24話 俺の全力を見せてやるっス!!
「ああ、こちらこそ。よろしくお願いします。」
フィリーのお辞儀に合わせてヒッカも頭を下げる。
「でもその前に。」
フィリーが胸元で手を叩く。
「ん?」
「ヒッカさん。連戦で疲れてませんか?ライクさんも。お兄ちゃんはもうボロボロだけど。」
くすっと笑うフィリーに、ラッフェルがと不貞腐れ気味に返した。
「良いだろ別に。」
にこやかに笑うフィリー。
「私の魔法で癒してあげます!」
フィリーがそう言うと静かに目を瞑り、魔力を集中させた。薄青い魔力の球体が浮かび上がる。そのまま球体を上空へ掲げた。
「【ヒーリングミスト】!」
球体は霧散し、辺り一面に広がった。
「これは…!?」
「何これ?体が軽くなってくる??」
「すごいっしょ?フィリーの魔法。」
いつの間にかフィリーの近くに来ていたラッフェルが自慢げに言う。
(これはかなりの高純度の癒しの魔法だ。一気に広範囲をカバーできるし範囲も狭くはない。それにこの感覚は?)
「すごいねこの魔法!体力が回復したし、何だか体も軽くなったよ。」
「でしょう?それもそのはずなんスよ。フィリーの【ヒーリングミスト】は強力な回復魔法であり、高純度の魔力を拡散してるんで他の人の魔力も僅かながら回復させることもできるんスよ!」
まさにラッフェルは鼻高々、と言う感じだった。
「それはすごい!」
ヒッカは確かにそう思った。これならパーティーの窮地を脱することができる可能性を秘めている。危険を伴う可能性がある旅路である以上、安全策はとっておきたい。
「フィリー。ありがとう。もっと君の力を見せてくれないかな?」
腰を落としながらヒッカが言う。
「勿論です。」
フィリーも戦闘体制に入った。
「行くよ!」
「行きます!」
やはり先手を打ったのはヒッカだった。瞬く間にフィリーの眼前に躍り出て、軽くデコピンをした。
「痛っ!でも負けませんよ〜。」
「いつでも来い!」
「やあ!はっ!えい!」
フィリーも頑張って攻めてきてはいるが、いかんせん強化度合いが足りないようだ。フィリーの攻撃は、ヒッカが軽くいなせるどころか、強化された木刀でも素手で受け止めることができるレベルだった。
(フィリーは回復特化タイプなのかな?それならそれで、これくらいの身のこなしがあれば及第点といった感じかな。)
そう考えながらヒッカは距離を取った。
「今です!【ウォーターボム】!」
「何?」
ヒッカがそう思った瞬間、ヒッカの頭上に水玉が出来上がっていた。
「えーい!」
そのまま水玉が落ちてくる。ヒッカはマントに身を包み防御の構えをとるが、それなりの質量の重みがヒッカに襲いかかった。ついでにずぶ濡れになった。
(これはこれは…。ちょっと重たかったかな?)
マントを払うとヒッカの目に飛び込んできたのは、魔力を集中させているフィリーの姿だった。
「なっ!?」
思わず上空を見上げる。今度は二つの水玉が浮かんでいた。そのままヒッカは後ろに倒れ込むように空気を蹴った。辛うじて落ちてくる一つ目の水玉を回避した。かと思うと眼前には二つ目の水玉が迫っていた。
「【エアライド】!」
まるで子供が人形で遊ぶかのように、ヒッカの体は瞬く間に宙に浮かんだ。
「危なかった。」
「ヒッカさーん!降りてきてください。」
「あ、ああ。降りるよ。」
フィリーの前に降り立とうとするヒッカ。
(威力自体はそこまで大したものではないけど、連射性も発動時間の速さも良い感じだ。もしかしたらコンビネーションで力を発揮するかもしれないタイプの魔法かな?それよりも全体回復だ。ついてきてくれると嬉しいな。)
軽やかな足取りでフィリーに近づくヒッカ。
「フィリー。君もごう…。」
「【ウォーターボム】!」
ヒッカが言い終わらないうちに再び放たれる魔法。
「っ!!」
さっきよりもさらに大きい水玉。ヒッカは無意識のうちに体を屈め、風属性を纏った右拳でその水玉を殴りつけた。
ばっしゃーと水玉は弾け、まるで霧のように辺りを濡らした。
「惜しい。まだですよ。」
「わー。もう大丈夫だよ。フィリー。十分伝わったから。君も合格だよ。」
「本当?やったー!」
「おめでとう。フィリー。やったね。」
「あー!妹に先を越されたー!」
フィリーとライクがハイタッチをしている傍ら、頭を抱えるラッフェル。
「こうなったら!俺も本気で行きます!!」
「お兄ちゃん頑張れー!」
「ああ!師匠!行きますよ!!」
「構わないけど体力は大丈夫なのか?」
「大丈夫っス!二人の戦い見てたら俺も疼いてきてたまらないっス!」
「分かった。来い!」
「俺の全力を見せてやるっス!!」
ガ、キン!再び無機質な剣戟があたりにこだまする。
「はぁはぁはぁ。っく!」
「どうした?自己強化だけでは厳しいぞ。」
「はぁ。はぁ。分かってるっス。」
そう言いながらも大振りの斬撃を繰り出すフィリー。無論、ヒッカは余裕を持って身をひるがえす。
「ここだぁー!」
ラッフェルが【ファイアボール】を放つ。ヒッカは拳を握った。そしてゆっくりと親指と人差し指を真っ直ぐに伸ばし、迫り来る火球に狙いを定めた。
「【ガストシュート】」
ヒッカの風魔法は火球を撃ち抜き、射線上にいるラッフェルの持つ剣を弾き飛ばした。
「…!」
慌てて剣を拾いに行くフィリー。
「ラッフェル!簡単に相手に背を向けちゃだめだ!」
ヒッカは攻撃を続けた。勿論本気ではない。
「くそ!」
剣を拾い上げ、ヒッカに向き直るラッフェル。相対したその瞬間、ラッフェルの目はまだ生きていると確信した。
(まだ…君の力を見ていない。こんなものなのか?俺に本気を見せてみろ!)
間を空けず二発目の【ガストシュート】をヒッカは放った。その風玉はラッフェルの左肩に直撃し、そのままラッフェルは体勢を崩して転んでしまった。
「ごめん!ラッフェル。怪我はない?」
「…っス。」
「え?」
「俺は大丈夫っス!!まだ終わらないっス!」
鬼気迫る表情のラッフェル。ヒッカはその迫力に驚いた。
(体力がすごい。それに打たれ強いな。これだけ走り回っているのにまだ動けるとは。)
ギン!ギィイン!ガン!
ラッフェルは我武者羅に剣を打ち込んでくる。だがその剣は勢いこそあれ、あまりにも真っ直ぐなのでヒッカはその剣を容易に受け流していた。
ガ…ギン!
(ここだ!)
ラッフェルの剣を弾き飛ばしたヒッカは、ラッフェルの懐に入り魔力で強化した左拳を打ち込んだ。
「っあ!…。」
膝から崩れるラッフェル。
「ラッフェル。一旦休憩しようか。お昼も過ぎてるし、午後からも忙しい。」
「…っス。」
ラッフェルの反応は暗かった。それは自分の信じて振るってきた剣が、通じなかったことなのか。それとも剣士ではない人間にいなされてることにショックを受けているのか。はたまた単純なヒッカとの力量差に驚いているのか?その答えは傍目には分からなかった。
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