛ける。

ガン!と大きな音が響く。少し遅れて二つの剣が落ちる。

「…。」

ジェイクは剣を落とし、膝をついて呼吸を整えている。

「はあ、はあ。」

ヒッカは肩で荒く息をしている。剣も地面に突き刺さった状態だった。

「ふう。倒れもせずに立ち続けるとはな…。今回はお前の勝ちだな。」

「はあ、はあ、ふー。それを言うなら俺は先に剣を落としました。ジェイクさんの勝ちですよ。」

「可愛くない奴だな。素直に喜んでいればいいものを…。」

そう言うジェイクは少し晴れやかな顔をしている。

「じゃあ今回は特別に引き分けってことでどうですか。」

「まあいいさ。俺も鍛え直さないとな。」

「鍛え直すって、昔は今より強かったんですか?」

「…。」

「ジェイクさん…?」

「ああ。いや何でもない。こっちの話だ。」

「そうですか。それにしてもすごいですよね。こんな大剣を片手で振り回すだなんて。」

「…まあ、な。」

立ち上がったジェイクは盾を拾いながらぶっきらぼうに答えた。

「その盾もここ数日のハントで破損しちゃいましたね。鎧も傷ついてますし、また修理が必要ですね。」

「…。」

「どうしました?」

「悪戯に時間を使うつもりはない。このままで旅を続ける。」

一段トーンの落ちた声でジェイクが答えた。

「どうしたんですか?また例の炎属性の魔獣が出たら危ないですよ。しっかり修理して俺たちも装備を見直した方がいいんじゃないですか。」

「何とかなるだろう。そのために俺たちはパーティーを組んでいる。」

「そうですが…。今回はどうにかなりましたけど、仮にまた同じ奴らが大量に攻めてきたらなす術ないですよ。」

「そうはならんさ。新種でないことはお前も確認しただろ。」

「それだけじゃないです。ジェイクさんはパワーで押すタイプだと思うんですけど、それ故に攻撃を受けることも増えてきてると思うんですよね。例えば武器も片手剣にしてみるのはどうですか?」

「お前に何故そんなことを言われないといけない?俺は元聖騎士だ。剣の扱いではお前より上だ。」

「…何か上手く言えないけど違和感があるんです。戦闘スタイルもそうだし、元聖騎士を辞めてまで冒険者をしているところも気にかかります。」

「…。」

「それに、ジェイクさんは無茶をしてるって言うか、生き急いでいる。いや死に急いでいる、気がします。」

「…。」

「俺の勘違いならごめんなさい。でも、せっかくパーティーを組んでるんだから俺にも何かできることないかなって…。」

「…。」

「…そろそろ帰りますか。」

「ヒッカ。」

「はい?」

ジェイクは落ち着いたトーンでヒッカに声をかけた。

「確かにお前の言うとおりかもな。」

「…。」

「俺にはどうしても倒さないといけない奴がいる。」

静かに頷くヒッカ。

「そして奴は強い。とてつもなく、な。生半可な武器や魔法では到底太刀打ちできない。それに確証はないが今回の魔獣は、奴が作り出したものかもしれない。」

「どうやってですか?」

「言っただろ。確証はない。俺の勘だ。それに…。」

「それに?」

ジェイクはヒッカに『それ』を見せた。ヒッカは驚き、目を丸くしている。

「これで分かっただろ?」

ヒッカは言葉を失っている。

「この体では剣を満足に振るうことはできない。」


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