12話 ヒッカはどうしたい?
「英雄…ですか?」
「そうだ。お前なら世界を救うことができるかもしれない。」
「そんな。大袈裟じゃないですか?それに世界を救うだなんて。そもそも何か世界の危機に心当たりは…。」
そう言いながらヒッカは言い淀んだ。
「今の世界が平和に思えるか?ここフレアランド王国は豊かな国だ。魔法大国だけあって優秀な魔法使いだって大勢いる。それだけじゃなく騎士や戦士も多いだろう。だが、今世界は厄災に見舞われ始めているんだ。お前も見ただろ?あの村での魔獣を。それに親が王宮勤めなら何か慌ただしい様子などはなかったか?思い当たる節はないか?」
ヒッカは黙ってジェイクの言葉を反芻していた。確かに思い当たる節はある。ジェイクの言う魔獣の話もそうだ。母からも厄災の復活を聞いた。そして何より、つい先日に学園を襲ったドラゴンだ。仮にドラゴンが今後も成長するであろうと仮定すれば、あれだけの脅威は早急に手を打つべきであると思った。ヒッカはジェイクにそのドラゴンの話をした。
「そうか。そんなことが…。」
「ジェイクさんはドラゴンを討伐したことあるんですか?」
「ん?俺はないね。それにドラゴンは中型以上の獲物を狩るのであれば、ある程度のメンツが揃ってないと厳しいだろうな。」
「でも聖騎士だったんでしょ?それなら治安維持にドラゴン討伐もあったのかなって。」
「それはそうだが…。」
どうもジェイクは聖騎士時代の話をするとバツが悪そうだ。
「そう言えば結局旅の目的って何ですか?英雄になるためだけだとあんまりイメージわかなくて。」
「ま、それもそうだな。早い話が人探しだ。それ以上でもそれ以下でもない。だがそれはいい。俺についてこないか。お前の知りたがってる魔法の秘密について教えてやれるかもしれないし、俺が剣の稽古をつけてやる。俺とお前がコンビを組めば怖いものなどないだろう。そして各地で実力をつけて、名声を高めて周りに己の力を認めさせるんだ。」
「ふーん。それって各地で魔物を狩る魔物ハンターや冒険者ってこと?」
「それもあるかもな。だがお前は魔導士だけを目指すには惜しい。俺の勘は当たる。お前は戦士の道も目指すべきだ。」
「ん〜。そうは言っても、俺はまだまだここで学びたいんだ。」
「そうか…。」
意外とあっさり引いたジェイクに、ヒッカは少し戸惑った。
「まあいいさ。俺は武具の修理が終わるまではあの宿にいる。気分が変わったら来てくれ。」
こくりと頷くヒッカ。
「さてと。日も暮れてきたし今日はそろそろ引き上げるか?」
「いえ、せっかくなんで組み手を少しやってみたいです。」
ヒッカが魔力を高める。
「タフなやつだな。だがいい面構えだ。お前は大きくなるだろう。」
ジェイクも魔力を高め、ヒッカに応えた。
「ふー。さすがにそろそろ終わりにしないか。夜になってしまう。」
息が上がったジェイクが言う。
「もう少しで何か掴めそうだったんですが…。」
息荒くヒッカが言う。
「とことんタフだな。俺はまだ数日まだここにいるんだ。お前さえ良ければ明日も相手をしてやる。」
「いいんですか?ありがとうございます!」
「男に二言はないさ。さて、帰るか。流石に空腹だ。」
「ですね。では、行きますよ!」
ジェイクを連れ、ヒッカは【エアライド】で家路についた。
ヒッカと別れたジェイクは食事を摂っていた。
(ヒッカ…アイツは本当に何者なんだ?魔導士見習い、いや魔法士見習いか。だがその割には魔力最大量はとてつもなく大きい。使ってる魔法もそつなくこなせている。それに加えてあの身のこなしと魔力圧縮比。途中でガス欠になるどころか最後には俺を連れてこの町まで飛んでくるだけの余力があった。魔力回復量もそれなりに高いかもな…。)
ジェイクは空になったスープ皿を見つめていた。
(アイツの力は欲しい。奴を探すのにも時間がかかる。奴はもっと強くなってるだろう。今のままでは俺は奴に勝てないかもしれない。)
ジェイクは左腕の包帯を無意識に触れていた。
(ヘレナ…。俺は…。)
一方のヒッカは、家族と共に食事の席についていた。数日ぶりの自宅での食事。たった数日だったが、懐かしいような不思議な感覚を覚えた。
「明後日、おばあちゃん達もうちに来るからね。」
母の声にヒッカの心は弾んだ。祖父母が来ると言うことは妹も一緒に来ると言うことだ。妹は病を患いしばらく祖父母に預けられていたのだ。祖父母の住む場所は町のはずれにあり、そこから少し足を伸ばせばマナの豊富な聖域に行くことができる。病の治療にはうってつけと言うことだ。
「ミリィの病気、治ったんだ?良かった。」
心から安堵した表情のヒッカ。ミリィは学園の初等部に通うヒッカ達の妹だ。しばらく前の長期休暇の折に、高位魔法の儀式に巻き込まれたミリィ。だが治療の甲斐もあり、回復も順調のようだった。
「もう三か月かな?早くミリィとご飯食べたいなぁ。」
呑気な声のローグ。
(何かお祝いしたいな。)
ヒッカはボンヤリと考えていた。
(何か花がいいかな?そう言えばヒルビルド山に珍しい花が咲いてたな。)
とここで、ヒッカはジェイクからの言葉を思い出した。
「父さん。母さん。少し話があるんだ。」
ヒッカはジェイクとのことを話した。
「でさ、そのジェイクさんから旅について来ないかって言われててさ。どうかな?学園はしばらく修復で休みみたいだし、ここで見聞を広めるのもいいかなって思ったんだ。」
「それで?」
父のグランがヒッカに問いかける。
「ヒッカはどうしたい?」
「俺は…まだよく分からない。ただ、あの人の魔法に興味を持ったんだ。そして俺を必要としてくれてるみたいだし、自分の力がどこまで通用するのか試してみたいとも思ってる。」
「…。」
肯定も否定もせず、グランは黙って聞いている。
「何ができるか分からないけどさ。俺、旅に出てみようと思うんだ。」
「お前は話が急だな。」
グランが苦笑する。
「本当ね。」
シェリーも苦笑いの表情を浮かべている。
「確かにここ数日の騒動で人がこの町から出て行っていると言う事実もある。」
グランが語る。
「それに学園の方も建物の復旧までにしばらくかかりそうだからね。向こうしばらくは学園に通えなそうだし。いっそのこと外の世界を見てくるのはありかもね?」
「まあな。しかしまさか、お前からそんなこと言われるとは思わなかったぞ。いつ発つつもりだ?」
「まだ決めてないけど数日中には…かな?」
「そうか。はやる気持ちも分かるが、せめて明々後日はどうだ?せっかくミリィも帰ってくるんだしな。」
「そうか。そうだね。」
ヒッカの返答にグランは満足したような表情を浮かべた。ヒッカとグラン、シェリーとローグを交えたヒッカの旅立ちの話で夜は更けて行った。
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