44話 ヒッカ、手合わせしないか?
「買取金額は間違いではないのか?」
「はい。見たところ魔力核がかなり消耗していて、これからさらに魔力を取り出すのが現実的に望めなそうなのが理由です。」
「それはそうかもしれないが…。」
「それに、討伐対象の魔獣とのことでしたが、これはただのランドホースです。」
魔力核鑑定士の男は戸棚からもう一つの魔力核を取り出した。
「こっちが程度のいいランドホースの魔力核ですが、形や大きさが非常に似ています。」
「…。」
「それにこの魔力核からは炎属性を感じることができません。おおかた他の冒険者が炎属性で攻撃して、逃げていた先にいたオタクらで討伐したと言うところでしょう。」
(ただのランドホース?新種ではなかった?)
ヒッカはそっとジェイクの顔を伺った。その顔は険しかった。
「さて、色々あったが祝杯と行くぞ!」
ジェイクの掛け声と共に、グラスの鳴る音がする。
結果として魔力核の売却はできたものの、その額は少額と言う結果となった。それでも依頼解決の賞金は手にすることができた。
謎の新種の魔獣討伐と言う依頼も、蓋を開けてみればやや大型のランドホースを相手取ると言う依頼内容だったと言うことだ。
「それにしてもアイツら新種じゃなければ何だったんスかね?」
ラッフェルの疑問はもっともだ。
「何だろうね?火山が噴火してそこにいた魔獣ぜ〜んぶ炎属性になったとか?」
「それだと魔獣だってタダでは済まないと思いますよ?」
「う〜ん。なら、誰かに操られたってのはどうかな??」
「操作系の魔法ってことなら難しいんじゃないかな。あれだけの数を同時に操ってるってことになるし、周りには俺たち以外には誰もいなかった。少なくとも俺たちが気付けないほど遠くにいて操作するってことは、上位の操作魔法の使い手ってことだけど。そう言った類の話は聞かないなぁ。」
「あ!何かの実験で作られたって線はどうスかね?」
「その可能性がまだ現実性はあるかもね。今回の魔獣は全部魔道具の類は身につけてなかったから、何らかの方法で炎属性を司るように改造されたのかもね。」
「え?それだと鑑定士さんが言ってた『炎属性じゃない』って話はどうなるんですか?」
「そこだよね。すると何らかの方法で魔道具に頼らず、炎属性を埋め込んだってことなのかな?」
「話が戻っちゃったね。」
「ん〜。」
ヒッカは腕組みをしたまま天井を仰いだ。
(確かにな。あれだけの威力の炎属性を使えるのなら、魔力核にそれなりに炎属性の反応があっていいはずだ。それに種族が違う魔獣を一律で炎属性を使えるようするなんて、そもそも可能なのか?可能ならどうやって?)
ぐるぐると思考を巡らせたヒッカは皆の前に目線を落とした。
「謎だね。魔力核をそのままに、発動する魔法そのものを強制する魔法なんてあったかな?」
「「「…。」」」
皆は無言でヒッカに視線を向けている。ヒッカは王立図書館で読んだ本について思い返していた。そこには、属性を強制する魔法は無かった…記憶だ。
「ジェイクさんはどう思いますか?」
「お前たちは随分と研究熱心だな。今くらいは良くないか?せっかくの宴会だから楽しむといい。」
ジェイクは明るい感じで答えた。依頼を終えて安堵しているのだろうか。
「そうですけど、何か不吉な感じがしてて。用心しておいた方が良くないですか?」
「ヒッカの言うことは分かる。だが考えたところで答えは出ないだろ?それに俺は怪我人で装備も破損してしまったんだ。今日くらいゆっくりさせてもらいたいものだな。」
そう言うジェイクの左手にあった盾は黒く焼けこげている部分がある。それにその手に巻かれている包帯も随分と汚れていた。他にも鎧の至る所に新しい傷ができていた。さすがにヒッカもそれ以上追求することはできなかった。それならばと、いっそのこと宴会を楽しむモードに舵を切った。
「それもそうですね。よし!俺はこの肉お代わりだ!」
「俺もっス!」
ジェイクと同じくボロボロのラッフェルは肉の塊にかぶりついた。フィリーに回復魔法をかけてもらってはいるものの、全快には至らなかった。フィリーの魔力もとうに尽きており、うつらうつらと船を漕いでいる。やはりあれだけの連戦ともなれば、魔力消費も高まっていたのだろう。ライクは回復魔法は覚えていなかったものの、フィリーから教わっていた回復魔法を使っていた。まだフィリーほどの力はないものの、浅い傷の回復くらいなら任せることができそうだ。ヒッカもさすがに疲労の色は見えるが、まだまだ魔力の底は見えない。風属性の他に炎属性、続いて今度は土属性の魔法である。芸達者もここまで来ると見事である。
ジェイクはそんな四人を見ながら今後のことを考えていた。
(このパーティーなら奴まではどうにか行けるか?問題は俺か…。あの程度の魔獣くらいは斬り伏せることができなければ難しいだろう。厳しいな…。だがこれ以上どうすれば…。)
ジェイクは酒を煽りながら自らの問いに答えを見出そうとしていた。
そしてヒッカは皆と共に舌鼓を打っていた。が、先ほどのジェイクの言葉に少し違和感を覚えていた。確かにジェイクの言ったことはもっともだが、昼間に見せたジェイクのあの表情が忘れられなかった。ただの取り越し苦労であればいいのだが…。
チラっとジェイクの顔を横見する。ジェイクは愉快そうにラッフェルと語り合っていた。
一行の宴も終わり各々は宿の部屋に戻った。ベッドに入り、ヒッカは今日一日を振り返った。何はともあれ、新種と思しき魔獣討伐は成功したのだ。その魔獣の正体を知りたかったところではあるが、討伐しなければ危険な相手だった。むしろ、全員が大きな怪我なく生還できていることを誇るべきなのだ。
(…。)
魔力核はどの魔獣も通常では考えられないほどの消耗していた。通常、魔力核が消耗するのは余程のことがないと起きない。栄養失調や極端な疲労の他には老衰等、魔力消費に対して回復が追いついていない時が主だった理由だろう。
(やっぱり気になる。何かおかしい気がする。)
そう思いながらもヒッカの瞼は重さを増していた。いつの間にかヒッカは眠りに落ちていた。
夜が更けて朝が来た。窓から差し込む日の光も徐々に柔らかなものになる。
「…。う、うーん。」
ヒッカは体を起こした。
(そうか。昨日はあのまま寝ちゃってたんだ。)
ふと隣のベッドを見るとラッフェルはスヤスヤと寝息をたてている。旅の疲れと魔獣の連戦で疲労もピークに達していたのだろう。
(俺ももう少し寝るかな。)
ヒッカはカーテンを閉めようと窓に向かった。静まり返った街の景色を見ていると、自宅の周りの景色とは随分と違う。改めて自分は旅に出たのだと言う実感を持った。
(せっかくだから少し散歩するか!)
顔を洗い、身支度を整え、口を潤す。ラッフェルへも置き手紙をして部屋のドア開けた。
外は少し冷んやりとした空気だった。人の姿も見えず、町は静寂に包まれていた。近くを流れる小川のせせらぎが聞こえるようだ。
「ふっ!ふっ!はー。」
思わず全身を伸ばす柔軟運動をする。
(さて、と。)
ヒッカはのんびりと歩き出した。何となく小川に向かうところで人の気配を感じた。
(…!)
思わず身構え、周囲を見渡す。
(誰もいない…。せめてマントくらいは羽織っておくべきだったか?)
静かに魔力を纏い、地面に耳を当てる。確かに人の声が聞こえる。宿から見えていた丘の裏辺りだろうか。ヒッカは慎重に歩を進める。
「はっ!やっ!」
その開けた空き地で発せられる声の主はジェイクだった。まだ早朝なのに武具をフル装備で鍛錬を積んでいるようだ。
「ジェイクさーん!おはようございます!」
一瞬、ギョッとした表情を浮かべたジェイクだったが、ヒッカの姿を見て表情を緩める。
「ああ。お前も早いな。何をしてるんだ?」
「俺は散歩ですね。何だか周りが気になっちゃって。」
「そうか。」
「ジェイクさんこそ、こんな朝から特訓ですか?」
「そうだな。ま、そんなところだ。」
ジェイクは苦笑しながらそう答えた。
「ちょっとだけ、な。行き詰まりを感じている。それを認めたくなくてこうしてるのかもな。」
それを聞いたヒッカは、ジェイクにしては珍しく弱気な発言だと思った。
「え?それってどう言うことですか?」
「…。」
「ジェイクさん?」
「ヒッカ、手合わせしないか?」
「手合わせ?」
「お前と打ち合ってみたい。頼む。」
頭を下げるジェイク。ヒッカはその申し出を断らずに受けることにした。
「分かりました。剣とマントを持ってきますので、ちょっと待っててください。」
「感謝する。」
ヒッカは宿に【エアライド】で向かった。マントを羽織り、帯剣するヒッカ。ラッフェルはまだ夢の中のようだ。ヒッカはドアを静かに閉め、ジェイクの元に向かった。
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