26話 ラッフェル、帰るよ
結局ヒッカがラッフェルに不合格を告げた後、ラッフェルは塞ぎ込んだままだった。
「ラッフェル、帰るよ。」
自宅への帰路は重い空気が流れていた。ヒッカはいつもより気合を入れて【エアライド】を唱えていたのだが、家までの道のりが果てしなく遠く感じた。
「兄さんお帰り。」
「ああ。ただいま。ミリィは帰ってきてる?」
「うん。帰ってきてるよ。」
「お兄ちゃーん!」
ローグがいい終わる前に妹のミリィが飛び出してきた。
「やあ。ミリィ元気してたか?」
「うん!もうすっかり良くなったよ!ほら!」
ミリィはクルクル表情を変えながら走り回っている。
(やれやれ…。ともかく回復してるのなら良かった。)
「この人もお兄ちゃんのお友達?」
「ん?ああ。そうだな。ラッフェルだ。ラッフェル、妹のミリィだ。仲良くしてやってな。」
「勿論スよ!師匠!ミリィ城ちゃん?俺は師匠の弟子のラッフェルって言います。俺も一つ下の妹がいるから紹介するっスね。よろしくっス!」
さっきまでの重苦しい空気とは打って変わって、まるで別人のような雰囲気で返すラッフェル。
「それってもしかしてフィリーお姉ちゃんのこと?」
こくりと頷くラッフェル。
「へー!そうなんだ!フィリーお姉ちゃんはもう家だよ。早く入って!」
ミリィはラッフェルの返事も聞かずに家に戻った。呆れ顔のヒッカは不意にラッフェルの横顔を見た。ラッフェルの横顔はさっきとはまるで別人のように落ち着いている雰囲気を醸し出していた。
「あ、お帰りー!」
「お兄ちゃん。ヒッカさん。お帰りなさい。それでお兄ちゃんの結果はどうだったの?」
「それは…。」
ヒッカが答えるより前にラッフェルが割って入る。
「いやー!それがさ、残念なことに不合格だったんだよなー。悔しいぜー!」
「もう!何してるのお兄ちゃん!」
「面目な〜い。」
「そうなんだ〜。いい線いってると思ったんだけどね。」
「俺も行けると思ったんスね〜。ま、今回は残念賞。大人しくお留守番してわすわ。なるべく早く帰ってくるんスよ。お土産もよろしく!」
フィリーは一瞬顔をくぐもらせたが、すぐに満面の笑みで返す。
「もうお兄ちゃんたら!遊びに行くんじゃないんだよ。お兄ちゃんこそお仕事しっかりしてね。」
「分かってますって。お任せあれ!」
ラッフェルのそれは強がりだった。彼が一番悔しいであろうのにも関わらず、気丈に振る舞う姿にヒッカは不合格の判断を下したのを少し後悔した。
(やはりラッフェルも連れて行くべきだったか?いや、一時の感情でパーティーを危険に晒す訳にはいかない。それに一歩間違えると大怪我どころでは済まなくなる。これでよかったんだ…。)
「ねね。ヒッカくん。これ見て?」
「何を?」
「ジャーン!」
「へえ。結構買ったんだね。」
「すげえな〜。俺もついて行きたかったぜ!」
「せっかくだからジェイクさんの好意に甘えてみたの。それに危ない旅なんでしょ?事前準備は大事だからね。」
ジャラジャラと大袋から取り出された装備品の数々。ライクとフィリーは姉妹のようにはしゃいでいた。
ライクはポンチョとグローブ、新しいブーツに対魔素材の服上下を揃えていた。軽くて動きやすい服装だ。魔法防御力もそれなりに期待できそうなので、炎属性相手にはかなり有利に立ち回れるだろう。
フィリーはローブと木靴に魔力を蓄えることができるペンダントだった。それに魔法圧縮比をあげる効果が期待できる水晶の付いた杖も手にしている。なるほど、後方支援を主目的にするのには適切な組み合わせだ。
「いいね。装備のバランスも良さそうだし、二人の特性にハマってそうだよ。自分たちで揃えられるなんてすごいよ。」
「えへへ〜。実はジェイクさんに見繕ってもらったんだぁ。」
ライクがニンマリと笑う。ヒッカはその笑顔に少しドキリとした。
「何だそうなのか。」
照れを隠しつつぶっきらぼうに返事をする。
「はい。お陰ですんなり決めることができました。」
フィリーも素直に笑った。ヒッカもつられて笑ってしまった。
「それは何よりだね。」
「あ〜。ヒッカくん、フィリーちゃんにだけ甘い〜。」
「そんなことないだろ?俺は普通だよ。」
そんな会話にもう一人参戦する。
「え!?なになに?お兄ちゃんってそんなにモテモテなの?いつから??」
ミリィが意地悪く微笑む。ヒッカもさすがに狼狽えらざるをえない。
「ばっ、そんなことないって!」
思わずムキになって反論するも余計に空回りするばかりだ。
ガチャ。ドアの開く音がした。
「おお。ヒッカか。帰ってきてたんじゃな。」
「あらあら。そちらの男の子はヒッカのお友達?ヒッカの祖母です。よろしくね。」
「おじいさん。おばあさん。こんにちは。最近知り合ったラッフェルです。冒険者を目指してフレアランドに来たんだ。みんな、俺のおじいさんとおばあさん。妹のミリィがお世話になってるんだ。ごめん。紹介が遅れたね。ミリィは俺の妹なんだ。ミリィこっち来て。ラッフェルと言って今冒険者の修行中なんだ。今日はミリィの快気祝いにこっちに戻ってきたんだ。」
「師匠のお祖父様とお祖母様っスね!よろしくお願いします!俺ラッフェル=マゴットって言います。立派な冒険者になれるように修行中です。師匠にも弟子入りしてます!」
「はい。よろしくね。これだけ人数がいると夕飯の作り甲斐があるわね。材料たくさん買い込んできてて良かったわ。」
「まあまあ疲れただろう。休んでいくといい。」
大量の荷物をドカッと机の上に置き、おじいさんは近くにあった椅子に腰掛けた。
「ミリィです。改めてよろしくお願いします。」
「ミリィは俺の時とだいぶしおらしさが違うな。」
苦笑しながらヒッカが言う。
「いいじゃん。お兄ちゃんは特別なんだよ。」
「お、そうか!?」
若干乗せられてる気がしないでもないが、ヒッカにとって悪い気がしないのも事実だった。
「おばあさん。父さんと母さんの他にももう一人、大人を呼んできても良いかな?冒険者の人で、俺明日からその人と少し旅に出るんだ。だから今日、おばあさんたちも紹介したくって。」
「構わないよ。一人くらいなんてことないわ。早く呼んできてあげなさい。」
「ありがとう。呼んでくるよ!ローグ。俺、少し家出るから任せた!」
「いってらっしゃい。」
「私も行きたい〜。」
「ミリィは家にいなよ。遊びに行くわけじゃないし、すぐ帰ってくるから。それに少しずつ体力付けてかないといきなり移動は疲れるぞ。」
ほっぺを膨らませて抗議の意を表明するミリィ。
「気持ちは分かるが、すぐだからさ。」
「…。」
なおもほっぺを膨らませるミリィ。
「ミリィちゃん。私たちと遊ぼうよ。何して遊ぶ?」
ライクがミリィの気を引く。ミリィはライクの言葉に興味を持ったようだ。
「…。」
ライクはヒッカに、今のうちに行ってと言わんばかりの目配せをした。
「…。」
それにヒッカは無言で小さく手を挙げ応えた。音を立てないように玄関を出て扉を閉めた。
そして大きく深呼吸した。ジェイクのところに行けば、明日の旅のことについて話すことになるだろう。そこでラッフェルを不合格と判断したことについても、触れざるを得ない。
戦力は欲しい。それにラッフェルの意気込みもかってあげたい。例え今は未熟でも、旅の中で学び急成長する可能性もある。ただ、ラッフェルのそれは現状では可能性が低そうだと言うヒッカの判断だった。
確かに体力は並以上のものを感じさせる。だがそれよりも彼の魔力の使い方が、戦い方に影を落としていることがヒッカは気になっていた。
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